何でも屋さん

みのる

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第43話 謹賀新年。

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『新年、あけましておめでとうございます!!』

早朝からTVのどのチャンネルを見ても、こんな感じだ。
店主と奥さんは、2人同時に大きな欠伸をする。

『そうだ、た~ま~?たまた~ま~?』

ふと思い出したかのように愛猫のたまを探し始めた奥さん。
店主はコタツに潜り、他県出身の店主地元から直送のみかんを剥いて1つぱくり。

殆どの家庭で見られる至って平和な元旦の風景である。

“もしかしたら店の方かも”と思い、たまを探しに店舗の方へ行こうと奥さんがハンテンを羽織り出ていくと、「本日の開店は10時から」の貼り紙と閉店中の看板を出しているにもかかわらず、引き戸をガタガタ揺する者の存在があった。
奥さんは面倒そうに鍵を開け引き戸を開けると

『あけましておめでとうございます!!』

の声と共に現れた、中村と綺麗な振り袖を着た伊集院の姿が目に入る。
奥さんはさっきまでの仏頂面を慌てて隠して2人を歓迎する。

『おやま、おめっとさん!!伊集院のお嬢ちゃんは可愛い振袖を着てるねぇ♡』

と声をかけると、嬉しそうに伊集院が、

『ありがとうございます、一目見たときから気に入ってしまい両親に頼み込んで、ようやく買ってもえたばかりなんです』

と言う。

奥さんがニタリと笑い、

『おやまぁ、それは良かったねぇ…外は寒いし…立ち話もなんだから店の中へ、っと言ってもまだストーブを付けてなくて寒いからねぇ・・・
う~ん、そうだねぇこの際だから狭いけど店の奥へ入りなよ、あの人もまだ店の奥にいるからね』

と2人を中に招く。
2人は”お邪魔します“と言いながら店の奥へと入っていった。

『てか…何でも屋の家の中に入れてもらうのって…俺たち初めてだよな?なんか新鮮な感じだぜ!?』

中村の言葉に伊集院も同意する。

『そうね、…なんか、お邪魔しちゃっても良いのかしら…?』

店主が笑いながら挨拶する

『やぁいらしゃい、Cafeスペースの方が良いなら店の方へ行くけど…どっちにするね?』

中村たち2人は、

『いえいえ!是非ともここに居させて下さい!!』

実は…前々から興味があったようだ。

中村たちが期待してやまなかった奥の部屋には……。
2人用の小さなコタツとTV!!…TVの上には、一応鏡餅が供えられてある。
店主が2人に勧める。

『まあ、コタツに入ってTVでも見ながらみかんでも食べていきなよ。……地元産では無くて私の地元産だけどな甘いぞ(笑)』

2人がコタツに”失礼します“”邪魔するぜ!おっさん!“と足を入れる。すると…中村の足に蹴っ飛ばされたようで…たまが“フギャー!!”と鳴き声と共に慌ててコタツを脱出してきた。
奥さんが、

『おやま、たまそんなとこにいたのかい?』

膝に乗って来たたまの頭を奥さんが撫でる。
たまは奥さんに頭を擦り付けた。

店主がコタツから出て立ち上がると

『このコタツだと4人じゃ狭いね…大きいのと取り替えるからちょっと出てよ』 

と言うものだから皆コタツから出て端に避ける。全員が退いたのを確認した店主がみかんをどかし2人用のコタツを収納して代わりに大きめのコタツを取り出し店主がみかんをこたつの上に置き、

『今は冷たいけど直ぐに温まるから入ってよ』

と言うとみんながコタツに足を突っ込み、みかんを食べはじめる。
中村がみかんを食べ唸る。

『あめぇ~、なんつ~甘さだ!!味も濃いし絶品だな!』

伊集院も、

『本当、かなり甘いし濃厚な味ですね!』

すると奥さんがにたりと笑い、

「私もこのみかんに目がなくてねぇ…」

と呟く。

店主が時計を確認して、

『もうこんな時間か、どうする?ゆっくりと遊んで行くかい?遊んで行くなら今日は閉店にするけど…』

と聞くと中村が、

『今日は初詣に行く前に挨拶によっただけだから、俺らもそろそろ山手寺へお参りに行くよ』

と言って立ち上がる2人。

『じゃあなおっさん!』

と声をかけ続いて伊集院も、

『お邪魔しました』

と声をかけると店主も立ち上がり3人で店舗の方へと出て行く。
店主がいつもの場所で立ち止まり“気を付けて行けよ”と声をかけると中村が“ああ”とだけ返事して出ていった。店主がストーブに火を入れてそのまま入り口へ行き、貼り紙を外して看板を店内に引っ込めていつもの場所へと戻る。

店の外では子供達があっちへ行ったり、こっちへ行ったりと“キャッキャッ”言って走り回ったり、初詣客なのか店の前を行き交う人もいつも以上に多く、出店で何か買ってもらったのか“ママ、これおいしいよ”等と言う声も聞こえたり、“人多すぎだっての”等と愚痴なんかも聞こえたりしていている。
そうこうしていると遠くの方から、

『走ったら危ないよ、ハルちゃん!?走ったら危ないってば、言うこと聞かないと初詣に連れていってあげないよ!?ほんとにまったくもう…』

と言う声も聞こえてきたり、何やら泣き声が聞こえてくるなと思ってると、ガラガラガラっ!と引き戸が開き中村が伊集院を庇うようにして入ってきた。
伊集院は泣いているし振袖も着崩れていて、何やらベットリと赤いものが付いてたり泥なんかも付いてる。

あまりもの惨状に店主が驚いて、

『いったい何があったんだ?』

と声をかけると中村が何が有ったのかを怒りながら話しはじめる。

『とにかく人混みが凄くてな、はぐれないように苦労しながらも…何とか2人でお参りを済ませたんだけど、人が多いもんだから伊集院の着物が着崩れるわ、雪溶けの泥跳ねで汚れるわで極めつけにフランクフルトを食ってるやつにケチャップをベッチョリとされてまってな・・・あんな人混みの中でフランクフルトなんか食ってんじゃねぇよ、ほんとにまったく!!』

怒り心頭で有る。

店主が、

『おや、それは大変だったな』

と言うと、奥に向かって、

『お~い、お嬢ちゃんがひどい有り様だから奥で着付けをし直してやってく・・・』

と言いかけてる途中で“何だって~”と奥さんが凄い剣幕で飛び出して来て、店主が“うぉっ!!”って驚く。

『おやおや、綺麗な振袖なのに酷いねぇ、さぁ奥へおいで』

と伊集院の手を引き奥へと行こうとする奥さんに店主が、

『この染み抜き持っていくと良いよ』

と渡す。

中村が店主に礼を言う。

『すまねぇなおっさん、何から何まで面倒かけて…』

店主は特に気にした様子もなく、

『このくらい構わんよハッハッハッ!』

と笑う。

暫く店主と中村が談笑してると“待たせたねぇ”の声と共に奥からと奥さんと伊集院が出てきた。

声がしたので店主が振り返り、伊集院の振袖を見て声をかける。

『うん、染みも綺麗に取れたようだね』

中村も、

『本当だな、まるで最初から染みなんか無かったみたいだ!』

伊集院が恥ずかしそうに、

『はい、お陰さまで助かりました』

と答える。

4人が談笑している間も、人々が何でも屋の前を頻繁に行き来しており、子供の笑い声や泣き声にキャッキャッ言いながら走り回ってたり、カップルの話し声に夫婦らしき人が夕飯の会話などをしている。
それが気になるのか中村が入り口の方をみながら口を開く。

『しかし今日はやけに人の往来が多いな…』

と言うと店主が、

『初詣の客だろうね、こんなに多いのはいつも元旦だけだよ』

と返す。

『ハルちゃん危ないけん走ったらダメって言ってるでしょう!?ほんとにまったくもう!』

と店の外から声が聞こえて来て、見ると引き戸の曇りガラスの前で小さな子供の影が立ち止まり振り返り、

『はやくおいで~』

と子供の声が響いた。暫くして唇がやけに前に出た女性の影が現れ、小さな子供のそばまで来ると立ち止まり2 人は手を繋ぐ。
すると女性がもう片方の手に持ってる棒状の物を口元に運び、やけに前に出てる唇をモゴモゴと動かしながら2人は歩きはじめる。
2人の影が消えてからまた声が聞こえて来る。

『おやぁ~!?フランクルトのケチャップが無いがね!!どこに落としてきてしまったがね、ハルちゃんが慌てて走るからだよ?ほんとにまったくもう!』

その声を聞いた4人は伊集院の振袖を汚した犯人が誰だかわかり、その犯人が今まさに目の前を通って行ったので4人の顔はひきつっていた。
暫く店内はし~んしていたが中村が口を開く。

『…まぁ伊集院の振袖も元通り綺麗なったから別に良いけど、これからは持ち歩く場所を考えて欲しいぜ…』

と呆れ顔。
そんな中村に伊集院が横から“そろそろ帰りませんか?”と話しかけると中村も“そうだな帰るか”と返す。店主夫婦の方へ向き、

『俺たちはそろそろおいとまするよ、じゃあなおっさん!今日は助かったよ』

と言うとふたりは帰って行った。

店主が奥さんの方を向き、

『今日は正月だし…そろそろ店を閉めるか?』

と話しかけると奥さんも乗り気で、

『そうだねぇ、今日はもう閉めて御雑煮でも食べて暖まろうじゃないの!』

と返事をして店を閉めるために入り口の方へと歩いていく。
店主はストーブの火を消してから奥へと入っていき、御雑煮と箸を2つ取りだしこたつの上へ並べて奥さんが来るのを待つ。
やがて店を閉め終えた奥さんが“お待たせっ!”と奥の部屋へと入ってきてこたつに潜り込むと

『さっそく御雑煮をいただこうかねぇ』

と言い雑煮を啜りはじめる。
テレビを付けるとちょうど飛行機人間コンテストがやっており、2人は飛行機人間を見ながらもくもくと雑煮を食べて進めていた。
雑煮を食べ終えた店主が、

『どうだい、1杯やるかい?』

と珍しく奥さんに酒を勧め、ふたりは御節をツマミにお酒を呑みはじめ、そのまま知らぬ間に日が暮れていった。
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