イトコノジロタ

碧蜜柑

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ワタシとシュラバ

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日曜の昼前、帰ってきたジロタは上機嫌で、部屋で爆音で音楽を聴いていた。


早くね?


なんだろう、私たちの誤解だったのかな?

伯母さんも何もないような顔をして、洗濯物を干している。

やっぱり何もなかったのかな?

私は、とりあえず、パジャマのまま、ベッドで漫画を読みながら、ジロタの部屋から聞こえる音楽を聴いていた。

次の日、恐ろしい事件が起きるとも知らず、のほほんと過ごしていた。





月曜の朝、いつも早出していないはずのジロタが伯母さんたちと朝飯を食べていた。

『なんだ、ジロタ…次朗太君もいたの。』

ジロタが味噌汁を吹いた。

『お前、笑わすなよ。いつまでそう呼ぶ気だよ~。』

あんたの彼女が嫌がるんだよ。

私は、ジロタを放っておいて、朝飯に手を伸ばした。

『なあ、麻央、今日は一緒に学校行こうか?』

『誤解されるから嫌。』

『いいから行こうよ。』

アンタがよくても私はよくないの!!

私が無視していると、ジロタは私の鞄を持って、玄関に向かった。

『ちょ…。私の鞄!!』

私は珍しく朝食を残して、ジロタを追いかけた。




『ちょっと、鞄返して!!』

『ダメ、返したら、一緒に来てくれないっしょ。』

背が高くて腕の長いジロタから鞄をなかなか奪えない。

仕方なく私は、ジロタの横を歩き始めた。

『今日は、どうしたの?ジロタ変だよ?』

ジロタはニヘラと笑うと、私の頭に手をおいた。

『やっとジロタって呼んでくれた。よかった。』

なんだそれ?

いつもジロタは私の問いには答えない。

しばらく歩くと、小さい頃、ジロタと二人で登った、大きな木の前についた。

ジロタはふーっとため息をつくと、真剣な顔をして、
『大事な話がある。』

と言った。





いつになく真剣なジロタの表情に、私は無言でジロタの顔を見つめた。

『次朗太君、何してるの?』

ジロタの後ろから、ジロタの彼女が顔を出した。

ジロタがため息をついた。

『そっちこそ、ここで何してんの?』

『迎えに来たんだよ。』

そう言うと、彼女は、ジロタの腕を握った。

『もう、やめてくれよ!!』

ジロタは彼女の腕を振り払うと、私の手を掴んで歩き出そうとした。

『ちょっと、良いの!?彼女でしょ!?』

『あんなやつ彼女じゃねー。』

ジロタは怒っていた。





『痛いっ!!』

突然、後ろから髪を引っ張られた。

『やめろって!!』

ジロタが怒鳴って、私の髪を自由にしてくれた。

彼女が、すごい形相で私を睨んでいた。

日本人形みたいな子が睨むとすごい迫力だ…何て考えていると、彼女が私に鞄を投げつけた。

『あんたが次朗太君に何か言ったんでしょ!?じゃなきゃこんな急に…。』

彼女が私に殴りかかろうとしたとき、彼女の手をジロタが掴んだ。

『いい加減にしろ。こいつは関係ない。俺があんたを嫌いなんだ。』

ジロタが彼女を睨んでいた。

怖い…。ジロタが怖い…。

彼女は、『もういい…。』そう言うと、とぼとぼ歩いていった。





『悪かったな。』

ジロタが私の頭に手を置こうとしたとき、自然に体が震えた。

気づいたジロタはそのまま手を下ろした。

『学校行くか。』

『私、忘れ物した。先いって。』

私はジロタの顔を見ずに、家の方に歩き出した。

しばらく歩いて、後ろを振り替えると、ジロタはいなかった。

ああ、行っちゃったんだな…。

急に肩に当たる風が冷たく感じた。






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