イトコノジロタ

碧蜜柑

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ジロタのカノジョ

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ある朝、ジロタの弁当がなかった。

『お母さん、ジロタの弁当は?』

『今日は、彼女が作ってくれるんだって。ジロちゃん彼女いたのね~。』

『ふーん。』

まあ、私にはどうでもいい話だ。

いつも迷惑かけられてるんだから、たまには楽してもいいよね。

『お母さん、おかわり。』

『麻央、珍しく食べるのね。』

『うん、お腹空いてるの。』

私は、おかわりしたご飯をかっこむと、身支度を整えて、学校へ向かった。

いつもより胃がムカムカするのは、食べ過ぎたせいだろうか?




学校へつくと、私の席に女の子が座っていた。

ジロタの彼女だ。

『あ、ごめんなさい。』

ジロタの彼女は、私に謝ると、教室から出ていった。

『おはよう!麻央、俺の彼女可愛いでしょ?』

このヘラ男は、人の気持ちも知らないで…って私の気持ちってなんだ?

『よかったね、あんたにはもったいない彼女だよ。』

『やっぱり?俺もそう思う。』

またヘラヘラして!!…と思ってジロタの顔を見ると、いつになく真剣な顔をしていた。

なんだか、ジロタが知らない男子みたいに思えた。

怖い、どうしよう。

『じ…ジロタ、お母さんも弁当作る都合があるから、要らないなら早めに言ってって。』

『うん、わかったよ。そんときは2つ食べるし。』

ジロタはいつものヘラヘラ笑顔に戻っていた。

私はほっと胸を撫で下ろした。




それから、頻繁に、彼女がうちのクラスに出入りするようになった。

とうとう本妻から乗り換えたなんて噂が流れた。

乗り換えたなんて彼女に失礼だと思う。

色白で、上品な顔立ちの清純な美少女。

そんな彼女が浮気相手扱いなんて、可哀想だ。

むしろ、彼女の方が…。



ちょっとまて。

私は、二人の間に何の関わりもない。

ただのいとこ。

何を悩んでるんだ。

無意味だ、不毛だ、やめよう。

それでも、気持ちは不穏だった。

何で私が…。




部活帰りにジロタの彼女に呼び出された。

この子も誤解してるのか。

ジロタのためにも誤解を解いておかないと。

『浅井さんは次朗太君のことどう思ってる?』

やっぱり。

ちなみに次朗太はジロタの本名。

『私はただのいとこ。兄弟みたいなもんだよ。』

私の答えに、彼女は目を潤ませて、話した。

『私たち付き合って、半年になるのに、手も握ったことないの。だから、他に本命がいるのかなって。知らない?』

本命が私だと思って来たのか。

にしてもなんだろう、この子本当にかわいい。

ジロタは何故、こんな可愛い彼女に手を出さない?

男なら放っておかないだろう。

『ごめん、知らない。あんまりジロタとはそんな話しないから。』

『そっか…ごめん…。』

彼女は、肩まで伸びた黒髪を翻して立ち去ろうとした。

すると、突然こちらを見て、私にこういった。

『浅井さん、彼のことジロタって呼ぶのやめてもらえる?彼女として気分よくないから。』

彼女はそういうと、走り去っていった。





ちょっとまて。


ちょっとまて。



なんだ今のは!?

私、もしかして、牽制された?

何で?

ジロタとは兄弟みたいなもんだって、はっきり言ったよね?

私がジロタと呼ぶのは、家族内でそう呼んでるからだし、家族以外の人に何故そんなことを言われないといけない!?

しばらく立ち尽くしていると、心配したゆかりが迎えに来た。

『麻央大丈夫?』

『ゆかり…女って怖いね…。』

『うん、怖いよ…。』

校舎裏で、女二人の、夕日の中立ち尽くした。






その日の夜、風呂上がり、私はジロタに聞いてみた。

『次朗太君、彼女とはどうなってるの?』

『ちょ、お前、なんだよ、いきなり、次朗太とか気持ち悪いな。』

そっちかよ。

ってか、次朗太はあんたの本名だ。何故気持ち悪い。

『次朗太君、真面目に答えて。』

『麻央、マジやめて。腹痛い。』

自分の名前でこんなに笑えるやつも珍しい。

『もういいや、聞くだけ無駄みたいだから。』

私が立ち去ろうとすると、ジロタが私の腕をつかんだ。

『何?麻央妬いてんの?』

私は、ジロタの手を振り払った。

『妬いてないし!!妬く理由もないし!!』

『大丈夫、彼女とは何もないから。』


それが困るんだよ、このボケ男!!


ジロタはご機嫌で自分の部屋へ向かった。

なんなんだよあいつは…。





日曜の朝、私がパジャマでパンを食べていると、ジロタが私の肩を叩いた。

『俺、今日、決めてくる。』

『は?何を?』

私の問いには答えず、ジロタはいそいそと出掛けていった。

『ジロちゃん今日、デートだって。年頃ね。』

………決めてくるって、そういうこと?



いちいち私に宣言するな!!



『私嫌よ、息子が中3で父親なんて…。』

伯母さんがポツリと言った。

やっぱり…そういうことなの?

私は、気がつくと、パンを6枚も食べていた。









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