超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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「ここで休んでろ、京。今から写の奴をぶん殴りに行く」

「ああ……。頑張ってくれ、研磨君」

 どうやら意識ははっきりしているようだ。死ぬようなことはないだろう。俺は安心すると、外界と隔絶された神殿内を、奥の間目指して歩いていった。『境界認識』がはっきり写の存在を捉えている。いる、ここに。俺の弟にして、両親と神族の仇が――

 俺は背の高い部屋に入った。ロウソクの明かりに照らされ、黒マントがうずくまっている。そのすぐ前方に、ミイラのような骸骨のような、肉のない死体が転がっていた。髪の毛が長いことから、女の子らしいと分かる。

 黒マントは――写は泣いていた。その背中は小さく、親父やお袋、ハンシャを殺した人物とは思えないほどはかなげだった。俺は嗚咽おえつを漏らす弟に声をかける。

「その子が美羅ちゃんか」

 中学3年の少年は、肩を震わせて独語した。

「何で……何で術が失敗したんだ。美羅……僕の美羅……」

 俺の中で復讐の炎が乏しくなっていく。やはり京が睨んだとおり、写が『大統一』を起こしてまで手に入れようとしたのは、最愛の少女・光美羅の復活だったのだ。こんなときだというのに、こんな場面だというのに、何だか弟があわれに思えてくる。

「おい、写……」

 写がゆっくりこちらへ振り向いた。マッシュルームのような茶髪で子供っぽさが残る顔。それが頬を伝う涙で濡れている。俺を殺しかけた相手と同一人物とは思えないほど、もろそうで弱々しかった。

「研磨……」

 殺したはずなのに、という驚きがその顔をかすめる。彼は手首で目元をぬぐった。ふう、と溜め息をついて立ち上がる。ようやく王者然とした態度が復活してきた。

「あの状態から良く復活したね。そしてアシュレを突破したんだね、研磨。ふふ……はははは」

 写は今度は笑い出した。おかしくておかしくてたまらない、と言いたげに。情緒じょうちょ不安定という奴だ。俺は腹が立ってきた。

「親父とお袋をアシュレに殺させ、神界の女王ハンシャと神族の命を絶って……おめえは何が面白いんだ」

「だって、おかしいじゃないか」

 弟は腹を抱えて爆笑する。

「そうさ、僕は両親を見捨て、兄貴を見捨て、神族も見捨てた。狙い通りに『大統一』まで起こし、神の力を授かろうとした。その挙句あげくがこのざまさ。こんな笑い話があるかい? 散々準備して、綿密に計画して、正確に実行して、美羅の命一つ復活させられない。おかしくておかしくて、自分の馬鹿さや愚かさに呆れ果てるよ」

 俺は笑い続ける写をなじった。

「それで話が済むと思うのか? 表へ出ろ、写。俺と喧嘩だ。最後の勝負だ」

 少年はようやく笑いをおさめた。その目にたかのような光が宿る。

「まったく研磨はそれしかないのかね。まあいいよ。そこまで言うならやろうじゃないか。僕に殺されかけたというのに、まだりないみたいだからね」

 俺が先に部屋を出た。写が後に続く。そのとき、『境界認識』が異常を検出した。入り口に寝かせておいたはずの京が、その場から消えていたのだ。

「京……?」

 俺は確かめるべく、駆け足で出入り口に向かった。そして柱の向こうに、信じられないものを見た。

「ドラゴン……?」

 結界のすぐ外で、白い龍が長い体躯たいくを宙に浮かせている。そのそばに、火傷がすっかり治った京がいた。

「研磨君! どうやらまだ戦っていなかったようだな」

 写が金切り声を上げ、俺のすぐそばに飛行してくる。着地して外の景色に愕然となった。

「白龍? まさか……ハンシャ! ……それに、この世界のいびつさは何だ? 『大統一』が成っていない?」

 何だ何だ、どういうことだ。俺はこれから殴り合う予定の相手に説明を求めた。

「写、あれはハンシャなのか? 女王はおめえに首を斬られて殺されたんだろう?」

 写は悔しげに唇を噛んだ。握った拳を震わせる。

「そうさ。だから死んだ。でも一時的だったんだ。帝王マーレイが黒龍に変じたのと同じく、女王には死んでもなおその命を繋ぐ変化へんげの力があったんだ。そうか、だから『大統一』は不完全に終わったんだ。ハンシャ女王の復活によって……」

 弟の相貌そうぼうが怒りに引きゆがむ。反対に俺は小躍りしそうな気分だった。

「ハンシャ! 消えた神族たちは無事なのか?」

 頭に直接彼女の声が聞こえてきた。

『ええ。みな、一時的にわたくしの持つ亜空間に保存してあります。ミズタやマリもそこで眠っていますよ。命は大丈夫です』

 俺は随喜ずいきの涙が込み上がってくるのを感じる。一方写は結界の外に飛び出した。

「お前さえ復活しなければ、『大統一』も完全に成し遂げられ、僕も完璧な神の力を得ていたのに……! 蘇生術が失敗したなら、『大統一』が不完全ならやり直すまでだ。死んでもらうぞ、ハンシャ!」

 俺はその後頭部に思い切り両拳を叩き付けた。写が真下にぶっ飛び、岩肌に激突する寸前で静止する。

「研磨ぁ!」

 完全に頭にきてやがる弟に、俺は飛び掛かっていった。

「写っ!」

 右手を差し出し『無効化波動』を叩きつけようとする。だが奴が俺を睨んだ――と見た途端、俺の鼻っ柱に強烈な打撃が炸裂した。鼻血が飛び散り、俺は苦痛にうめきながら弾き飛ばされる。これは帝王マーレイの技だ。

 よくもやりやがったな。俺もエンジンに火が点いた。素早く手刀衝撃波を――特大の力で――相手目掛けて放っていった。

「うぐっ!」

 写の右足が裂断された。血が噴き出す――かと思ったら、すぐさま爪先まで生えてくる。俺と同様の自己修復能力ということか。

「これでも……」

 相手の手に透明な塊が現れたと見るや、それはすぐさま2メートル近い槍に成長する。

「食らえっ!」

 大投手の投球よろしく、弟はそれをぶん投げてきた。だが直線的な動きだ。簡単にかわせる――と思っていたら、目の前で分裂して散弾銃のように殺到してきた。破片が俺の体の各所に突き刺さり、神経が痛みで埋め尽くされる。これは氷の槍――凍氷魔人ブラングウェンの技だ。

「落ちろ研磨っ!」

 今度は火炎魔人アシュレの技、炎の鞭を振るってくる。それはほむらの弾丸となって俺を襲った。俺は『無効化波動』でそれらを相殺そうさいする。そして一気に下降した。

 接近戦で『無効化波動』を撃ち込んで無力化する。それがお互いの狙っているところであり、警戒しているところでもあった。しかしアシュレとの戦いで消耗しきっている俺は、長期戦は避けたかった。一か八か、自分の実力を信じて飛び込んでみるしかない――まあ、この前はそれでやられたんだけど……

 写は眼力で俺を迎撃した。石つぶてを当てられたような痛みが右肩に生じる。だが俺は構わず突っ込み、左の手刀衝撃波を投じた。弟は飛びすさり、元いた岩盤に鋭い亀裂が入る。俺は着地し、左へ跳躍しつつ右手を向けて青い光弾を発射した。それは素早い相手にかすりもせず、岸壁に当たって砕け散る。一方、俺がすぐさま離れた場所は、写の手刀衝撃波で丸太のように輪切りにされた。

 弟が両の手の平をこちらに突き出す。俺は瞬間、野生の本能から警告を受けて大地から飛び上がった。俺の立っていた岩山が、周りの草むらや木々が、刹那せつなの間さえ置かずに泥沼に変貌する。泥土魔人ウォルシュの技だ。俺がいた場所を中心として半径30メートルが、はまったら抜け出せない底なし沼となって、万物をその体内に飲み込んでいった。
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