何でも屋さん

みのる

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エピローグ~バッドエンド(?)~【後編】

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ーーーーーーーーーー過去に有った真実ーーーーーーーーーー
何でも屋の奥さんは、自分の事を愛してくれていた青年(店主)だけが死んだと思い込んでおり、実は自分自身も死んでいた事を知らなかった。

青年を失った悲しみから自暴自棄になり川沿いをフラフラと歩いていた時に足を踏み外し、高さ数メートル下の河原へと転げ落ち運悪く打ち所が悪く死んでしまったのだが、近くには怪しげに光る1つの箱が転がっておりその箱がまるで意思を持ってるのかの様に一際明るく輝きだし、光で奥さんの遺体を包み込むと身体から傷が消え去り奥さんが息を吹き返す。

暫くした後、自分が死んだことを知らないまま意識を取り戻した奥さんは、辺りを見回すと自分のすぐ側に怪しげに光る謎の箱が有るのを見付け、思わず謎の箱を手に取ると光が徐々に消えてゆきやがて完全に光が消え失せた。

不思議に思いながらも奥さんは、まるで操られる様にその謎の箱を大事に胸へ抱きかかえて持ち帰り、自宅で謎の箱を色々と調べている内に自分が思ったものを何でも取り出せることに気付く。
奥さんの鼓動が早く打ち始め、震えて汗ばむ手を箱に入れるとある願いをしながら恐る恐る手を引き出してゆく、するとその手には拳大のユラユラと揺らめく球形の物が握り締められていた。

怪しげに揺らめく球形の物を暫く眺めていたが、球形の物をテーブルの上に置き再び謎の箱へ手に入れると次は成人男性サイズの実物大人形を取り出した。
ゴクリと唾を飲み込んだ奥さんは、震える手で揺らめく球形の物を手に取り人形へ近付けると球形の物は人形の中へと吸い込まれ、突如人形が目も開けていられないほど激しい光りに包まれた。
どのくらいの時が経ったのか…激しく輝いていた光が消えると、そこに有った筈の人形は無くなり代わりに奥さんかよく知っている青年が横たわっていた。
奥さんは驚きで思わず目を見開いたが、すぐに嬉しそうな表情になり目からは涙がポロポロと零れはじめた。

震える手で恐る恐る青年の顔を撫でると青年の顔には温もりが有り、顔を“ウッ”としかめたかと思うと目を開き、

『あれ?ここはどこ?何でこんな所に寝てるんだろう?』

と言いながら目をキョロキョロと動かして辺りを伺いだし、奥さんと目が合うとそのまま見つめ合う2人。

『・・・・・・』

暫く沈黙が続き、奥さんが“変な願い事をしたからもしかして記憶が無いの?“と内心焦り出すが、たんに目覚めたら自分の好きな人と目が合ったために理解が追いつかずに固まってただけらしく、青年の顔が真っ赤に染まったかと思うと飛び起き、

『何で池田さんがここに居るの?そしてなんで泣いてるの?』

と言いだす。

奥さんは“記憶が無いのは一部だけで私の事は覚えてるのか”と一安心して、一部記憶が欠如してるのを良い事に嘘を話し出す。

『アナタ、何言ってるのよ私達結婚したのよ?帰ってきたらアナタが倒れてて、呼びかけたり揺すったりしても目を覚まさなくて心配したんだからね、大丈夫なの…?アナタ記憶が無いの?』

と言い青年に抱きつき泣きだす。

青年は戸惑いながら、

『池田さんと結婚したなんてそんな嬉しい事絶対に忘れる筈無いんだけどな~』

と言いつつも頬はニヤニヤと緩んでいた。

奥さんは青年の胸に顔を埋め泣いてはいるが口元はニタ~っと嫌な笑いをしていた、奥さんのニタ~っと笑う癖はどうやらここがはじまりのようだ。

青年の魂に自分以外の女の子に好意を持たないように修正を加えた状態で取り出した物だから、一時は焦った場面も有ったが何とか上手くいったようだった。

その後青年と奥さんは、とある町の片隅に店を開き青年を店主として夫婦で何でも屋をはじめ今日こんにちにまで至るのであった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

再び現在に戻る。
店内にたまの鳴き声が響き渡ると、奥さんとタラコ唇の女性はハッとなり店の入口へと顔を向ける、2人の視線の先にはかなり古くボロボロに朽ち果てた人形が壁に向かって寄りかかっており、その人形の手の中でたまが抜け出そうと身体をもぞもぞと動かしている。

奥さんがガタッと音を立てて立ち上がると“あ、あぁ・・・“と声にならない声を出しながら人形の方へと向かってよろよろと歩いて行き人形のすぐ側まで来ると、“あんた・・・”と呟きながら震える手で朽ち果てた人形へ触れようとするとたまが朽ち果てた人形から勢いよく飛び降り、その反動で朽ち果てた人形はガラガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

それを見ていた奥さんも崩れ落ち“うわぁぁぁ”と大声で泣きはじめ、

『わぁぁぁぁ・・・なんでこんな事になるんだよ・・・、なんでこんな事に・・・
うわぁぁぁぁ~、私はただあんたと一緒にいられるだけで良かったのになんでよ・・・あぁぁぁ
こんな事なら親切心なんか出さなきゃよかったよぉ・・・』

奥さんは店主だった朽ち果てた人形の一部を強く抱きしめオイオイといつまでも泣き続ける。
タラコ唇の女性も涙を流しながらも虚ろな目をして、奥さんに声をかける事も無くふらふらと店を後にした。

何でも屋では夜遅くまで泣き声が響いていたが、深夜1人の人影が店から出て来たと思うと引き戸に張り紙を貼り付け、続いて鍵をかけてどこかへと歩きはじめた。
その人影は小さな黒い影を抱き上げていた。

『アンタも…何処にでもおいき?』

と外に放つ……も、その影はなかなか立ち去らない。
人影は暫くその場を離れるのを躊躇うが…やがて意を決して、その場から足早に姿を消した。

夜が明けいつもの青年が朝から店を訪れていたが引き戸には張り紙がされており、張り紙には“店主急死の為閉店致します、長らくの間ありがとうございました。店主の妻より”とだけ書かれていた。青年は驚き、

『おっさんが急死って嘘だろ?だって昨日はあんなに元気だったじゃないか‼あんなに楽しそうに笑ってたじゃないか‼』

と言い、引き戸をガンガン叩きながら、

『おい、おっさん居るんだろ?急死って嘘だよな?なぁ奥さん、嘘だよな?ここを開けてくれよ、なぁおっさん‼』

と叫び最後に1度だけガンと引き戸を叩き震える手で目を覆う青年、手の隙間からは涙が溢れ出しており声を圧し殺して泣いていた。


「・・・どこへ行っちまったんだよ、奥さん・・・」と呟き、ひときわ大きな声で

『おっさ~ん!!』

と叫んだ。

すると、どこからともなく“こんな朝っぱら誰だいうるさいね”と聞こえたような気がしてハッとして顔を上げ涙を拭う青年。
何でも屋の引き戸がガラガラガラっ!と音を立てて開くと、目の前には見慣れたいつもの光景が広がり店主の姿があらわれる、すると店主が

『誰だいこんな朝っぱらから、ってなんだお前さんか…そんな所につったってないで中に入ったらどうだい?』

と声をかけて来た。青年が“やっぱり居るじゃないか”と思いフラフラと店に入ろうとすると、後頭部に衝撃が走り驚いて振り返ると、顔を真っ赤にした強面のおっさんが、

『朝っぱらから、ばかデカイ声で叫ぶな驚くだろうが‼』

と怒鳴る、思わず青年は、

『驚かせてしまいすみません』

と謝罪すると強面のおっさんは“これからは気をつけろ”と怒鳴り去っていった。

青年が再び店の方を向くと引き戸は来たときと同じように閉まっており店内は電気が消えていた。何度も引き戸を引くも鍵がかかっており開くことは無かった。

「おっさん、本当に死んじまったのか…」

と呟くと青年はとぼとぼと帰っていった。

青年が見た店主は、青年が生み出した幻だったのか…店主が青年に最後の挨拶に来たのかは誰にもわからない…


何でも屋が閉店され青年が訪れたその日の夜遅く、何でも屋から遠く離れた場所で1人の人影が手に小さな箱らしき物を持ち、

「・・・ろ、お前さんの声がまた聞きたいよぅ・・・いつものようにお前と呼んでおくれよ、一言で良いから声を聞かせておくれよ・・・」

と嗚咽を漏らしながらフラフラと歩いている。

暫く歩き続けるがやがて立ち止まり、

「私の我が儘で、長い間窮屈な場所に押し込んでてごめんねぇ、私の事・・・恨んでるかい?苦しい思いさせて悪かったねぇ…」

と言い、その場に座り込み今まで大事そうに持っていた小さな箱らしき物を横に置き、震える両手で顔を覆いわんわん泣き出す。

『・・・の声が・・・よ、・・・に会・・いよ
・・・
・・・ろに会いたいよ!!また話がしたいよぅ!!私の事また抱きしめておくれよぅ!?これからは離ればなれなんていやだよぅ!!わぁぁぁぁん、うわぁぁぁ~ん‼』

と最初は消え入りそうな声だったがやがて声は大きくなり所かまわず大声で泣き出す、目からは涙が次から次へと溢れだし留まる事を知らない、暫く泣き続けまた立ち上がるとフラフラと歩きだす。

人影は山の麓へとたどり着きそのまま気にする様子も無く山へと分け入っていく、辺りには漆黒の様な暗闇が広がっており人影はその闇の中へとまるで消える様に吸い込まれて行く。人影が完全に見えなくなると暗闇の中からカラカラカラと何かが転がり落ちた様な音が聞こえて来た。

何かが落ちた様な音がした後、ぼや~っと光る人影がゆっくり天に昇ってゆく。その人影はどんどん天に向かって登り続けやがて雲の上へ抜けると、そこには同じくぼや~っと光る20代前半位の青年の人影が見えてくる。

その青年の人影を視界に捉えると、天へと向かって登ってきた人影の目がみるみるうちに大きく見開かれていく。
驚いている人影が青年の人影に語りかけた。

『あんた・・・、あんたに酷い事ばかりしてきたこの私をここで待っていてくれたのかい?私の事許してくれるのかい?』

そう問いかけると若い男の人影がにっこり笑って頷く。それを見た人影が涙を流しはじめ、

『ありがとね嬉しいよ、またあんたに会えて嬉しいよ…でもねあんたは若い姿のまんまだけど私はすっかりおばちゃんだよ、私なんかと一緒に居て良いの?』

と悲しそうな顔をして言うが、青年はにっこりと笑ったまま…

『何言ってるの、君は僕が好きだったあの頃のままだよ?』

と青年が言い返すと、中年女性だった姿は眩く光り始めると20代前半の頃の姿へと変わってゆく。

青年が腕を拡げ“おいで”と言うと女性は涙を溢しながらにっこり笑って青年の胸へと飛び込む。
2人はもうお互い離れるつもりはないのかしっかりと抱き合って口付けをする。女性が青年に向かって、

「来世では…上手く結ばれるかな?」

と呟くと青年はなんの迷いも無く、

『きっと結ばれるよ!』

と言うと、2人は照れ臭そうにうつ向いたかと思うとまた見つめ合い、2人は手を繋ぎ天へと昇っていった。


~完~
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