超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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「黒曜石の力があれば、また元の神族の――人間の体に戻れるんだろう? それに、亜空間に退避させた神族の復活も出来る。そういう話だったよな?」

『はい、その通りです。ここまで黒曜石に近づけばもう問題ありません。ただその前に、わたくしの衣服を取りに行ってくださいませんか?』

 俺はピンときた。

「神族の体に戻ると裸になるんだな、ハンシャ。いいじゃん、見せてくれよ」

『馬鹿』

「僕が取ってくる。女王、しばしお待ちを」

 京が気を利かせて城内に飛んでいった。俺と白龍はしばし手持ち無沙汰ぶさたになる。

『研磨、今回はありがとうございました。改めてお礼を言わせてください』

「何だよ、急に」

 俺は照れくさくてよそを向いた。そこへ追い討ちがかかる。

『貴方がいなければ神族は全滅し、神界は帝王マーレイの手中に落ちていたところでした。どれだけ謝辞しゃじを述べても足りません』

「俺はただ暴れさせてもらっただけだ。感謝されるいわれはねえよ」

 ハンシャは意味深いみしんに間を置いた。つぶやくように言う。

『それで、貴方の答えは見つかったのですか?』

 俺は白龍の瞳を眺めた。お見通しか。俺はゆっくりと、そしてはっきりと返事した。

「ああ。誰かが好きなら、誰かに好かれているなら、それはきっと……」

 そこへ京が戻ってきた。純白の衣を両手に抱えている。

「お待たせしました、女王」

『感謝します、京。それをわたくしの角にかけてください』

 京が言われた通りにする。そして俺と共に、白龍に背を向けた。

『こっちを見たら往復ビンタ3セットですからね。いいですね』

 怖いな。しばらくして俺たちの背後から白光がほとばしる。俺は振り返りたい気持ちを抑えるのに苦労した。

「お待たせしました。もうよろしいですよ」

 俺は京と一緒に振り向いた。白い衣服を身にまとったハンシャの姿があった。銀色の髪の毛が風に揺れている。

「では、神族たちを呼び戻します。黒曜石よ、吸い尽くした我が魂の断片をここに吐き出したまえ」

 女王は人差し指を天に向けた。頭上に白い巨大な球体が現れ、そこから次々に神族の女たちが降りてくる。どうやら出ると同時に意識を取り戻すようで、ナンバー2のレンズや間諜のミズタとマリ、更にこの神界中で生きていた神族が次から次へと、雨後の竹の子のごとく出現した。服も状態も死ぬ前そのままだ。

「ああ、女王様!」

「あれ、辺境の村にいたはずなのに……」

「魔族は? 魔族はどこに行った? 私の矢に恐れをなしたか?」

「ここはみやこじゃん! あたい、生まれたとき以来だ!」

「何よこの大地! それに何だか息苦しくない?」

 そういえば神族は魔界の、魔族は神界の空気が合わないんだっけ。不完全な『大統一』。その弊害へいがいには今後慣れていくしかないのだろう。

「研磨!」

「鏡さん!」

 ミズタとマリが俺を見つけて飛んできた。

「ねえ、何がどうなったの? さっきまであたし、帝王を倒したあんたに抱きついて泣いてたんだけど……」

「私もです。これは一体……」

 女王ハンシャが大声を出した。

「皆さん、聞いてください」

 そのぴりりと威厳ある声に、神族たちは一斉に押し黙る。

「実は……」

 写の手による女王の一時的な死。それに伴い神族たちがおちいった仮死状態と、亜空間への自動的移動。それに伴い始まった魔界と神界の結合『大統一』。京と俺が魔界側へ向かったしばらく後の、白龍としてのハンシャの復活。白龍の『境界認識』による俺らの追尾。結界に包まれた空中大神殿での再会。俺と写の戦いと決着……

 神族たちは皆一様に驚愕きょうがくに打ちのめされていた。

「そんなことが……」

 ミズタが俺の肩に手を載せた。目に悲哀の色がある。金色こんじきの長髪が鮮やかだった。

「実の弟さんと戦うのは辛かったでしょう、研磨……。可哀想に」

 マリが俺の左手を両手で挟み、その平らな胸に押し当てる。眼鏡の奥で泣いていた。

「鏡さん……私たちのために、本当に頑張ってくれました。ありがとうございます」

 俺は2人のぬくもりを感じながら、これ以上ない歓喜に浸る。

「また会えて良かった。おめえらが生きててくれるだけで、俺は、もう……」

 二度と会えないと思っていたミズタとマリに、こうして会えた。俺はこみ上げてくるものを抑え切れず、目頭を押さえる。何だこれ、泣き過ぎだろ、情けない。そうは思いながらも、俺はむせび泣くのを止められなかった。すると、ミズタもつられて号泣し出す。マリはしゃくりあげるばかりだ。

 結局三人揃って抱き締め合い、いい年して子供のように嗚咽おえつを漏らし続けた。あふれてこぼれるしずくが、頬を滑り落ちて顎からしたたり落ちる。それが気持ちよくて、俺は今まで積み重なってきた感情が――喜怒哀楽のほこりの山が、綺麗に洗い流されていくのを感じていた。



 その後、ようやく泣き止んだ俺はハンシャに対し、魔族の根本こんぽんが死んだ人間の魂であると教えた。ハンシャは人間界が続く限り神族も魔族も絶えることはないと考え、『大統一』失敗後のいびつな今の世界を、種族を問わず統合していこうと決心した。

 まずはその前にナンバー2のレンズが軍隊を再編成し、補給線を整え、いつ魔族の残党がみやこに襲来してきてもいいように防備を固める。その辺はさすがに実力者、鮮やかな手並みだった。

 神族たちはやがて、森林火災の鎮火、各種地形調査を進めながら、それぞれの目的地まで長い旅に出た。

 京はこの新世界に残る道を選んだ。彼をスカウトして恋仲となった魔女のリングは、神界制覇による平和の到来という、純粋な夢にじゅんじて去った。京は今度はハンシャのそばで、超人類として神族に協力し、リングの残した夢を叶えたいという。

 俺は人間界に戻る道を選んだ。恐らくっちゃんやっちゃんが、燃えた俺の家について、そしてそこで焼け死んだ俺の両親について、だいたいの後処理を終えた頃だろう。せめて俺だけでも戻ってやらないと。孫が生きていることを、知らせてやらないと。そう考えたのだ。

 写と美羅に関しては、写との決着後に暫定的な墓を作ってある。それに関しては、ハンシャに後でもっときちんとしたものを用意してもらえるようお願いした。やはり弟とその恋人には、並んで静かな死後を過ごしてほしかった。



「そう、帰っちゃうのね」

「残念です……」

 ようやく平穏が戻ってきたみやこの一邸宅、ミズタとマリの家で、俺は神界での最後の食事を楽しんでいた。この後ハンシャに魔方陣を開いてもらって、人間界に帰る手筈てはずになっていたのだ。そのことはギリギリまで2人に言い出せなかった。なるべく長く彼女らの笑顔を見ていたかったからだ。

「ま、俺がいなくなっても元気でやれや。また何か緊急事態でも起きたら、再び人間界にやって来い。いつでも助けに行ってやるよ。まあ魔方陣を開く魔法石がまだ残っていたら、の話だけどな」
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