甘夏と青年

宮下

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25 ヨネの傍で見た景色

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 望月の訪問から一夜明け、中村から伝えられていた院長の診察を終えた律は、自分の病室へと戻っていた。

「りっちゃん、戻ったかしら?」

 入り口のドアを開けると同時に、ヨネのベッドから律の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

「どうされました?」

 呼ばれたままにヨネのカーテンを覗くと、そこにはカットされた林檎が並べられている皿を持ち、微笑みを浮かべているヨネの姿があった。

「貰った林檎を剥いたのよ。一緒に食べましょう」

「いいんですか? ありがとうございます!」

 律は促されるままベッド脇の椅子に座り、爪楊枝が刺さってある林檎に手を伸ばす。

「美味しそうですね……、って!」

 しかしその瞬間、ヨネの外見の変化に気付いた律は、飛び跳ねるように驚いてしまう。

「ヨネさん! 髪の毛! 変わってる!」

 ヨネの髪型がいつもの白髪ショートカットから、カールのかかった茶髪のボブカットへと変わっているのだ。
 思い切り間抜けた顔の律を見て、ヨネは愉快そうにケタケタと笑い出した。

「そう、ウィッグを変えたのよ」

 まさかヨネの髪の毛がウィッグだったとは。
 あまりに自然過ぎて、今の今まで気付いていなかった律は驚きを隠せないでいる。

「素敵! すごく似合っていいます!」

「そう? ありがとう」

 律の素直な賞賛に、ヨネはくしゃっとした笑顔を浮かべる。

「私、放射線治療で髪の毛がないのだけれどね、ウィッグ集めとお買い物とお化粧が趣味なのよ。だって、いつまでも可愛くキレイでいたいじゃない? 女の子だもの」

 そう笑うヨネはとても可愛らしく、道理で普段からお洒落で魅力的なのかと律は腑に落ちる。

「私ね、余命半年って言われているのに、この間、車を買ったのよね」

「ええ!?」

 余命半年という言葉も相当に深刻な筈なのだが、その後に続く言葉のインパクトに全ての驚きを持っていかれてしまった。

「自分で色んな場所にドライブしたいと思ってね。後悔したくないから買っちゃったの」

「すごい……行動力ですね……。運転には気を付けてください」

 あまりの衝撃に律は可笑しな返しをしてしまう。
 そんな律の反応を受け、ヨネはさらに愉快そうに笑って見せる。

「人生やった者勝ちよ、りっちゃん」

 人生の大先輩の言葉に、律の顔が自然と綻ぶ。

「はい」

 ヨネとの会話は、余命や病気などは人生の楽しみ方になんら関係がないと再三思わせてくれる。
 日々のヨネのベッド脇で過ごす時間。
 窓からの木漏れ日と、微かに流れ入る清涼な風が心地よく、こんなにのんびりと温かな日々を過ごせたことは今までになかった。大人になると仕事や家事に追われ、ゆったりとした時間を作ることは難しくなる。

 優しくて、温かくて、まるで子どもの頃にタイムスリップしたかのような気持ちにさせてくれるこの時間。
 律はこの場所で、十二分に心を充電することができたのだ。

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