何でも屋さん

みのる

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第30話 心霊スポット帰り

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閉店されてからかなり時間が過ぎたある日の夜遅く、電話が鳴り響く。
店主は最初は無視しようかとしたが…切れる様子もなく、いつまでも鳴り響く電話。
これから奥さんとぶっぱじめようとした矢先だったため…些か機嫌の悪い店主、口調もいつも以上にぶっきらぼうになる。

『何でも屋、店はもう閉店してるからまた明日来てくれ!』

いつもと違う店主の口調にややビクつきながらもホッとしたように喋り出す電話口の男。

『お、おっさん…俺だ中村だガガ・・・店は閉まってるのはわかってるんだがガガガガガお願いだ、助けてガくガガガれ…』

店主は只事では無い事に気付き、

『なんだ、青年か?いったいどうした?何が有ったんだ?』

中村は、

『ああそうだガガ、詳しい事はガ後ではガなすガガガ今店に向かってるだフフフ助けてくれよおっさん!』

店主は、

『わかった、店を開けて待ってるよ』

そう言い電話を切り…やれやれといった感じで店の方へ出てきて電気を付ける。看板は閉店のままだが鍵を開けて…いつもの場所に座り、朝晩はやや寒くなりだしていたので、店主はハンテンを取り出しそれを羽織り…中村が来るのを待つ。

暫くしたら店の前に車が止まり男女7が店に飛び込んで来た。

メンバーの中には中村の他に伊集院の姿も有り、全員が青白い顔をしており、俯いてる者に涙を流してる者やブツブツと何かを呟いている者等様々だった。

店主はその姿を見て問いかける。

『おい、いったいどうしたんだ!?』

中村が意を決して話しだす。

『俺らは6で・・・』

と中村が言った瞬間、店主はチッと舌打ちをして奥に怒鳴る。

『おい!!、大至急神棚の御札と、御供えしてる粗塩と御神酒を持って来い!!』

長い事通ってる中村でも、見た事の無い程偉そうに奥さんに向かって怒鳴る店主に驚く。

店主に怒鳴られ、不機嫌になってる奥さんが奥から出てきた。

『いったい何事だい?偉そうに・・・』

と言いかけるが、8の姿を見た奥さんの眼鏡がキランキランと怪しく光る。

「おゃ、これはいけないねぇ…」

と呟き、タラコ唇を醜く歪めニタ~っと不気味に笑う。

奥さんの不気味な笑みを見た内の6人が、背中に冷たい物を感じて固まり、残る2人が真っ青な顔をしてガタガタと震えはじめた。
その様子を見た奥さんが、何を思ったのかその場に御神酒と粗塩を置き、8人の方へと近づくと…後ろへと回り込みガタガタ震えてる2人の背中に御札を貼った。すると御札を貼られた2人の姿が消えた。奥さんが一息吐き、

『ふ~、危なかったねぇ』

と話しだす。不敵な笑みを浮かべたまま御神酒と粗塩を取りに行く奥さん。紙コップを6個取り出し、それぞれの紙コップに御神酒を少しずつ注ぎ、6人に向かって…

『念の為御神酒を飲んどくれ、で御神酒を飲んだ者からは私の方へ来ておくれ』

と言い御神酒を飲み終えた者に次々と粗塩をかけていった。
一通り粗塩をかけ終えた奥さんは6人に向かって言った。

『さぁ、もうこれで大丈夫だよ。安心しな!』

中村が申し訳無さそうに、

『おっさん、奥さん夜遅くに悪かったなお陰で助かったよ』

とお礼を言うと伊集院をはじめ残るメンバーもお礼を口々に言う

『店主さん、奥さん…夜分遅くに申し訳ありません。お陰で助かりました!』『ありがとう助かった』『夜遅くにすみませんでした』『助けてくれてありがとうございます』『夜遅くにすみません、助かりました』

他のメンバーがお礼を言い終わると、中村は不思議にそうに店主に問いかけた。

『おっさん、俺はまだ事情を言う前だったのに…何でわかったんだ?何も聞かないうちからわかるって霊感強いのか?』

理由を問われ、店主は何でわかったのかを話し始めた。

『お前さんが6人って言ったからわかったんだよ、誰も気付いていなかったみたいだけどな。入ってきた時に7人居たんだよ』

その話を聞いた6人はまた顔を青くし、

「あいつはこの店にまで着いてきたのかよ…」

と誰かが呟いた。

そこへ奥さんが横から口を挟んできた。

『いや8人だったよ、あんた私を呼んで正解だったねぇ…』

とニタ~っと笑った。その言葉に店主もゴクリと唾を飲み込んだ。

店主が6人に向かって、

『こうなったらついでだ、奥で休んでいけ。珈琲くらいならサービスしてやるよ。あったまるぞ?』

と休んで行くことを促す。6人は流石にそこまではして貰えないと断るが、店主にまあ良いから良いからとCafeスペースへと追いやられた。

全員が席に着くと、奥さんが珈琲6個とお茶2個をトレーに乗せて持ってきた。
目の前に珈琲を置かれ、”すみません “や“ありがとう ”とお礼を言う6人。

奥さんも席に座り店主が話しかける。

『で、何が有ったんだ?』

その言葉を聞いて、中村は事情をポツリポツリと話しだす。

「俺達は男3人女3人で心霊スポット巡りをしたんだ、県内で出ると言われてる鉄橋や廃校にトンネルと色々回ったんだけど、それなりに雰囲気は有っても出ることは無く順調だったんだよ」

「で、特に何も起きずに飽きてきて最後に山中に隔離病棟だった廃墟が有るんだけどそこへ行って何も無かったらもう帰ろうって事で行ったんだよ、廃墟に着いてからペアを組んで3組みに分かれようって事で俺は伊集院とでペアを組み、残りのメンバーも男女でそれぞれペアを組んで別々に探索をして回ったんだけど特に何も無く、そろそろ帰ろうかと言う事で合流した時に事件が起こるんだ」

「3組みが合流し終わり話しをしてる時に何か違和感を感じるんだけどそれが何かはわからないんだ、何がおかしいんだろうとか話してる内にメンバーの1人が廃墟に来た時は6人だった筈なのに今は1人増えて7人居る事に気付いたんだ」

「後はもうお決まりでのパターンで、全員パニックになり廃墟の外へ飛び出して車に飛び乗り逃げるんだけど、車のエンジンがかからない…て事も無く、エンジンがかかり走り始めたんだけど…メンバーの中に紛れ込んでいた女が追いかけて来て、車のスピードを上げて逃げてもそいつがずっと車と同じスピードで追いかけて来て、サイドミラーに映り続けるんだ。」

「もう怖くて怖くて、山を降りきった所に寺があって、そこに飛び込んで事情を説明したんだけど…ウチでは手に負えないから、別の所へ行ってくれと追い返されどうしたら良いかわからず途方に暮れたんだ。
それで他のメンバー達と何処か近くに神社か寺は無いか?と話してた時に、おっさんの顔が浮かんできて…ここなら何とかしてくれるんじゃ無いかと思い、もう寝てるとは思ったし迷惑な話だけど他に宛も無いから電話したんだ」

と話し終え最後に、

『まさか店の中にまでついて来るとは思わなかったぜ…』

と中村が漏らすと店主が何かに気付いて、

『なあ、その女は“車を追いかけて来てた”んだよな?』

その問いに中村は、その時の光景を思い浮かべ身体を震わせる。

『ああ、そうだよ。どこまでも追いかけて来て怖かったんだよ…店の近くまで追いかけて来てるのを確認したぜ』

その事を聞いた店主がさらに問いかける。

『なあ、1つ聞きたいんだけど…電話してきてた時に誰か笑ってたか?』

中村は怒りながら吐き捨てる。

『そんな状況で笑う訳ないだろ!全員半泣きで震えてるのによ?』

店主は神妙な顔で話しだす。

『だよな、実はな…電話してきた時に女の笑い声が聞こえて来たんだ』

それを聞いたメンバーは、車の中にも居た事に気付き青い顔し、奥さんの方へ視線を集める。
奥さんは何を聞きたいのか察したのか、顔を横に振り…

『店にはいってきてたのは、若い女と若い男の幽霊だったよ』

と言った。

シーンとなる店内、そこへたまが目覚めたのか奥から出てきた。
にゃ~ん♪
たまがCafeスペースへと来ようとしたが、何かに気付き、入口の方へと駆け出し尻尾と毛を逆立てシャーっと威嚇をしだす。
その光景を見て、店外にまだ幽霊が居ることに気付く面々。

奥さんがやれやれと言った感じで、

『おやおや、しょうがないねぇ…』

と言い、またタラコ唇を醜く歪めてニタ~っと不気味に笑う。その不気味な笑い顔を見た6人がゾッとして背中に冷たい物を感じ固まる・・・

奥さんが入口の方へと歩いて行くと、その後ろを6人が身体を寄せ合い恐る恐る着いてゆく。
奥さんが入口に着き、引き戸の方を見ると眼鏡がキランキランキランと光る。奥さんはまたタラコ唇を醜く歪めてニタ~っと笑いながら戸を開けると後ろから、
『うおっ』『キャー』『ギャ~』
等と叫び声を上げる者と、口をパクパクさせて何も言えない者から様々であった。

開いた戸の先には、老人・小さな男の子・軍人の幽霊が中の様子を伺おうと青白い顔をのぞき込ませていた・・・が何か様子がおかしい。元々青白い顔を更に真っ青にさせてガタガタ震えだした。奥さんが1歩踏み出すと、幽霊達は1歩引く。奥さんがまた1歩踏み出すと幽霊が1歩引く。
奥さんがため息を吐き幽霊を脅す。

『さぁ、元の場所にお帰り。面倒はかけないでおくれ・・・でないと…』

と言って御札を取り出してヒラヒラさせる。幽霊達は血相を変えてその場から消えてしまった。その様子を伺っていた6人は唖然としていた。
奥さんはそのまま車の方を見ると、また眼鏡がキランと光る。“おやおや”と呟きながら車の方へと歩きだす。車の中を覗き込んで6人に向かって手招きをしている。
6人が何をしてるのだろうと近寄って車の中を覗き込むと、女の幽霊がガタガタ震えながら車の床に這いつくばって必死に隠れている姿が見えた。車の中から奥さんを見て直ぐに隠れて震えていたのであろう。6人が目を点にしてると奥さんが、

『ロックを開けておくれ』

と言うと、女の幽霊が先程の幽霊達の様な真っ青な顔をハッと上げ顔を激しく横に振ってる。ガチャっという音と共にスライド式のドアが開かれた時、幽霊の真っ青な顔が絶望した表情に変わり…涙を流しながら奥さんから少しでも離れようとズリ下がって行く。

奥さんが幽霊に説教をしはじめた。

『人様に迷惑をかけるのは程々にしておくれ、あんたらの所為で私らの楽しみを邪魔されたんだよ!この責任をいったいどう取ってくれるんだい?人を脅かすのは構わないが…これからは怖がらすのは廃墟の中だけにするんだよ・・・でないと…』

と言いまた御札を取り出して幽霊を脅す奥さん。幽霊は涙を涙を流しながら激しく何度も頷いている。その事に満足したのか、

『もう廃墟へお帰り、他の幽霊達にもキツく言っとくんだよ』

と言うと幽霊は慌てて消え去った。

「人様のお楽しみを邪魔しおってからに…ほんとにまったくもう!」

と訳の分からないことをブツブツ言ってる奥さん。やがて6人の方へと振り返り可愛い声で、

『怖かったのぉ~♡』

と言い放った。6人は開いた口が塞がらず、心の中で“嘘つけ”と思ったのは内緒である。
奥さんが、

『さて、もう大丈夫だから…あんたらももうお帰り。親御さんが心配するよ?』

と言う。

『お金はどのくらいお支払いすれば良いですか?』

と伊集院が問いかけた。他のメンバーも同意して頷いている。

奥さんは、

『お代はいらないよ、ねぇあんた』

といつの間にか外に出て来てた店主に話しかける。

店主も、

『ああ、珈琲はサービスだし…何も売っても無いからな。
そのかわりもう2度と夜中に来るんじゃないよ』

と言って、もう帰った帰ったと手をひらひらと振る。

奥さんも続けて、

『心霊スポットに行くのも程々にしとくんだよ?』

と送り出す。

『すみません、ありがとうございます』

と言い残して6人は帰っていた。

店主は奥さんに、

『すっかり遅くなったし…もう寝るかね、そういう気分でも無くなったし』

奥さんも、

『そうだねぇ、もう寝ようかねぇ』

と2人は寝る為に中に入っていった。

一方車中では、

『あの奥さん何者だ?あの不気味な笑い顔を見た時に…冷や汗が流れて金縛りになったぞ・・・』
『私もあの顔を見た時は怖くて震え上がったわ…』
『そもそも幽霊の方が怖がるってどういう事だよ?』
『僕は最後の車の中で必死になって隠れてる幽霊を見た時は哀れに思えたよ』
『戸を開けた時の幽霊も滑稽だったな、青い顔を更に青くさせてガタガタ震え出すんだからな』

と散々な扱いを受けてる奥さんを聞いて苦笑いを浮かべてる中村と伊集院。

『俺はあの姿を見たらなんだか幽霊が怖くなくなったよ』

と誰かが言った時に後ろから、

「あら、そう?」

って女の声が聞こえたから、言った奴が後ろを振り返る。

『お前はそう思わないか?』

と言ってギャーと叫び声を上げた。その途端にフフフと笑い声を残して女が消えた。
どうやら廃墟とは関係のない幽霊が、楽しそうな車中に紛れ混んでしまったらしい。

店では奥さんがくしゃみを繰り返し、おや風邪かい?と心配する店主の姿が見受けられた。
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