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騙された男
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しおりを挟む「……おーい、大丈夫かー」
「……ぁ……ん……ん……」
「……大丈夫、じゃなさそうだな」
自分の順番を控え、ベッドに向かう途中でソファの上でぐったりしているヒナに声を掛けるも、返ってくるのは甘い喘ぎ混じりのぼんやりとした返事のみ。
「リョウくん、やりすぎだよ……」
「あー……たしかに……NG行為せーへんかったらええかと思って調子乗ったわ……今日がはじめてやのにすまん」
コタに咎められたリョウも、いまだ起き上がれず甘い空気を撒き散らし続けているヒナを抱えてクッションのところに戻りながら、流石に度が過ぎたかと素直に反省している。
それなのに、そんなリョウに対してヒナが、
「だいじょぶ……その……きもち、よかった、し……」
なんて蕩けきった顔をして言うもんだから。
「……ルイくん、さっきは大変やったっすね……」
「でしょ?分かり合えて嬉しいよ、リョウ……。大丈夫、あとは任せて」
「……っす。ほんならあとは頼みますわ……」
まるで散りゆく戦士のような会話をルイと繰り広げ、今度はリョウが、クッションの海へと沈んでいった。
そんな二人のやり取りを見届けるとついに、俺とリンの持ち時間が始まった。
ここに初めてやって来た、あの日。
他の生徒達の自己紹介を見て、俺はリンに一目惚れした。
背は低めだけど意外とガタイが良くて、水分を多く湛えた猫のような大きな瞳はキラキラと輝いているのに誰とも目を合わせようとせず、恐ろしく整った可愛らしい顔はどこか守ってやりたくなるような雰囲気が滲み出ているのにずっと仏頂面で笑顔など一切無く、馴れ合いは嫌いだと言わんばかりに多方面に棘を出していて、何もかもがチグハグで。
だけど俺の野生の勘が、これはきっとこの子の本当の姿じゃない、そう言っていた。
いや、実際どうかなんて、そんなのは本人にしか分からないことだけど。
でも何故かどうにも彼には別の顔がある気がしてならなくて、彼のことをもっとよく知りたい、そう思った。
俺は、元気で優しくて笑顔が可愛い人が好みなのに、リンはそれとは真逆のタイプだ。
第一印象だけで言ったらその後の施設見学で同じグループになったヒナのほうが、笑顔が可愛らしくて優しくて、どちらかと言うと俺の好みのタイプに近かった。
だけど話をしていくうちに俺の中で、ヒナは弟……と言うか妹のような存在になっていて、実技講習の相手役の希望を書く時、俺はボディタッチの相手役にヒナ、キスの相手役にリンの名前を書いた。
勿論ここは性的な技術や知識を学ぶ施設なのだから、最終的にはネコ全員とそういうことをするし、それに対して抵抗がある訳では無い。
ただ、本能的に『キスしたい』『抱いてみたい』と真っ先に思ったのは、やっぱりリンだった。
……そして今、そんなふうに一方的に想いを寄せた相手が目の前にいると言うのに、あろうことか俺はキスをするどころか抱き締めることさえ出来ずにいた。
「…………?さっきも言ったけど俺、別に触んななんて思ってないから」
何も行動を起こさない俺に、リンはさっきのマサの時と同じだと思ったのだろう。
でも俺がリンに触れられない理由は、マサとは違う。
「あー、分かってる。……そうじゃなくて、その……」
「なに?……ああ、そっか、分かった。俺がヒナやユウみたいに可愛くないからか……」
俺と目も合わせず、自嘲気味に笑いながら、けれどどこか悲しそうに『可愛くない』そう言い捨てたリン。
彼のその言葉を聞き、その表情を見た瞬間、頭の芯がカッと熱くなるのを感じ、気付いた時には俺よりだいぶ小柄なその身体をベッドの上に押し倒していた。
「お前は馬鹿か!!なんでそんなこと言うんだよ??!逆だ、逆!!」
「え、うるさっ、え、なに?」
俺があまりにデカい声で叫ぶもんだから、俺の下でリンがやや迷惑そうに顔を顰めているが、今はそんなんどうだっていい。
こうなりゃヤケだ、と、俺は言葉を続けた。
「……可愛すぎてできないんだよ……」
「……………………は?誰が?」
「リンが」
「どこが?」
「全部」
「なんで?」
「知らん」
そう、俺は情けないことに、リンのあまりの可愛さに動揺し、キスをすることが出来なかったのだ。
俺の口からその事実を聞かされたリンはたっぷりの間の後に気が抜けたような声を出し、それから誰が?と訊ねてきたがこの状況でそんなのリンしかいないし、どこが可愛いかなんて全部に決まってるし、なんで可愛いかなんてそんなのこっちが聞きたい。
だから全ての問いに即答すれば、リンは信じられない物を見るような目で俺を見た後、ぶわぁっと顔を真っ赤にして狼狽え始めた。
「な、な、……なん、で、俺なんか、可愛くな……」
「俺なんかとか言うな。ていうかさっきユウだってお前のこと可愛いって言ってただろ」
「あ、あれはマサとキスした直後で多少、その……ぽーっとしてたからでしょ?けど別に今は可愛い要素なんてどこにも……ユウみたいにあざといことも言えないし、ヒナみたいにピュアでもウブでも無いし……ただの仏頂面した野郎じゃん……」
「それってさぁ、本当にリンなのか?」
「…………………………は?」
ずっと気になっていたことを口にすると、またたっぷりの間の後に気の抜けたような声を出したリン。
俺はそんなリンにお構い無しに、思っていたことをぶつけた。
「なんでか分かんねぇけど、俺にはリンが無理して仏頂面してるように見えるんだよ。その仏頂面してるのが本当のリンなんだったらごめんだけど」
俺の言葉に、リンの大きな瞳が揺れる。
「まぁでも、仏頂面してたって可愛いけどな~。ちっこいクセしてガタイ良いのに、なんか守ってやりたくなるオーラ出てるし」
「ちょ、たんま、ストップ、も、もういい……」
俺の言葉を遮ったリンは、両手で顔を覆い隠し、俺の下でプルプルと震えていた。
一体どうしたんだろう、俺は何か変なことを言ってしまったのだろうか?と首を傾げていると、十五分経過を知らせるアラームが鳴った。
「うわ、マジかよ!キスもハグも出来なかった……」
元はと言えば自分のせいだけど、一目惚れした相手との初回の講習が何も出来ずに終わってしまったことに肩を落とす。
ただ、抱き起こしたリンの両手の下から現れた顔は真っ赤で、その大きな瞳は涙で潤んでいて、まるで縋るように見上げてくるのがあまりにも可愛かったから、その顔を見られただけで十分と思うことにした。
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