甘夏と青年

宮下

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26 手のかかる相棒

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「ヨネさん。私、来週退院することになりました」

 律が静かに口を開く。
 退院については、先程の診察で先生から言われたばかりであった。
 突発的な発作もなくなり、病態も安定してきたため、今後は通院をしながらの自宅療養という判断になったのだ。

「……そうなの。寂しくなるけど、本当に良かったわ」

 少しの間を空け返事をしたヨネは、少しだけ寂しそうな笑顔を律に向ける。

「ヨネさん、私ね、退院して身体が慣れてきたら前の職場に復帰しようと思っているの」

 律はヨネに今後の目標を伝える。
 これまでヨネにはウジウジと悩んでいた姿ばかりを見せていたため気恥ずかしいが、だからこそ落ち着いてしっかりと報告をしたかった。

「それは素敵ね。私もりっちゃんの頑張っている姿を見たいわ」

「見てよ。まだまだ長生きしてよね?」

「そうね、まだ頑張らなくっちゃね」

 入院当初の律が、果たして今の自分の姿を予想できていただろうか。それ程までに律の心にかげりは感じられなくなっていた。
 まるで平らかに、これから歩むであろう自分の人生に希望しかないのだ。

「私がりっちゃんの病気も、一緒に連れて行ってあげられたらいいのに」

 ヨネは再度寂しい笑顔を浮かべる。

「いいえ、ヨネさん」

 律はそんなヨネに対し首を横に振り、心からの笑顔を見せる。

「私はこの病気と、体と、一緒に生きます。この病気がきっかけで沢山の人と出逢いすぎて、沢山のモノを貰いすぎて、手放すのが勿体なくなっちゃった」

 これは律の病態が運よく回復に向かったから言えることなのだろう。とんだ綺麗ごとだ。
 だが、律の正直な思いには違いない。
 確かに病気を患ったがために、手から零れ落ちたものや、苦しい経験もあるだろう。
 しかし、そんなことは病気の有無に関係なく、全ての人に当てはまるのだ。

 誰一人として同じ生き方をしてきた人はいなく、寸分違わず同じ考えの人もいない。自分と他人の心憂いポイントも異なるのだ。
 そうとなればいつまで悲観していても勿体ない。辛い思いをしてきた。悲しい経験が心を蝕む。それがどうした、知ったことか。

 いや、否定はしない。そんな過去の自分も受け入れてやってあげよう。

 今の自分にとってこの病気は手のかかる相棒で、そんな存在は誰にだって在るだろう?


 律の言葉にヨネは「そう。そう」と白く綺麗な歯をニッと見せ、目尻をクシャクシャにして優しく微笑んで見せた。

 それから律とヨネは残り少ない病院での二人の時間を楽しむと、林檎を載せた皿はあっという間に空っぽになっていた。


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