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第25話 花火大会翌日(超長編)
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花火大会の翌日、市役所では早朝から電話が鳴り響いていた。
電話は市民や都道府県等役所関係者からの声で、花火の賞賛やどこで手に入れれるかの問い合わせ、花火構成に対する苦情が多数寄せられており、中でも花火構成への苦情が圧倒的に多く職員は朝から電話の対応に追われており市の電話回線はパンク寸前だった。
そんな市役所の会議室では怒号が響いていた。昨日実行委員副会長が勝手に花火の打ち上げ順序を変更した事が明るみになったからだ。
実行委員会長が怒鳴り散らす。
『この大馬鹿者が!!なぜ勝手に花火の打ち上げ順序を変更したんだ!お前の所為で朝から苦情が殺到しているじゃないか、苦情の全てが花火の構成についてだ!本来なら花火大会は大成功に終わるはずだったんだぞ、どうするつもりなんだ!?』
実行委員副会長はただ謝る事しか出来ない。
『申し訳ありません……』
実行委員会長は、
『こんな調子だと、来期の副会長の席は無いと思っておきたまえ!』
と釘を刺す。
実行委員副会長は、
『・・・はい、申し訳ありません』
と言い会議室を出る。
一方市役所の受付には、じいさんが苦情を入れに来ていた。
じいさんが受付につくなり…般若の様な顔で怒鳴る!
『花火実行委員の者を出せ!!このワシに恥をかかせおってからに!!』
と言った具合に酷く御立腹になられていた。
受付の女性は申し訳無さそうに対応する。
『すみません、今現在職員総出で電話の対応に追われておりまして、手の空いている者が・・・』
そこへ実行委員会長からこってりと油を絞られ、虫の居所が悪くなっている実行委員副会長がやって来た。
『いったい何を騒いでいるんだ、ん?誰だお前さんは?』
と言い、じいさんの風貌を見やり見下した様に言い放つ。
『ここはあんたみたいなみすぼらしいじいさんの来るような所では無い、わかったら早く帰った帰った!』
じいさんは更に激昴して怒鳴る。
『その態度はなんじゃ!!お前はワシがどこの誰だかわかっておらんのか!?』
虫の居所が悪かった実行委員副会長は腹立て怒鳴り返す。
『あんたの事なんか知らんし、お前呼ばわりされる筋合いは無い!』
実行委員会長が、
『いったい騒いでいるんだ副会・・・』
とやって来るが、実行委員副会長の揉めてる相手に気付き、血相を変えてすっ飛んで来てじいさんに声をかける。
『あの、何か失礼な事を致しましたか?』
じいさんは実行委員会長に見覚えが有るらしく声をかける。
『おや?あんたは確か・・・』
実行委員会長は面識がある事を伝える。
『あ、はい。以前お目通りになった事がある花火実行委員会の会長です』
実行委員副会長はわけも分からず実行委員会長に問う。
『会長、このじいさんの事をご存知なのですか?』
実行委員会長は更に血相を変えて副会長を怒鳴る。
『バカモンが、お前はこちらの方がどなたかご存知ないのか!?』
実行委員副会長は桑原会長の事を知らなかったのでそう伝える。
『・・・いえ、知りません・・・』
じいさんは実行委員会長に問う。
『会長、この無礼な男はいったい誰なんだ?』
実行委員会長は実行委員副会長の事を紹介する。
『度々の非礼申し訳ありません、この男は花火実行
委員会の副会長をしている者です。』
それを聞いたじいさんが、また般若の様に顔を歪め凄い剣幕で怒鳴る。
『お前が副会長か!!ワシの行きつけの店で散々迷惑をかけたそうじゃないか、連絡も無く突然訪れて花火を売って貰う立場の癖に偉そうにしおってからに!?』
そこへ所用を済ませた桑原社長が遅れてやってきて桑原会長に声をかける。
『オヤジ、何を怒鳴ってるんだ?』
それに気付いた実行委員会長と実行委員副会長がそれぞれ声をかける。
『桑原社長もいらしてたのですか?』
と実行委員会長が声をかけ、一方副会長は誰の事かは予想出来たが聞かずにはいられずに…桑原社長の方へ顔を向け冷や汗を流しながら問いかける。
『く、桑原社長・・・先程お父様とか仰られませんでしたか・・・』
『はい、今日は一緒に来たのですが…私は所用が有ったので其方を先に済ませてきました』
桑原社長は事情を話し、実行委員副会長には
『それと副会長はまだ面識有りませんでしたか?
副会長の目の前に居るのが、俺のオヤ・・・コホン、弊社の会長です』
と言いかけて桑原会長に睨まれ直ぐに言い直す桑原社長。
自分の揉めていた相手がスポンサーでもある…県を代表するような大会社の社長であると知り、みるみる顔が青ざめていく実行委員副会長。
ギッギッギッ…と音をたてるように顔を桑原会長の方へ戻し、
『先程から失礼な態度を取ってしまい、たいへん申し訳有りませんでした!』
と権力に弱い実行委員副会長はペコペコとコメツキバッタの様に頭を下げる。
桑原会長は実行委員副会長をしていながら、自分の事を知らない副会長を咎める。
『実行委員会の副会長をしていて、スポンサーである会社のワシの顔を知らんとはいったいどういうことなんじゃ!?』
『申し訳ございません、私の勉強不足でした!』
実行委員副会長はペコペコ謝るばかりでもはや当初の勢いはなかった。
『ここではなんですし…此方へどうぞ』
実行委員会長が横から口を挟み、一室へ招き入れる。
部屋へ入り椅子に座る面々。
一呼吸を置き、実行委員会長が桑原会長に問いかける。
『で、今日はどの様なご用件でいらしたのですか?』
『おっとそうじゃった、ワシが今日来たのは昨日の花火の事で来たんじゃ!!』
『ワシは、何でも屋から提供された花火は一番最後に上げるようにと指示を出しておった筈なんじゃが、初っぱなから打ち上げるとはいったいどういう事じゃ!!』
桑原会長がハッと本来の目的を思いだし、実行委員会長に向かって怒鳴る。
実行委員会長は、
『はい、確かに桑原社長からその様に伺っており昨日の打ち合わせで、花火師の方へ桑原社長と私から最後に打ち上げるようにと指示を出したのですが・・・』
と言いかけ横に座る実行委員副会長の方をチラッと見て、
『横に座る副会長が勝手に順序を変更してしまって…最初からうち上がる事になってしまいました・・・』
実行委員副長がそう言うや否や、実行委員副会長はすぐさま桑原会長に向かって青い顔で土下座をしていた。
桑原会長は真っ赤な顔をし般若のように顔を歪めて激しく怒鳴る。
『よりにもよって己の仕業か!!他では手に入らない5尺玉を、店主の好意で寄付してくれたと言うのに恩を仇で返すような真似をしくさりおってからに!!
事もあろうか手違いなどでは無く、わざわざ順番を変えるなどといったいどう言った了見なんじ!?このワシの顔に泥を塗るような真似をしおってからに!!』
桑原会長の剣幕に、実行委員副会長は“打ち上げ順番を変更した理由が気に入らなかったから”だとは言える訳もなく、ただ震えて謝ることしか出来なかった。
『大変申し訳ありませんでした、なんとお詫びをすれば・・・』
『お前が詫びた所でお前の仕出かした事はなくなるまい!!こんな恥をかかされる様では…来年からのスポンサーを降りるか考え直さないといかんのぅ!』
怒りの治まらない桑原会長は、スポンサーから降りることも考え始める。
『そ、そこは何とか…穏便に抑えては頂けませんでしょうか!?』
桑原グループ程の大会社に、スポンサーから降りられては来年からの花火大会が中止になるかもしれない事を示唆した実行委員会長が何とか引き止めようとする。桑原社長の方へも助けを求め視線を送るが無言で顔を横に振るだけだった。桑原社長も会長である父親には逆らえないのであろう。
『スポンサーを続けるか降りるかはよく考えさせてもらうよ』
そう言い残し部屋から出てゆく桑原会長の後に続き、桑原社長も出てゆく。後を2人は慌てて追いかけ出入口まで見送り、
『大変申し訳ありませんでした、何とかスポンサーの方を続けて頂けますようお願いします!』
と実行委員会長が声をかけ、実行委員の2人が頭を下げる。
『おい、あの店へ連れていくんじゃ!』
車に乗り込んだ桑原会長がある店へ送るように指示し、店へ着くと会長は菓子の詰め合わせを買い求めに店に入っていく。
『よし、次は何でも屋じゃ!』
菓子折を購入して車へと戻ってきた桑原会長は次は何でも屋へ行くように言う。
その頃…何でも屋にはバイト代を受け取る為に中村と伊集院が訪れていた。
にゃ~ん、にゃん、にゃんにゃんにゃ~ん♪
たまと伊集院が遊んでる横で、中村が現場に居なかった店主にいかに大変だったのか犇々と訴えかけている。
『なぁおっさん、おっさんは昨日居なかったからわからないと思うが…大繁盛で大変だったんだぞ、最初は暇だったんだけど一組のカップルが買いに来てから後は、店の前に大行列で、かき氷を売っても売っても次から次へと並んで座る暇も無かったんだぞ!』
話を聞き、苦笑いしながら2つの封筒を差し出す店主。
『そいつは災難だったな、で…これが昨日のバイト代だけど、かなり大変だったみたいだから多少色を付けといたよ』
封筒を受けとり1つを伊集院に手渡し、店主に話しかけながら中村が封筒の中身を確認して驚く。
『他人事だと思いやがって、並みの大変じゃなかんたんだぞ・・・っておっさん、これだけ貰って良いのかよ!?働いたのはほんの3時間ほどだぞ?』
中村の話を聞いていた伊集院も封筒の中身を確認して驚き固まる。
『5万円は流石に多すぎるかと・・・』
『あんた達昨日は助かったよ、バイト代だけど家の人が相応しいと思うだけ出してるんだから、良いから受けとっておきな!昨日はそれなりに儲けが出てるから心配しなくても良いよ』
奥さんが店の奥から出てきて、遠慮なく貰っておけと言う。
『そ、そうですか…』
2人は渋々ながら受け取ることにした。
『おっさん…こんなに貰ってなんだか悪いな、それはそうと昨日は結局何人位の客がかき氷を買いに来たんだろうな。忙し過ぎて数えてられなかったぜ、在庫切れにならなかったから良かったけど・・・
そう言えばおっさん、在庫切れで思い出したけど奥さんが持ってた手のひらサイズの箱は一体どうなってるんだ?
どう考えってもあのサイズの箱から次から次へと色々な物が来るのはおかしいぞ』
中村が花火大会で客が何人有ったのか気になっていたが、あの不思議な箱の事が気になり店主に聞く。
ブロロロ~キッ!!車が店の前で止まる。
『あの箱はな、実は・・・』
ガラガラガラっ…!!
店主が箱の秘密を話そうとすると、1人のじいさん客が入ってきた。
『邪魔するよ!!店主、花火の提供助かったよ!お前さんら夫婦のお陰で何とか花火大会を開催することが出来たわい』
店主が満足そうに、
『こちらもいつもお世話になってるからね、ある程度は融通させて貰うよ。
お孫さんたちは喜んでたかい?』
と話してると、
ガラガラガラっ!!、続いてスーツ姿の男性が入って来た。
社長が車の駐車場所について尋ねる。
『車ですが…隣の空き地に駐車して大丈夫ですか?』
店主は、
『うちの土地だからいいよ、それで今日は親子で来たのかい?』
社長が経緯を話す。
『ええ、会長のお供で市役所へそこから行き…こちらへ来させて貰いました』
隣では中村が伊集院に2人の事を何者かを話している所を社長がチラチラ見ている。
社長が何を見ているのか気になってそちらを見る。すると会長がある事に気付いて口を開く。
『おや、あんたは確か伊集院さんの・・・』
『はい娘です、父がいつもお世話になっています』
と頭を下げる。
奥さんが気になり声をかける。
『おゃ?2人は知り合いかね?社長さんも気になってるようだけど…』
会長が、
『うちの会社で部長をやってる者の娘さんじゃよ』
と紹介する。
2人が面識有るのを不思議に思ってた中村が、会長の話を聞いて“えっ”と固まる。
そんな中村を伊集院が「そろそろ帰りましょう」と言い揺さぶっている。
『桑原さんと知り合いだったとは驚いたよ』
と店主は動じていない。
我を取り戻した中村がそうしようかと伊集院と話して、
『おっさん!俺らはそろそろ帰るよ、会長さんお先に失礼するよ』
と言い残して伊集院と2人で帰っていった。
桑原会長は2人が帰ると申し訳なさそうな顔をして
『実は、今日来たのは昨日事で謝罪をしに来たのじゃ・・・』
と話だしたが
『会長さん、立ち話もなんですから…cafeスペースにでも座っておくれ』
奥さんがひとまず会長を止めて入り口へ閉店の看板を出しに行った。
店主も、
『会長さん、社長さん、とりあえず奥のcafeスペースへ行きましょう』
と声をかける、そうすると桑原会長が、
『ほぉ、暫く来ぬ間に小洒落た部屋がが出来てるのぅ?』
その言葉に返すように店主が出来たきっかけを話す。
『先程いた青年のアイデアで、軽食も出来た方が良いんじゃないかと言われて作ったんだよ』
『なるほどのぅ』
とcafスペースを確認してると看板を出し終えた奥さんが戻ってきて、
『さて、これで邪魔は入らないし、ゆっくり話せるからね。
会長さん、社長さん、あんた達は飲み物は何ががいいかね?うちは何でも揃ってるから好きなのを言っとくれ』
桑原会長は、
『ワシは渋い緑茶が良いのぅ』
続て社長は、
『私はブラックをお願いします』
2人がそれぞれ飲みたい物を伝えると奥さんが、
『はいよ、ちょっと待っとくれよ』
と準備を始めた。
桑原会長は菓子の詰め合わせを渡すのを忘れてた事に気付き慌てて差し出す。
『肝心なのを忘れておったわい、つまらん物じゃが…これを収めて置いてくだされ。店主夫婦には申し訳ない事をしたからのぅ…』
そこへ準備を終えた奥さんが、
ブラック珈琲と、お茶を3つ、大きめの皿に和菓子と洋菓子を盛り付けて持ってきた。
『おやおや、それは有名なタナカヤまんじゅうって店のじゃないのかねぇ?そんな高級な物をすまないねぇ』
と言い、桑原会長と桑原社長の前に飲み物を置き、真ん中へ盛り合わせた皿を置いて自分等にはお茶を置いた。
桑原会長は奥さんに、
『奥さん、手を煩わせてすまんのぅ…
それに昨日は2人には申し訳ない事をしたわい、店主の好意で花火を寄付してくれたというのに、店主の出した条件を了承しておきながらも守る事が出来んかった・・・、恩を仇で返すような事になってしまい申し訳ないのぅ・・・
重ね重ねで申し訳ないのじゃがこの通りじゃ!』
と手をついて頭を下げる桑原会長、それに続き慌てて同じように頭を下げる桑原社長。
頭を下げる2人を店主は慌てて止める。
『桑原さん頭を上げてよ、私が条件を出したのは…自己満足や自惚れで言ったんじゃなくて、うちのは特殊だから先に打ち上げると後からの花火が目立たなくなるから最後に上げてと言ったんだよ、だから気にしなくて良いよ』
桑原会長と桑原社長は顔を見合わして呟く。
『そう言って貰えると助かるのじゃが・・・』
奥さんも桑原会長に気にするなと止める。
『うちの人も気にしてないんだからさ、もうその辺にしといてよ。
しかし流石は会長さんだね、どこかの誰かとは大違いで潔いねぇ、ねえお前さん』
と店主に話しかける。
『あぁそうだね』
と店主も賛同する。
ここで桑原社長が口を開き、
『その副会長ですが、ここへ来る前にうちの会長に散々怒鳴られ…青い顔をしながら脂汗をかいてましたよ』
と言って笑ってる。
『あやつめ、このワシの事も知らずに追っ払おうとしおったんじゃぞ!?』
と桑原会長はまたプリプリ怒りだした。
奥さんはその光景を想像したのか涙目で肩を震わせていた。
桑原会長が饅頭を1つ口にして、
『ほぅ、何とも美味いのぅ。これはどこの和菓子屋で仕入れたのかのぅ?』
『それは仕入れたんじゃなくてうちの品だよ』
と店主は説明する。
桑原会長は残念そうに、
『そうか、残念じゃのぅ・・・うちのばぁさんに食べさせてやりたかったんじゃが・・・』
と溢すと店主は直ぐに奥さんに、
“お前、直ぐに用意してあげてよ” と小声で伝えると奥さんは“はいよ”と返事してカウンターの方へ大急ぎで行った。
『おゃもうこんな時間か、そろそろおいとましようかのぅ』
と桑原会長が桑原社長に声をかける。
『そうですね』
と社長が返事して2人が立ち上がると、奥さんが大慌てで戻ってきて包装紙に包まれた2つの箱を差し出した。
『和菓子の詰め合わせだよ、家で食べておくれよ』
桑原会長と桑原社長は、
『こんなことまでしてもらって…すまんのぅ』
『どうもすみません』
とお礼を言って和菓子を受けとり帰ろうと歩きだした。すると会長が振り向き、
『おっと忘れとった、昨日の花火は綺麗で素晴らしかったのぅ、最後のはうちの宣伝までしてもらって…ありがたい話じゃ。
おかげで今朝から新車の問い合わせの電話が殺到したそうじゃ』
と笑って帰ってった。
後日、実行委員副会長が辞職願いを提出して市役所から去って行く姿が有った。桑原会長と揉め事を起こし謝罪していた所を受付の女性を含め…複数人に目撃され、様々な噂をたてられたので居づらくなったからである。
電話は市民や都道府県等役所関係者からの声で、花火の賞賛やどこで手に入れれるかの問い合わせ、花火構成に対する苦情が多数寄せられており、中でも花火構成への苦情が圧倒的に多く職員は朝から電話の対応に追われており市の電話回線はパンク寸前だった。
そんな市役所の会議室では怒号が響いていた。昨日実行委員副会長が勝手に花火の打ち上げ順序を変更した事が明るみになったからだ。
実行委員会長が怒鳴り散らす。
『この大馬鹿者が!!なぜ勝手に花火の打ち上げ順序を変更したんだ!お前の所為で朝から苦情が殺到しているじゃないか、苦情の全てが花火の構成についてだ!本来なら花火大会は大成功に終わるはずだったんだぞ、どうするつもりなんだ!?』
実行委員副会長はただ謝る事しか出来ない。
『申し訳ありません……』
実行委員会長は、
『こんな調子だと、来期の副会長の席は無いと思っておきたまえ!』
と釘を刺す。
実行委員副会長は、
『・・・はい、申し訳ありません』
と言い会議室を出る。
一方市役所の受付には、じいさんが苦情を入れに来ていた。
じいさんが受付につくなり…般若の様な顔で怒鳴る!
『花火実行委員の者を出せ!!このワシに恥をかかせおってからに!!』
と言った具合に酷く御立腹になられていた。
受付の女性は申し訳無さそうに対応する。
『すみません、今現在職員総出で電話の対応に追われておりまして、手の空いている者が・・・』
そこへ実行委員会長からこってりと油を絞られ、虫の居所が悪くなっている実行委員副会長がやって来た。
『いったい何を騒いでいるんだ、ん?誰だお前さんは?』
と言い、じいさんの風貌を見やり見下した様に言い放つ。
『ここはあんたみたいなみすぼらしいじいさんの来るような所では無い、わかったら早く帰った帰った!』
じいさんは更に激昴して怒鳴る。
『その態度はなんじゃ!!お前はワシがどこの誰だかわかっておらんのか!?』
虫の居所が悪かった実行委員副会長は腹立て怒鳴り返す。
『あんたの事なんか知らんし、お前呼ばわりされる筋合いは無い!』
実行委員会長が、
『いったい騒いでいるんだ副会・・・』
とやって来るが、実行委員副会長の揉めてる相手に気付き、血相を変えてすっ飛んで来てじいさんに声をかける。
『あの、何か失礼な事を致しましたか?』
じいさんは実行委員会長に見覚えが有るらしく声をかける。
『おや?あんたは確か・・・』
実行委員会長は面識がある事を伝える。
『あ、はい。以前お目通りになった事がある花火実行委員会の会長です』
実行委員副会長はわけも分からず実行委員会長に問う。
『会長、このじいさんの事をご存知なのですか?』
実行委員会長は更に血相を変えて副会長を怒鳴る。
『バカモンが、お前はこちらの方がどなたかご存知ないのか!?』
実行委員副会長は桑原会長の事を知らなかったのでそう伝える。
『・・・いえ、知りません・・・』
じいさんは実行委員会長に問う。
『会長、この無礼な男はいったい誰なんだ?』
実行委員会長は実行委員副会長の事を紹介する。
『度々の非礼申し訳ありません、この男は花火実行
委員会の副会長をしている者です。』
それを聞いたじいさんが、また般若の様に顔を歪め凄い剣幕で怒鳴る。
『お前が副会長か!!ワシの行きつけの店で散々迷惑をかけたそうじゃないか、連絡も無く突然訪れて花火を売って貰う立場の癖に偉そうにしおってからに!?』
そこへ所用を済ませた桑原社長が遅れてやってきて桑原会長に声をかける。
『オヤジ、何を怒鳴ってるんだ?』
それに気付いた実行委員会長と実行委員副会長がそれぞれ声をかける。
『桑原社長もいらしてたのですか?』
と実行委員会長が声をかけ、一方副会長は誰の事かは予想出来たが聞かずにはいられずに…桑原社長の方へ顔を向け冷や汗を流しながら問いかける。
『く、桑原社長・・・先程お父様とか仰られませんでしたか・・・』
『はい、今日は一緒に来たのですが…私は所用が有ったので其方を先に済ませてきました』
桑原社長は事情を話し、実行委員副会長には
『それと副会長はまだ面識有りませんでしたか?
副会長の目の前に居るのが、俺のオヤ・・・コホン、弊社の会長です』
と言いかけて桑原会長に睨まれ直ぐに言い直す桑原社長。
自分の揉めていた相手がスポンサーでもある…県を代表するような大会社の社長であると知り、みるみる顔が青ざめていく実行委員副会長。
ギッギッギッ…と音をたてるように顔を桑原会長の方へ戻し、
『先程から失礼な態度を取ってしまい、たいへん申し訳有りませんでした!』
と権力に弱い実行委員副会長はペコペコとコメツキバッタの様に頭を下げる。
桑原会長は実行委員副会長をしていながら、自分の事を知らない副会長を咎める。
『実行委員会の副会長をしていて、スポンサーである会社のワシの顔を知らんとはいったいどういうことなんじゃ!?』
『申し訳ございません、私の勉強不足でした!』
実行委員副会長はペコペコ謝るばかりでもはや当初の勢いはなかった。
『ここではなんですし…此方へどうぞ』
実行委員会長が横から口を挟み、一室へ招き入れる。
部屋へ入り椅子に座る面々。
一呼吸を置き、実行委員会長が桑原会長に問いかける。
『で、今日はどの様なご用件でいらしたのですか?』
『おっとそうじゃった、ワシが今日来たのは昨日の花火の事で来たんじゃ!!』
『ワシは、何でも屋から提供された花火は一番最後に上げるようにと指示を出しておった筈なんじゃが、初っぱなから打ち上げるとはいったいどういう事じゃ!!』
桑原会長がハッと本来の目的を思いだし、実行委員会長に向かって怒鳴る。
実行委員会長は、
『はい、確かに桑原社長からその様に伺っており昨日の打ち合わせで、花火師の方へ桑原社長と私から最後に打ち上げるようにと指示を出したのですが・・・』
と言いかけ横に座る実行委員副会長の方をチラッと見て、
『横に座る副会長が勝手に順序を変更してしまって…最初からうち上がる事になってしまいました・・・』
実行委員副長がそう言うや否や、実行委員副会長はすぐさま桑原会長に向かって青い顔で土下座をしていた。
桑原会長は真っ赤な顔をし般若のように顔を歪めて激しく怒鳴る。
『よりにもよって己の仕業か!!他では手に入らない5尺玉を、店主の好意で寄付してくれたと言うのに恩を仇で返すような真似をしくさりおってからに!!
事もあろうか手違いなどでは無く、わざわざ順番を変えるなどといったいどう言った了見なんじ!?このワシの顔に泥を塗るような真似をしおってからに!!』
桑原会長の剣幕に、実行委員副会長は“打ち上げ順番を変更した理由が気に入らなかったから”だとは言える訳もなく、ただ震えて謝ることしか出来なかった。
『大変申し訳ありませんでした、なんとお詫びをすれば・・・』
『お前が詫びた所でお前の仕出かした事はなくなるまい!!こんな恥をかかされる様では…来年からのスポンサーを降りるか考え直さないといかんのぅ!』
怒りの治まらない桑原会長は、スポンサーから降りることも考え始める。
『そ、そこは何とか…穏便に抑えては頂けませんでしょうか!?』
桑原グループ程の大会社に、スポンサーから降りられては来年からの花火大会が中止になるかもしれない事を示唆した実行委員会長が何とか引き止めようとする。桑原社長の方へも助けを求め視線を送るが無言で顔を横に振るだけだった。桑原社長も会長である父親には逆らえないのであろう。
『スポンサーを続けるか降りるかはよく考えさせてもらうよ』
そう言い残し部屋から出てゆく桑原会長の後に続き、桑原社長も出てゆく。後を2人は慌てて追いかけ出入口まで見送り、
『大変申し訳ありませんでした、何とかスポンサーの方を続けて頂けますようお願いします!』
と実行委員会長が声をかけ、実行委員の2人が頭を下げる。
『おい、あの店へ連れていくんじゃ!』
車に乗り込んだ桑原会長がある店へ送るように指示し、店へ着くと会長は菓子の詰め合わせを買い求めに店に入っていく。
『よし、次は何でも屋じゃ!』
菓子折を購入して車へと戻ってきた桑原会長は次は何でも屋へ行くように言う。
その頃…何でも屋にはバイト代を受け取る為に中村と伊集院が訪れていた。
にゃ~ん、にゃん、にゃんにゃんにゃ~ん♪
たまと伊集院が遊んでる横で、中村が現場に居なかった店主にいかに大変だったのか犇々と訴えかけている。
『なぁおっさん、おっさんは昨日居なかったからわからないと思うが…大繁盛で大変だったんだぞ、最初は暇だったんだけど一組のカップルが買いに来てから後は、店の前に大行列で、かき氷を売っても売っても次から次へと並んで座る暇も無かったんだぞ!』
話を聞き、苦笑いしながら2つの封筒を差し出す店主。
『そいつは災難だったな、で…これが昨日のバイト代だけど、かなり大変だったみたいだから多少色を付けといたよ』
封筒を受けとり1つを伊集院に手渡し、店主に話しかけながら中村が封筒の中身を確認して驚く。
『他人事だと思いやがって、並みの大変じゃなかんたんだぞ・・・っておっさん、これだけ貰って良いのかよ!?働いたのはほんの3時間ほどだぞ?』
中村の話を聞いていた伊集院も封筒の中身を確認して驚き固まる。
『5万円は流石に多すぎるかと・・・』
『あんた達昨日は助かったよ、バイト代だけど家の人が相応しいと思うだけ出してるんだから、良いから受けとっておきな!昨日はそれなりに儲けが出てるから心配しなくても良いよ』
奥さんが店の奥から出てきて、遠慮なく貰っておけと言う。
『そ、そうですか…』
2人は渋々ながら受け取ることにした。
『おっさん…こんなに貰ってなんだか悪いな、それはそうと昨日は結局何人位の客がかき氷を買いに来たんだろうな。忙し過ぎて数えてられなかったぜ、在庫切れにならなかったから良かったけど・・・
そう言えばおっさん、在庫切れで思い出したけど奥さんが持ってた手のひらサイズの箱は一体どうなってるんだ?
どう考えってもあのサイズの箱から次から次へと色々な物が来るのはおかしいぞ』
中村が花火大会で客が何人有ったのか気になっていたが、あの不思議な箱の事が気になり店主に聞く。
ブロロロ~キッ!!車が店の前で止まる。
『あの箱はな、実は・・・』
ガラガラガラっ…!!
店主が箱の秘密を話そうとすると、1人のじいさん客が入ってきた。
『邪魔するよ!!店主、花火の提供助かったよ!お前さんら夫婦のお陰で何とか花火大会を開催することが出来たわい』
店主が満足そうに、
『こちらもいつもお世話になってるからね、ある程度は融通させて貰うよ。
お孫さんたちは喜んでたかい?』
と話してると、
ガラガラガラっ!!、続いてスーツ姿の男性が入って来た。
社長が車の駐車場所について尋ねる。
『車ですが…隣の空き地に駐車して大丈夫ですか?』
店主は、
『うちの土地だからいいよ、それで今日は親子で来たのかい?』
社長が経緯を話す。
『ええ、会長のお供で市役所へそこから行き…こちらへ来させて貰いました』
隣では中村が伊集院に2人の事を何者かを話している所を社長がチラチラ見ている。
社長が何を見ているのか気になってそちらを見る。すると会長がある事に気付いて口を開く。
『おや、あんたは確か伊集院さんの・・・』
『はい娘です、父がいつもお世話になっています』
と頭を下げる。
奥さんが気になり声をかける。
『おゃ?2人は知り合いかね?社長さんも気になってるようだけど…』
会長が、
『うちの会社で部長をやってる者の娘さんじゃよ』
と紹介する。
2人が面識有るのを不思議に思ってた中村が、会長の話を聞いて“えっ”と固まる。
そんな中村を伊集院が「そろそろ帰りましょう」と言い揺さぶっている。
『桑原さんと知り合いだったとは驚いたよ』
と店主は動じていない。
我を取り戻した中村がそうしようかと伊集院と話して、
『おっさん!俺らはそろそろ帰るよ、会長さんお先に失礼するよ』
と言い残して伊集院と2人で帰っていった。
桑原会長は2人が帰ると申し訳なさそうな顔をして
『実は、今日来たのは昨日事で謝罪をしに来たのじゃ・・・』
と話だしたが
『会長さん、立ち話もなんですから…cafeスペースにでも座っておくれ』
奥さんがひとまず会長を止めて入り口へ閉店の看板を出しに行った。
店主も、
『会長さん、社長さん、とりあえず奥のcafeスペースへ行きましょう』
と声をかける、そうすると桑原会長が、
『ほぉ、暫く来ぬ間に小洒落た部屋がが出来てるのぅ?』
その言葉に返すように店主が出来たきっかけを話す。
『先程いた青年のアイデアで、軽食も出来た方が良いんじゃないかと言われて作ったんだよ』
『なるほどのぅ』
とcafスペースを確認してると看板を出し終えた奥さんが戻ってきて、
『さて、これで邪魔は入らないし、ゆっくり話せるからね。
会長さん、社長さん、あんた達は飲み物は何ががいいかね?うちは何でも揃ってるから好きなのを言っとくれ』
桑原会長は、
『ワシは渋い緑茶が良いのぅ』
続て社長は、
『私はブラックをお願いします』
2人がそれぞれ飲みたい物を伝えると奥さんが、
『はいよ、ちょっと待っとくれよ』
と準備を始めた。
桑原会長は菓子の詰め合わせを渡すのを忘れてた事に気付き慌てて差し出す。
『肝心なのを忘れておったわい、つまらん物じゃが…これを収めて置いてくだされ。店主夫婦には申し訳ない事をしたからのぅ…』
そこへ準備を終えた奥さんが、
ブラック珈琲と、お茶を3つ、大きめの皿に和菓子と洋菓子を盛り付けて持ってきた。
『おやおや、それは有名なタナカヤまんじゅうって店のじゃないのかねぇ?そんな高級な物をすまないねぇ』
と言い、桑原会長と桑原社長の前に飲み物を置き、真ん中へ盛り合わせた皿を置いて自分等にはお茶を置いた。
桑原会長は奥さんに、
『奥さん、手を煩わせてすまんのぅ…
それに昨日は2人には申し訳ない事をしたわい、店主の好意で花火を寄付してくれたというのに、店主の出した条件を了承しておきながらも守る事が出来んかった・・・、恩を仇で返すような事になってしまい申し訳ないのぅ・・・
重ね重ねで申し訳ないのじゃがこの通りじゃ!』
と手をついて頭を下げる桑原会長、それに続き慌てて同じように頭を下げる桑原社長。
頭を下げる2人を店主は慌てて止める。
『桑原さん頭を上げてよ、私が条件を出したのは…自己満足や自惚れで言ったんじゃなくて、うちのは特殊だから先に打ち上げると後からの花火が目立たなくなるから最後に上げてと言ったんだよ、だから気にしなくて良いよ』
桑原会長と桑原社長は顔を見合わして呟く。
『そう言って貰えると助かるのじゃが・・・』
奥さんも桑原会長に気にするなと止める。
『うちの人も気にしてないんだからさ、もうその辺にしといてよ。
しかし流石は会長さんだね、どこかの誰かとは大違いで潔いねぇ、ねえお前さん』
と店主に話しかける。
『あぁそうだね』
と店主も賛同する。
ここで桑原社長が口を開き、
『その副会長ですが、ここへ来る前にうちの会長に散々怒鳴られ…青い顔をしながら脂汗をかいてましたよ』
と言って笑ってる。
『あやつめ、このワシの事も知らずに追っ払おうとしおったんじゃぞ!?』
と桑原会長はまたプリプリ怒りだした。
奥さんはその光景を想像したのか涙目で肩を震わせていた。
桑原会長が饅頭を1つ口にして、
『ほぅ、何とも美味いのぅ。これはどこの和菓子屋で仕入れたのかのぅ?』
『それは仕入れたんじゃなくてうちの品だよ』
と店主は説明する。
桑原会長は残念そうに、
『そうか、残念じゃのぅ・・・うちのばぁさんに食べさせてやりたかったんじゃが・・・』
と溢すと店主は直ぐに奥さんに、
“お前、直ぐに用意してあげてよ” と小声で伝えると奥さんは“はいよ”と返事してカウンターの方へ大急ぎで行った。
『おゃもうこんな時間か、そろそろおいとましようかのぅ』
と桑原会長が桑原社長に声をかける。
『そうですね』
と社長が返事して2人が立ち上がると、奥さんが大慌てで戻ってきて包装紙に包まれた2つの箱を差し出した。
『和菓子の詰め合わせだよ、家で食べておくれよ』
桑原会長と桑原社長は、
『こんなことまでしてもらって…すまんのぅ』
『どうもすみません』
とお礼を言って和菓子を受けとり帰ろうと歩きだした。すると会長が振り向き、
『おっと忘れとった、昨日の花火は綺麗で素晴らしかったのぅ、最後のはうちの宣伝までしてもらって…ありがたい話じゃ。
おかげで今朝から新車の問い合わせの電話が殺到したそうじゃ』
と笑って帰ってった。
後日、実行委員副会長が辞職願いを提出して市役所から去って行く姿が有った。桑原会長と揉め事を起こし謝罪していた所を受付の女性を含め…複数人に目撃され、様々な噂をたてられたので居づらくなったからである。
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