超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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「おい、お前」

 俺の心の声が天に届いたか、スキンヘッドで眉毛のないいかつい学生が、取り巻きらしき連中をつれて俺に近づいてきた。大声で叫ぶように尋ねてくる。

「知ってるぞ、不論戸の鏡研磨だろ? 喧嘩最強とか調子に乗っている……。いっちょ俺と一対一でやらないか?」

 ふん、まだ俺の強さを知らない馬鹿な不良がいたのか。こいつは一発体に教え込んでやらねえとな。

 争いに巻き込まれてはごめんだと、周りの通行人がそそくさと通り過ぎていく。商店街のど真ん中で殴り合いをするのは、さすがの俺も気が引けた。

「場所を変えようぜ。だったら応じてやらあ」

「いいだろう。おいお前ら、行くぞ」

 他校よその生徒たちは肩で風を切りながら、俺をどこかへといざなっていく。俺は連中の背中を見ながら、何で俺は生きているんだろうと考えていた。

 勉強をする気もなく、部活に入って汗を流すでもなく、ただただ喧嘩のことばかり考えている俺。いつ死んでも誰一人として涙を流さないだろう。むしろ厄介者がいなくなってせいせいしたと、誰もが祝杯をあげて喜ぶかもしれない。……いや、親父とお袋はそれでも泣いてくれるかな。弟のうつるは――俺の死に顔に唾でも吐きかけそうだ。

 命の価値は地球より重いとか、誰かが言ってたっけ。果たして俺を前にしてもそんなことがほざけるかな? ぜひとも試してみたかった。

 辿り着いた公園には、鉄パイプや釘バットをたずさえたガラの悪い連中が、13名も待ち構えていた。どうやらこっそり携帯電話で兵隊を集め、先回りさせていたらしい。情けない野郎たちだ。

 スキンヘッドがこちらに正対し、「かかれ!」と号令を下す。おいおい、一対一じゃなかったのかよ。屈強な学生たちが、俺一人相手に一斉に飛び掛かってきた。



……10分後、立っているのは俺だけだった。他校の馬鹿どもは、顎や腹を押さえてうめき声を立ち昇らせるばかりだ。スキンヘッドは足早に逃げ去っていた。まあお山の大将なんてものは逃げ足ばかり早いのが昔からの鉄則だ。俺は地面に唾を吐くと、両手をポケットに突っ込んでトンズラここうとした。警察が飛んできたらまた厄介なことになりそうだからだ。

 手こずりそうだった鉄パイプや釘バットは、今日覚えたばかりの新技・手刀で真っ先に真っ二つにしていた。えらい切れ味だった。その残骸が俺の靴に蹴飛ばされて、からからと間の抜けた音を発する。包丁どころか真剣すらをも超える、手刀の威力。俺、一体どうなっちまったんだろうな……

 公園を出るとき、背後から負け犬たちの一人がののしってきた。

「化け物め……!」

 うむ、心地よい。拳の方は相変わらず、一昨日より昨日、昨日より今日の方が調子がいい。このままボクシングジムの門でも叩いて、本格的に拳闘をやり出したら、あっという間にベルトまで到達できるんじゃないか?

 そんなことを夢想しながら、俺は帰宅の途に就いた。もちろんストイックなプロスポーツの世界など、ガラではないと初めから分かっている。

 ああ、腹減った。



……などと考えていたら道に迷ってしまった。あの丸坊主、俺を散々歩かせて遠くまで連れてきておいて、いの一番に逃走しやがって。せめて周辺の地図ぐらい持たせろや。俺はスマホなんて高級なものは持ってないんだぞ。

 目印すら乏しい中、俺は空きっ腹を鳴らしながら春の住宅街をぶらついた。駄目だ、現在地が全く分からん。俺は今、自宅からどれだけ離れ、どちらの方角を歩いているのか、まるで見当けんとうがつかなかった。

 夕暮れが近づいている。おいおい、このままじゃ夜になっちまうぞ。陽光を浴びた万物があけに染まり、長く影を伸ばす黄昏時たそがれどき。俺は途方に暮れて、カアカア鳴きながら藍色の空を飛ぶカラスをうらやんだ。俺も空を飛べれば、自宅の方向が分かるかもしれないのに……

 と思った直後だった。

 突然俺の体が舞い上がり、一気に100メートルほど上空まで飛び上がったのだ。

「うわあっ!」

 怖いものなしのさすがの俺も、目もくらむような高所に突然運ばれて、周章狼狽しゅうしょうろうばいの極みに達した。

 何じゃこりゃ? 街は確かに小さくなり、列車の線路から自分のおおよその位置が判別できたが……。落っこちれば確実に死ねるぞ、これ。

「ち、着地だ着地!」

 俺が宙をかきむしっていると、まるで俺の意思に的確に答えたかのように、今度はゆるゆると体が降下していった。ふわり、と羽毛のように地面と靴の裏が接吻せっぷんする。た、助かった。俺は思わず前のめりに膝をついた。

 何だったんだ、今のは? まるで俺の考えた方向へ、あたかも体重のないもののように飛び上がり、着地した。今日は吉良を切りつけた手刀といい、今の空中遊泳といい、おかしなことばかりが起きる。

 何だか時が経つに連れて進化しているような感覚だ。俺は心臓の動悸どうきしずまってくると、茶目っ気を出して再度の飛行を試してみた。

――飛べ!

 すると俺の体は、またはるか高くの空中に飛翔していた。俺が念じると、右に旋回したり左に滑空したりと、自由自在に飛ぶことが出来た。何これ、楽しい。しかし地上から俺を見上げるおばちゃんや老人、子供たちの視線に気恥ずかしくなり、また彼らの明日の話題になりそうだったので、すみやかに着地した。

 しかしすげえな。どうなっちゃってんの、俺。ともあれ、何だか周囲の人間を上回ったような感覚を得て、俺は上機嫌だった。今度こそ、と自宅の方向へ歩き出す。このままじゃ餓死しかねないから、今日はお袋の世話になるか。

 辺りはとっぷり暮れ、煌々こうこうと輝く街灯が道を照らし出す。なじみのある近場へ到達し、俺は迷子から抜け出して、余裕たっぷりに足を繰り出していった。

 そのときだ。

「あんた、ちょっと待った」

 身長に差のある二人組が、ひと気のない街路で俺を待ち受けていた。どちらも女のようだが見覚えがない。

「何だ、てめえら」

 俺はつくづくと彼女らを眺めた。年の頃は16、7か。背の高い――といっても160センチ弱といったところか――女は金色の長髪で、天使な美顔の持ち主だった。俺の心の琴線きんせんに触れる、好みの顔だ。複雑な唐草紋様の描かれた青い長方形の布を、中心に穴を開けて頭から被り、腰を赤い紐で巻いた――そんな衣装だった。スタイル抜群で、先のとがった革の靴を履いている。腕や素足は相貌そうぼう同様、白皙はくせきで清らかなイメージだ。

 そいつが具合悪そうに言った。

「何じろじろ見てるのよ、変態! やっぱり人間界の男はみんな、あたしの体に欲情するんだわ。キモっ!」

 背の低い方が相方をたしなめた。

「ミズタ、助力をう相手にそれは失礼です」

「でもマリ、あの狼のようなぎらついた眼光見た? 完全に性犯罪者のそれじゃない!」

 マリと呼ばれた方は小さく溜め息をついた。こちらは赤色のショートボブだ。紐で耳に引っ掛ける形の眼鏡をかけている。あじさいの花のような魅力ある顔立ちで、ミズタ同様の服を着ているが、こちらは胸も小さく腰のくびれも少なかった。背の高い方のミズタより若干幼く見える。
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