超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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 珍妙な外見ながら美味うまい料理を口に運び終え、俺は2人を見た。その表情は暗い。口を白布でぬぐいつつ尋ねる。

「何だ、どうした?」

 ミズタがしんみりと言った。

「もう魔法石はほとんど残ってないって、昨日ハンシャ様がおっしゃってたのよ。乱用は出来ないから、しばらく人間界との行き来を制限するって。あたしたちの魔法石も返還してきたのよ」

 寂しげに苦笑する。

「これがあんたの、神界における最後の食事だったわけ。堪能たんのうしたかしら?」

 そうだったのか。俺はさかずきの水を飲んだ。

「絶品だ。2人とも料理店が開けるぞ。いや、食った食った。ご馳走ちそうさま」

 マリが赤いショートボブを揺らして椅子から降りた。テーブルを回ってこちらに来る。ミズタも同じようにした。ん、何だ? 俺は彼女らに左右から挟まれ、居心地悪く聞いた。

「何の真似だ?」

 ミズタとマリが身を屈める。その唇が、左右同時に俺の頬に触れた。俺はその柔らかで温かい貴重な感触を受け、耳朶じだまで熱くなった。

「おいおい……」

 2人が離れた。ミズタは舌を出してはにかむ。

「あんたこそ、向こうの世界に戻ってもしっかりやんなさい。そして時々でいいから、あたしやマリのこと、この世界のことを思い出してね。約束よ、研磨」

「ああ」

 マリが頬を真っ赤にしながら教えてきた。

「今のはミズタが人間界をぶらついていたときに見た行為です。見ていて恥ずかしい、でも感激するような行ない。喜んでいただけましたか?」

「一回じゃ足りないな」

 ミズタとマリが、同時に俺の後頭部をはたいた。



 彼女らは見送りには来なかった。別れが辛くなるから、とのことだ。俺が顔パスで城内に入ると、京が待っていた。

「もう別れは告げてきたかい?」

「おう」

「じゃ、僕が黒曜石の間へ案内するよ。研磨君に迷子になられても困るから、という女王のおたっしでね」

 俺たちはあっという間に城郭の中心部、あの巨大な宝石の浮かぶ大部屋に到達した。ハンシャとレンズが俺たちに気付いて一礼する。

「いよいよお別れですね、研磨」

「神界のために働いたお前の功績、我々は決して忘れやしないぞ」

 京が俺の背中をどやしつけた。

「さよならだ、研磨君。向こうでもしっかり生きてくれ。こっち側から君の健康と幸運を祈っているよ」

 俺は京と拳を突き合わせると、ハンシャが開いた魔方陣に歩み寄った。黒地に白文字のそれは平たい円盤状で、不思議な紋様がぐるぐると回転している。その中央に穴が開いていた。

「じゃあな、みんな。達者でな」

 俺は振り返って告げると、魔方陣に正対した。穴の中に足を踏み入れる。いよいよおさらばだ――

 と、そのときだった。耳慣れた大声が聞こえてきたのは。

「研磨ーっ!」

 大広間の入り口からこっち目掛けてまっしぐらに飛んできたのは、さっきお別れしたばかりのミズタだった。必死の表情で俺の方に手を差し出す。

「ミズタ!」

 それ以上の言葉はいらなかった。俺は閉じかかる魔方陣から上半身だけ露出し、飛翔してくる彼女へ右手を差し伸べた。ミズタと手が繋がる。俺はそれを握り締めると、思いっきり手前へと引き込んだ。魔方陣が閉じる直前、まさに間一髪だった。

 飛び出した先は地面で、俺はしたたかに背中を打つ。でもコンクリートではなく土の大地であったため、怪我はしなかった。それよりミズタが俺の真上にのしかかってきて、その方に感動する。

「馬鹿野郎。……後悔するなよ」

「研磨、研磨……!」

 ミズタは俺に抱きつき、その豊かな胸を押し付けて、唇にキスしてきた。俺はされるがまま、彼女を抱き締める。そう、こいつは神界やマリを捨て、俺と一緒に暮らすことを望んだのだ。その決意に素直に涙ぐむ。

「あらー、地響きがしたかと思ったら……。何やってんだ、お前ら」

 それは聞き間違えようもない、俺の爺っちゃんの声。ここは日本は新潟、爺っちゃん家の庭先だ。

「……って、研坊か? 焼け死んだんじゃなかったのか?」

 俺はミズタとの情熱的なキスに熱中したまま、しばらく祖父を置き去りにした。



 俺は俺と写の消息を追っていた警察へ、祖父母ともども出頭した。そして火事で全焼した自宅より焼け出されてからは、以後数日分の記憶がないと嘘をつき通した。警察からは弟の写さんはどうしたとも聞かれるが、それも分からないと答える。

 何でも現場検証では、火元はキッチンのコンロとほぼ特定され、放火の蓋然性がいぜんせいは極めて低いとのことだった。それでも火災発生以降今まで行方をくらましていた俺に対し、家に自ら火を放ったのではないか、と脅迫的な取り調べを行なう。それは喧嘩ばかりしていた不良学生への偏見もあったのだろう。俺は我慢に我慢を重ねて耐え忍んだ。

 マスコミも加熱した。生きている俺を写真や映像に収めようとする記者は数知れず、俺から真実を引き出そうとマイクを差し向けてくることも度々だった。

 結局1ヶ月、12回に及ぶ聞き取り調査で、警察はようやく「発言にぶれがないし矛盾もない」として俺を解放した。また報道陣の取材が殺到したが、これも家に閉じこもることでやり過ごした。ありとあらゆるSNSから距離を置き、ひたすら話題の風化を待ち続ける。

 そうして周辺が平穏無事になったのは、帰還から2ヶ月目のことだった。俺は不論戸ふろんと高校を中退し、定職に就いて働き始めた。



「うわあ、お墓が一杯」

 ある日、俺はミズタと共に――彼女はもう、人間界の衣食住に慣れ切っていた――両親の墓を訪れた。ミズタは蒸し暑い気候の中、軽装でスカートを舞わせる。

「ここに研磨のご両親が眠っているのね」

 大きくもなければ小さくもない『鏡家の墓』。俺とミズタは線香をあげると、両手を合わせておがんだ。せめて安らかな死後の世界を。それから、仇は討ったぞ、と念じる。

 これで全てが終わった。俺は目を開け、ミズタを見た。彼女は黄金色こがねいろのロングヘアを風に波打たせ、こちらを見上げている。

「終わったね、研磨」

「ああ。……腹減ったろ。どこかで昼食でも取ろうぜ」

 2人並んで石畳を歩いていく。季節は夏に移り変わろうとしていた。ミズタが両手で顔をあおぐ。俺は墓地を出てバス停に向かって歩きながら、ふと尋ねた。

「大丈夫かミズタ。マリやハンシャが恋しければ、故郷に戻ってもいいんだぞ」

「魔方陣を開くための魔法石、持ってきてないもの。……それに」

「それに?」

 ミズタは顔を赤らめた。

「あんたと離れたくないし」

 直接的な心情の吐露に、俺は照れてそっぽを向いた。

「そうかよ」

 俺は暑い日差しを体一杯に浴びつつ、今度はここへ結婚報告に訪れるかもしれないな、と心中密かに思うのだった。
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