何でも屋さん

みのる

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第31話 秋の味覚(2)

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木枯らしの吹くある日の早朝から、いつもの青年がまた何でも屋にやって来た。

店主が中村を出迎える。

『やあ、今日は何をしに来たんだ?』

中村は気分を損ねたのか、

『何しに来た?とは随分な話しだなおっさん、俺はこれでも客だぞ?』

と機嫌が悪い。さらに続けて、

『確かに頻繁に来てるけど、買い物もしてるだろ・・・、で今日は何をしに来たかと言えばカキを買いに来たんだよ。よく熟したの早くを出してくれ!』

とどうも様子がおかしい。今日は元々機嫌が悪いのかノリが悪い中村。

店主は自信満々な顔で、

『わかったカキ牡蛎だな!』

と言い、発泡スチロールに入った殻付きの牡蛎を取り出した。

中村は驚きながらも、

『おぉー、これはまた殻付きだから新鮮そうで良いじゃないか、デカくて立派だから美味そうだし・・・ってこれは魚介類のカキじゃないか!!俺が言ってんのは果物のカキだっての!!』

何故かわからないがややエンジンがかかってきたのか、いつものノリが戻って来たようだ。

ここで店主が気になった事を問う。

『・・・なあ、お前さんはもしかして低血圧なのか?』

その問いに中村はぶっきらぼうに答えた。

『ああそうだよ、俺は本来朝は苦手なんだよ。だから大抵いつもは昼から来るんだ』

『朝から来る時は早くに起きた時だな』

不思議に思った店主は中村に問いかけた。

『だったら何で今日は本調子じゃないのに朝から来たんだ?』

中村は突然涙を流しだし、

『おっさん!よくぞ聞いてくれた、朝から伊集院に起こされて柿を買ってきてくれと頼まれたんだよ!俺は朝が苦手だと知ってんのに酷いと思わないか?』

店主は若干ヒキながら、

『そ、そうか、お前さんも大変だな…』

とだけ言った。

言うだけ言って少し落ち着いたのか、中村は買いに来た物の事を話しだした。

『話を戻すけど…俺は魚介類じゃなくて果物のカキを買いに来たんだよ』

店主は呆れ顔で、

『そう言う事は先に言ってくれないと困るよ、カキだけじゃわからないからね?』

その言葉を聞いて中村がまた吠える。

『先に言えって、俺は来た時によく熟したのを出してくれと言ったよな?それとも何か?おっさんは魚介類の牡蠣にも熟したものが有るとでも言いたいのか?』

『有るぞ、ほら』

と言いながら、1つの殻付きの牡蠣を取り出した。今取り出した牡蠣は先程の身がパンパンに張った牡蠣では無く、身にやや皺がよっていた。

中村は最初は感心したが直ぐにジト目に変わり店主に問いかける。

『へー、確かに熟してるな・・・てこれはただ単に干からびかけてるだけなんじゃ無いのか?』

店主はチッと小さく舌打ちをして出したばかりの干からびた牡蠣を引っ込めた。

『それで、欲しいのは魚介類じゃなくて果物の方のカキだな?』

と店主は発泡スチロール入りの牡蠣を持って引っ込めようとしたら、発泡スチロールを持つ手を中村がガシッと掴み、

『おっさん、その牡蠣も美味そうだから…やっばり買っていくよ』

『今日の晩飯にこの牡蠣を使って、何か作って貰う事にする』

とやはり買うことにしたら店主がまたしてもチッと小さく舌打ちをして発泡スチロールをまた置いた。

中村はまた怒り出した。

『おっさん!!今舌打ちをしたよな!?それも2回も、1回目は見逃してやったけど…今度は見逃してやらないぞ!!ほんとにまったくもう!!』

『れっきとした客に舌打ちするなんて一体どう言った了見なんだ!?』

店主はそれに対して、

『いや~、ボケで出した品まで買われたら私の立つ瀬が無いからね』

と苦笑いで答える。

中村はプリプリしながら、

『わからずに魚介類の牡蠣を出したんじゃなく、ボケで出てたのよかよ!?おっさんはまともに商売する気は有るのか?ほんとにまったくもう!!』

と言う。
店主は箱を取り出し、

『で、これがお前さん所望の柿だ』

と中村の前に置く。中村は柿を一目見て気に入ったようで、

『これまた甘そうで美味そうな柿だな、綺麗なオレンジ色をしてやがるぜ!』

『おっさん、2つのカキを合わせて幾らだ?』

店主は計算をはじめる

『魚介類のカキが2000円で、果物のカキが3000円だから合わせて5000円だ』

中村が支払いを済ませ、

『さ~て、伊集院が待ってるし…帰るとするか』

と言うが一向に帰ろうとせずに店主に話しかけた。

『なぁおっさん・・・今気付いたんだが…俺1人でどう持って帰ったら良いんだ?仮に伊集院を呼んだとしても持って帰れるとは思えないんだが・・・』

店主は呆れたように言う。

『そんな事は私の知ったこっちゃないよ』

中村は店主は必死に嘆願する。

『おっさん!なんとかしてくれよ、このままじゃ帰れないじゃないか!』

店主はやれやれと言った感じで手のひらサイズの小箱を取り出した。

『しょうがないな、これを貸してやるから…次来る時に忘れずに持ってきてくれよ』

中村はポカーンとした感じで、

『おっさん、この箱は何だ?こんなの借りたってどうしようも無いぞ?』

と言う。店主はニヤリと笑って、

『まあ良いから…その箱に入れてみな?』

と言う。中村は柿入りの箱を小箱に近付けると小箱の中に入る。

『こんな小さな箱に入るわけないだろ、ほら見ろ!柿の箱の方が大きいじゃないか・・・っていったいどうなってるんだ?中に入った・・・』

と驚いた中村だが、ある事に気付いて店主に問いかける。

『もしかしておっさん、花火大会の時に奥さんが持ってた収納箱ってこれと同じ仕組みか?』

店主はその問いに、

『似た様なもんだが別物だよ、それと他の者にはその箱の事は絶対に話すなよ』

とだけ答えた。

中村は、

『わかったよ、じゃあなおっさん』

と言い残して帰って行った。


その日の午後1人の年配男性が菓子折りを携えて何でも屋を訪れた。
ガラガラガラっ…と入店して来ると
年配男性が挨拶をする。

『こんにちは』

店主は、

『いらっしゃい、ゆっくり見て行ってよ』

と久しぶりにいつもの決まり文句を言う。

年配男性が名刺を取り出し差し出す。

『申し訳ないが私は客では無く、こういう者です』

店主は名刺を受け取り、

『悪いけど…うちは見ての通り、小さな店で名刺を持ち合わせて無いんだよ』

と言いながら名刺を確認して、

『おや、桑原さんとこの部長さんですか?ではあのお嬢ちゃんの・・・そうかい』

実は!伊集院の父親は、

『はいそうです、いつも娘がお世話になってるそうで・・・先日も夜分遅くに娘や娘の友人達の危ない所を助けて頂いたとかで…なんとお礼を言ったら良いやら・・・』

店主は大したことではない事なので、

『そんな大袈裟な事じゃ無いから気にしないでよ』

と言うが、伊集院父は

『いえいえとんでもないです、今日はお礼に伺わせて頂きました。
それとこれはつまらないものですが…』

と某有名店の菓子折を差し出した。

店主は恐縮しながら受け取り、

『なんだか悪いね、娘さんにも色々買ってもらってるからサービスみたいなもんだし』

と言うと伊集院父は、

『これからも娘の事よろしくお願いします、では今日の所はこの辺で帰ります』

と軽く頭を下げ、帰って行った。

伊集院父が帰るのを見送り、奥に向かって

『お~い、ちょっと来ておくれ!』

と声をかけると奥さんが出て来てた。

『あんた、何の用なんだい?』

店主は貰った菓子折を差し出し、先程の事を伝える。

『伊集院のお嬢ちゃんの父親が、この前のお礼にってお前が好きな某有名店の菓子折りを持ってきてくれたよ』

奥さんは、

『おや伊集院さんのねぇ、じゃあ早速頂くとするかねぇ』

奥さんがそう言うと、お茶を淹れて2人で小休止をはじめるのであった。
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