何でも屋さん

みのる

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第32話 中村氏、入院。

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キキィ…ッ!!……ドンッ!
とある見通しの悪い道で…原付バイクが歩行者に衝突した。

ちょうどたまの散歩中に奥さんが発見。

『おや…あの青年は…ウチに良く来る青年ではないのかね?』

はねとばされて倒れたままの中村。慌てふためいた伊集院は中村に走り寄り、声をかける。

『大丈夫ですか!?頭打ってませんか?』

すると中村は呻きながら答える。

『うぅ…だ、大丈夫だ…頭は…打ってない…う、腕が…折れたかも…俺は良いから…相手は大丈夫か…?』

伊集院が、加害者の方を確認する。
その原付に乗る加害者も転倒。白いランニングシャツが赤く血に染まり痛々しい。
伊集院はその男に見覚えがあった。
(あれは確か……!!花火大会の時に、近くでたこ焼きのお店を出してた…裸の大佐風の男性じゃないかしら!?)
伊集院はその男にも声をかける。


『大丈夫ですか!?』

するとその男は普通に、

『大丈夫です』

何事も無かったかのように淡々と答えた。

『救急車…呼ばないと…』

伊集院は震える手でビグホを取り出し…番号を押す。暫くするとけたたましいサイレンと共に、姿を現した救急車。その加害者の男は、

『自分は大丈夫です!』

と救急車への乗車を断り、

『もしもの時は…』

と、伊集院に連絡先を書いて残してまだ動く原付に跨り、何処かしら去っていった。

伊集院は中村について、救急車へ乗車して行った。
後に残された…たまと奥さん。まるで何事も無かったかの如く、

『……さて。私たちは店に戻るかねぇ、たま。』

にゃあ~ん♪とたまが一声鳴き、1人と1匹は店に向かって帰って行った。


また後日、伊集院が何でも屋を訪れた。…とある物を購入しに。

『…おや、いらっしゃい。…今日は1人かい?』

問いかける店主。それからふと思い出す。

『そうだった!…中村は、今…入院中だったな』

愉快そうに笑う店主に、少しムッとする伊集院は、店主をジロリと睨む。

『いやぁ…すまんすまん。…で、今日は何の用事だったかな?』

『中村さんのところに…お見舞いに行きたいんです!何か、立派な果物の盛り合わせとか…ありませんか?』

伊集院が居ても立ってもいられない!とばかりに店主をけしかける。

『あ…あるにはあるけども…幾ら位のがいいんだい?』

その迫力に押されて、タジタジとなる店主。

伊集院は暫く考える。

『……果物の盛り合わせって…どれくらいが相場なんですか?』

そこで店主は説明する。

『んー、それもまぁ…ピンからキリまであるんだが…5000円位のが妥当ではないのかい?』

そこで伊集院はハッキリと答えた。

『縁起良く、7000円くらいで…季節の果物を色々と詰め合わせてもらえませんか?』

店主は答える。

『…少し立派な果物を入れておこうかね。素晴らしい籠盛りが出来るぞ?…私たちからも提供だ!』

伊集院は瞳を輝かせながら、

『はい!ありがとうございます!!』

『じゃあ…明日出来るようにしておくから、少し時間をくれないか?』

と店主が言う。
伊集院は、

『それでは…また明日来ます。…よろしくお願いしますね』

そう言って店を出て行った。


ー翌日ー
何でも屋には、既に果物の盛り合わせが準備されていた。朝緩メロン、梨、林檎、バナナ、木村マンゴー、柿、イチゴ、小玉スイカ、葡萄、鈴木錦…何だか季節無関係な果物がたくさん籠に詰められている。
そこに、朝早くから伊集院が現れた。

ガラガラガラっ…

『店主さん、ちょっと早く来てしまいましたが…果物の準備はもう出来ていますか?』

すると店主は誇らしげにショーケースの上に籠盛りを乗せた。

『少し大きいかもしれんがな。…これで7000円分だ』

伊集院は驚いた顔をして、

『なんて立派な…!色々な果物が入っていますね。…これが本当に7000円でいいのですか?』

店主は何でも無いように、

『ウチの特別価格だ!…持っていけるか?』

伊集院はちょっと持ち上げてみて答えた。

『はい、見た目より重くないので…大丈夫そうです』

店主は伊集院に言う。

『中村に、お大事に。と伝えといてくれ』

伊集院は微笑み、お代を払い…
籠盛りをヨロヨロと持ち上げながら、何でも屋を出て行った。
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