何でも屋さん

みのる

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エピローグ~バッドエンド(?)~【前編】

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(注)この話しは常連の青年(中村)とタラコ唇の女性(伊集院)が結ばれない話の結末です。

今日もまた何でも屋にはタラコ唇の女性が訪れており、ここ最近よく訪れるのを物陰から見ていた奥さんが溜息混じりに呟く。

『うちの人を好いてくれるのは別に良いんだけど、このままじゃあの子の為にならないし…何とかしないとねぇ…』

店主に声をかけられた訳でも無く、店が忙しい訳でもなく…奥さんの方から店の奥から出て来たからものだから店主が不思議に思い声をかける。

『おや?声もかけてないのに出てくるって珍しいね、どうしたんだい?』

店主に声をかけられた奥さんは“あの子に話が有ってね”とだけ返事をしてタラコ唇の女性の側へと歩み寄り問い掛ける。

『いらっしゃい、所でねぇ…あんたに大事な話が有るんだけど…明日時間有るかねぇ?』

奥さんに問い掛けられたタラコ唇の女性は、

『午後2時くらいなら時間有りますが・・・何ですか?』

と怪訝そうな顔で言う。

すると奥さんは、

『うちの人の事で話が有ってね、それじゃあ悪いけど…2時きっかりに来てるくれるかねぇ?くれぐれもあの人には内緒にね』

と伝えてまた奥へと戻ってゆく。奥さんは内心“後は明日あの人を散歩にでも追い出すかねぇ”と考えていた。

タラコ唇の女性が買い物を済ませて帰ると入れ替わる様にいつもの青年がやって来た。

『やあおっさん、また来たぜ!』

するとこれはチャンスと、またもや奥さんが大慌てで飛び出してくる。
店主が“またか”と思い、

『さっきからいったい何をやってるんだい?』

と不思議そうに声をかけるが今度は返事もせずにいつもの青年の所へと駆け出しコソコソと声をかける。

「いらっしゃい、すまないんだけど明日暇かい?暇ならあんたに頼みが有ってね…明日ある客が来て大事な話しが有るから、その間、うちの人を何とか連れ出して貰いたいんだよ」

状況を察した青年も小声になり奥さんに問い返す。

「別にいいけどよ、何時くらいに連れ出せば良いんだ?」

すると奥さんは、

「客は2時に来るから…それよりも少し早めに来て連れ出してくれればそれで良いからさぁ…くれぐれもうちの人には内緒でね」

いつもの青年は確認も兼ねて、

「わかった、2時より早めに来て連れ出せば良いんだな?」

奥さんは“それで良いよ”とだけ呟いて戻ってゆく。店主に、

『あの青年とさっきのお嬢さんが独り者みたいだかさぁ、どうかな?と思って声をかけたんだよ』

等とはぐらかして奥へと入っていく。

青年は暫く店主と雑談した後何も買わずに帰って行った。


翌日、昼の1時半を過ぎた頃に約束通りに青年がやってきた。ガラガラガラっ!

『おっさん、今日も来たぜ!』

と青年が軽く挨拶すると店主は相変わらずな返事を返す。

『昨日来たばかりなのにまた来たのかね?』

青年はムッとしたのか言い返すが、本来の目的を思い出し切り出す。

『客に向かってまた来たのかとはなんだよ?ほんとにまったく、・・・そんな事より、ほとんど毎日そんな風に椅子に座りっぱなしで身体に悪いんじゃないのか?
少し気分転換でしに散歩にでも行かないか?』

店主は気乗りしないのか、

『う~ん、そう言っても店番も有るからね・・・』

『店番なら私がしとくからたまには散歩に行っといでよ、それとついでにたまの散歩もお願いね?』

と断ろうとするも奥さんが出て来て店主に散歩を勧める・・・たまの散歩を押し付けて。

店主は諦めたように、

『それじゃあ散歩に行くか・・・』

と言って立ち上がり、奥さんの目論見通り青年と散歩に出かける・・・たまを連れて。

「さてと、上手く追い出すことも出来たし…後はあの子を待つだけだね」

と奥さんは呟きニタリと笑う。

そのまま奥さんは店の入口の方へ行き【本日閉店】の看板を店先に出し、店主がいつもいる場所へと移動し”よっこらせいいち”と掛け声を出しながら椅子に腰掛ける。
時間が10分程過ぎた頃入り口にシルエットが浮かび上がり引き戸をコンコンとノックする 。
奥さんが“鍵は開いてるから入っとくれ”と声をかけるとガラガラガラっ…と引き戸を開きタラコ唇の女性が入って来る。
奥さんが間髪をいれずに声をかける。

『今日はわざわざ悪かったねぇ、そこにでも腰をかけておくれよ』

と奥さんの前に有る席に座るように勧める。
 
奥さんがいる所までやって来たタラコ唇の女性が、

『はぁ…で私に何の話が有るのですか?』

と椅子に腰掛けながら奥さんに問いかける。

問いかけられた奥さんは、

『あんたはうちの人の事を好いてるよねぇ?別に隠さなくって良いさ。特に買う物も無いのによく通ってきてるし…あんたの態度を見てればわかるからねぇ』

と奥さんは話し、タラコ唇の女性の返事を待たずにそのまま続ける。

『うちの人の事を好いてくれるのは別に良いんだけどねぇ、なんと言うかねぇ・・・うちの人の事は・・・諦めてくれないかねぇ?あんたは若いんだしもっと相応しい人が居ると思うんだけどねぇ・・・』

黙って聞いていたタラコ唇の女性だったが、

『・・・そんなの私の勝手であなたに関係ないですよね?私、ぜっっったいに諦めませんから!!あなたから必ず店主さんを奪ってみせます!!』

等と奥さんに食ってかかる。

奥さんは困った顔をしながら話す。

『困ったねぇ、あの人の事を想い続けてもあんたが不幸になるだけなんだけどねぇ・・・』
 
奥さんの事を睨みつけながら言い放つ。

『そんな事言って…本当は私に奪われるのが怖いだけなんでしょ!?』

奥さんは戸惑いながらも、

『怖い?まぁ・・・あの人を奪われるのは怖いかねぇ?取り敢えずお茶でも飲んで落ち着いておくれよ、このままじゃ話が進められないよ』

と言ってお茶を入れながら、“奪われるのが怖い・・・か、まあ私以外を好きになる事なんてないからそんな心配は無いけどね”とタラコ唇の女性に聞こえない位の小声で呟く。


一方店主達は公園のベンチに腰を下ろして談笑をしていた。
青年が店主に、

『おっさんはたまに散歩してたみたいだけど…こうして2人で散歩するの初めてだな、これからもこうして2人で散歩しないか?』

店主は呑気そうに笑いながら答える。

『そうだな、たまにはいいかも知れないね。』

青年が続けて言う。

『それに…毎日椅子に座ってたら陰気臭いからな!』

それを聞いた店主が、

『ほっとけ、それに誰でもほぼ毎日椅子に座りっぱなしで店番してたら陰気臭く見えるよ!』

と反論する。

すると青年が“ちげえねぇ”と言い2人が笑い出し、ふと時計を見た青年が

『おっと、もうこんな時間か。もうすぐおやつの時間だな』

と言い笑うと店主が、

『しまった、たまのおやつを持ってくるのを忘れてたよ!!時間もけっこう経ったし…そろそろ帰るよ』

と言って立ち上がり“じゃあまたな青年”と声をかけて歩きはじめる。

青年は内心“どこか近くの店で何か買ってたまに食べさせても良いけどな”と思いながらも、“まあ家に帰れば有るしわざわざお金を使う必要も無いか”と思い直し青年も店主に“またなおっさん”と声をかけた。
結構長い時間連れ出せたしそろそろ良いかなと気軽に考えていたが、この時の選択肢で重大な事が後に起こる事を青年をはじめ誰も知る者はいなかった。

ー一方何でも屋ー
奥さんがタラコ唇の女性に、

『まあ事情が色々有るんだけどねぇ・・・あの人があんたの事を好きになる事は無いんだよ、これは絶対に間違いないからね』

タラコ唇の女性は到底そんな事は信じられず反論する。

『そんな事…やってみなければわからないじゃない!!』

そんなタラコ唇の女性に困り果てながらも奥さんは続けるがイライラしだす。

『通常はそうなんだけどねぇ、うちの人は特別なんだよ。だから私以外に好きになる事は無いんだよ!!』

しかしタラコ唇の女性も引き下がらない。

『そんな事言ったって人の心に絶対なんて無いじゃ無いですか!!』

『わかんない子だね、ほんとに全くもう!』

とイライラするが観念したのか声を落ち着かせて話をし始める。

『はぁ、しょうがないねぇ・・・あんたはうちは何でも屋で無いものは無いって言うのは知ってるよねぇ?』

『そんな事知ってるわよ、それが何か関係あるのですか!?』

等とタラコ唇の女性はまだ食ってかかる。

奥さんは気にせずに続ける。

『これから言う事はここだけの話だから口外しないようにしておくれよ、実はね・・・あの人はもう何年になるかねぇ?随分と前に死んでる人なんだよ・・・』

と遠い目をしながら涙を流す奥さん。

流石にタラコ唇の女性も驚き嘘だと思うが、奥さんの様子を見て嘘とも言いきれず戸惑いながらも問いかける。

『えっ!?でもそんな・・現に店主は笑ったり照れたりして他の人と何の変わりないし、手が触れた事が有りますが体温も伝わって・・・そんな嘘・・』

と言いかけてやめる、かなり困惑してるのか目が泳いでいる。

そんなタラコ唇の女性に奥さんは、

『良いから黙ってお聞き、あれは私が20歳を少し過ぎた頃だったかねぇ?その当時、あの人は私に何度もアタックしてくれてたんだけどね、私には他に好きな人が居て…その人の事をどうしても忘れらなかったんだよ』

ここで奥さんがお茶を啜りまた話しはじめる。

『あの人の事も気にはなってたけど、何度もアタックしてくるからいい加減にうんざりして来てね…ある日こっぴどく振っちまってね、肩を落として俯いてしまったあの人をそのままにしてたんだけど、あの時のあの人の顔は今でも忘れられなくてね・・・悪い事したよ・・・
そんな事をしておきながら私も勝手なもんでね、好きな人に告白しようといつも見かける場所へ向かったんだけどその途中で街で見かけて、声をかけようと走り出しかけたんだけどよく見たら知らない子と手を繋いで楽しそうに歩いててね、その時初めて失恋する辛さを思い知ったよ。もうね、悲しくて悲しくて涙が止まらなくって前も見ずに歩いてたもんだから、狭い道だったんだけど横断歩道が有るのに気付かずにそのまま渡ろうとしてしまってね・・・』

ここまで泣きながら話してたから鼻水が出てきたのか奥さんが鼻をチーンっとかんで、また話をしはじめた。

『その時前から“危ない!!”って声が聞こえて来て突き飛ばされてね、一瞬何が起こったのか分からなかったけど背中に痛みが走って空を見上げてたから“あぁ突き飛ばされたんだ”って分かってね、突き飛ばした奴に文句を言ってやろうと身体を起こしたら男性が倒れていて、周りには人集りが出来はじめててガヤガヤ騒ぎながら救急車を呼べとか叫んでてたから、何があったのかと近寄ったら…あの人が血を流して倒れてて、近くにはへこみが出来た車が止まってて運転手が震えてたからあの人が車に跳ねられたのは直ぐにわかったよ・・・』

話しきった奥さんがぬるくなったお茶を啜り“ふぅ~”とひと息つく、タラコ唇の女性もいつの間にか涙を流しており手にはハンカチが握り締められている。

ひと息ついた奥さんがまた話しはじめた。

『あの人は目を開いていたから、人混みの中に私を見つけてニッコリ笑って“無事で良かった、怪我はなかった?”なんて自分は痛くて痛くて堪らないだろうに私なんかの事を気にしててね、本当に馬鹿な人だよ…こっ酷く振った私なんか庇わずほっとけば良かったのに・・・』

とまたズズーッと鼻を啜る奥さん。

『私はもうただ泣き続ける事しか出来ずにね、気にはなってたんだけどその時に初めて私は“あぁこの人の事も好きだったんだ”って最悪な形で気付いてね、私も本当に馬鹿だったよ。
もっと早くに気付いてたら幸せになれてた筈だったのにね・・・、結局は手遅れで救急車が到着する頃にあの人は息を引き取ったよ・・・』

チーンとまた鼻をかむ奥さん。

ここでタラコ唇の女性が口を挟んできた。

『不思議に思うのですが、店主さんは酷い振られ方をしたのに何で後を追い掛けて来てたのでしょうね?』

そう問いかけられ奥さんは、

『あぁ、それはあとの事は衝撃が強くて何だったかは忘れてしまったんだけど、私が何か落とし気付かずにてそのまま立ち去ったからそれを届ける為に街へ追い掛けて来てくれてたんだよ。
で、その後の記憶が私も曖昧でね?川沿いを歩いてたのは朧気には覚えてるんだけど・・・気が付いたら河原で倒れててすぐ近くに手のひらサイズの箱が落ちてたんだけど、何を思ったのかその箱を持ち帰って色々調べてる内に自分の欲しい物が(ガラガラガラ)箱から何でも取り出せる事に気付いてね、あの人の魂を取り出して人形の中に押し込んだ訳さ。
あの人に死んだ事を知られると魂が抜けてしまうから…くれぐれも内緒でね、他の人に話してもダメだから2人だけの秘密にしておいておくれよ?』

と奥さんが話し終えた時に、店内にたまの声が”にゃあーん♪“と響いた。
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