何でも屋さん

みのる

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第5話 聖なる日の小さなお客様。

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街はどの女の子もソワソワして慌ただしい。繁華街ではチョコを選ぶ厳しい女性陣の目が光る。
“……今年ももうそんな時期か……。”店主は苦笑いした。一年が経つのはあっという間だ。
たまの背中を撫でて毛並みを揃えてやっていると、店の引き戸をそれは重たそうに、懸命に開けようとする珍しいお客様。思わず店主はそのお客様の入店のお手伝いをする。

『こんにちわ~!!』

可愛らしい女の子のご来店だ。確かに当店ウチには買えない物は無い。歳は5歳位だろうか?こんな小さな子が、ウチに何の買い物が?思わず店主は不思議になる。

ふと、その子が目をやった先には……我が店のマスコットキャラクターである猫、たまの姿が。
女の子は瞳を輝かせた。

『かぁわいい~♪♪』

暫したまとの戯れTIME。
大人しいたまは、逃げもしないで女の子にひたすら撫でられていた。
ふと、時間を思い出したかのように女の子は我に返り泣く泣くたまに別れを告げた。

そこでその子がニコニコ笑いながら、店主を見て元気にこう言った。

『ちょこれーと、ありますか!?』

…あるにはあるが…。苦笑いをしながらとりあえず、ある物全てを出してみる。

『どれがいいんだい?』

若干子どもが苦手な店主。思わず対応も普通のお客様扱い。
女の子はひとしきり全部のチョコレートを見て…それから恥ずかしそうにこう言った。

『これ…みっつください…』

その子の指差したのは、チロリンチョコ。この店では10円の物から扱っている。
女の子はおまけに店主にこう言った。

『ぷれぜんとようにしてください!!』

…なんとぉぉ!…手先は不器用では無いが、ラッピング等は経験がない。仕方ない…店主は『奥の手』を出した。

『ちょっと待っててくれな』

女の子にそう言い…店主は店の奥に消えた。

そして代わりに現われたのは…キラリと光る眼鏡!際立つ大きな唇!!ショートヘアな女性であった。

『君かな?チョコをプレゼント用にして欲しいっていうお客様は』

その女性は不敵に笑った。

※本人はにっこり笑顔をつくったつもりです。

その笑顔に恐れおののいた女の子に気付かずに、タラコ唇な女性は丁寧にラッピングを始めた。3分位して…

『はい、出来た!!』

にた~っと笑うタラコ唇な女性から恐る恐る包装されたチョコを受取り…女の子は忘れずに、タラコ唇さんにチョコレートのお金を支払った。

※本人は超!笑顔なつもりなのです。

『これでぱぱにちょこれーと、わたせる!おばさん、ありがとう!』

最後にしっかりタラコ唇さんにお礼を言い、重たそうに引き戸を開けて…女の子は帰って行った。タラコ唇さんは引きつり笑いを浮かべながら、女の子に手を振った。

『あの子…帰ったんか?お前』

店の奥からたまを抱いて店主が現れる。タラコ唇さんは何とも言い難い顔をして、店主を振り向いた。

「私、もうおばさんなんやね」

ボソリ呟く。
店主もにや~と笑いながら、

『仕方ないさ、僕もオッサンだし』


女の子は家に帰って父親の帰りを今か今かと待つ。

『ただいま~!』

待ちに待った父親の帰宅。女の子はモジモジしながら、

『ぱぱ……はいっ!!』

父親に、隠し持っていたチョコをプレゼントした。

『ありがとう!嬉しいな♪開けてもいいかい?』

実は甘いものが苦手な父親。娘にチョコをプレゼントされ、嬉しい反面複雑な心境になり後で嫁さんにでもやろうかと内心思っていた…ら、

『いまたべて~♪』

と娘にせがまれ、泣く泣くおずおずと1つ口にする。思わず、そのあまりの美味しさに父親は顔をほころばせた。“これが本当に1つ10円のチョコなのか!?”と、かなり不思議になった。

『ありがとう♪とても美味しいね?』

と娘にお礼を言うと、娘が恥ずかしそうに嫁さんの元へ走り去っていった。

それを見送った父親が”もしや甘いものが食べれるようになったのか?“と思い、嫁が自分用に買ってあったチョコを1つ摘まみ食いした。するとそのチョコの甘いこと!?

「ヤッパリ甘過ぎるじゃないか…」


と呟きながら、涙目でのたうち回る父親がいた。
その姿を娘に見られた父親。不思議そうな娘に、

『ぱぱ、なにしてるの~?』

と聞かれ返答に困る父親だった。
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