追放された地味支援職、実は神々の寵愛者~無自覚で大陸最強になってたので元仲間にざまぁ返しします~

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第16話 勇者一行、絶望の報

砂漠を越えた旅路の果て、遠くから吹く風が湿り気を帯び始めた。  
神々の顕現を退けたあの戦いから十日。  
俺たちは北へ向かっていた。行く先には、再び王都セラフィード。  
そこから届いた一報が、休む間すら許さなかったのだ。

「……王都陥落、か。」  
手紙を握り締めながら、俺はつぶやく。  
報せにはこう記されていた。  
“突如現れた神の使徒を名乗る軍勢が王城を襲撃。聖女アリシアと勇者レオン行方不明。”  
信じ難い内容だった。それは同時に、俺たちが退けた“神々の試練”が本格的に表面化したという意味でもある。

「主、やはり来たか。神々が下へ降臨する。」  
ルナが肩で揺れながら言う。  
「天から戻る神が、秩序を変えるか……わかりやすく言えば世界の再構築だ。」  
「再構築、ね。」  
砂の上を歩きながら、俺は拳を握った。  
「もしそれが人の犠牲の上に成り立つなら、俺は止める。」

セレーネがきびすを返し、真っ直ぐ俺を見つめた。  
「王都を取り返すのですね?」  
「当然だ。アリシアは……今もあそこにいる。」  
シルフィが不安げに口を噤んだ。  
「王都の加護が失われた今、神軍が支配しているなら並の兵では近づくことも――」  
「並じゃない連中がここにいるだろ。」  
その言葉に、ルナの尻尾が誇らしそうに立つ。  
「ふむ、ようやく英雄らしい口調になったな。」  
「調子に乗るな。俺はまだ“人間”だ。」



三日後、王都が見えた。  
遠望する街は、まるで色を失っていた。  
かつて白く輝いていた尖塔群が黒い瘴気を纏い、空は夜のように覆われている。  
「……これはひどい。」  
シルフィが息を呑む。  
「神軍は何をしたのですか。」  
「聖なる光を逆転させ、世界樹の根から魔力を吸い上げている。」  
ルナの分析は冷たい。  
「人間の信仰をエネルギー源に、神々は己を現世へ固定しておる。」  
「つまり、信じる心を喰われてる……そういうことか。」  
皮肉なものだった。人々が祈る神への信仰が、神々の暴虐を支えている。

城門前の街並みは廃墟と化していた。  
人影はなく、崩壊した教会の鐘だけが虚しく揺れている。  
俺たちは慎重に進んだ。  
石畳の上に、誰かの剣が突き刺さっている。見覚えのある銘。  
「……レオンの剣だ。」  
砂にまみれた聖剣は力を失い、ただの鉄へと成り果てていた。  
沈黙を破るように、セレーネが膝をつく。  
「勇者が……敗れたのですか。」  
「たぶんな。だが死んでるとは限らない。」

その時、瘴気の影から声がした。  
「……ハルト、来たのか。」  
振り向く。  
ボロボロの外套を纏い、片腕を失った男――レオンが立っていた。  
息を荒げ、しかし瞳は確かに生きている。  
「お前……生きてたのか。」  
「皮肉なもんだな。神に見捨てられたお前が、今度は神に抗う側にいるとは。」  
「その神が人を見捨てた時点で、俺たちは同じ立場だろ。」  
レオンは苦笑し、崩れ落ちそうな体を剣で支えた。  
「アリシアを……助けてやってくれ。」  
「アリシアは?」  
「あいつは捕まった。神化の器にされかけてる。……俺は守れなかった。」

一瞬、胸の奥が凍るように冷たくなった。  
神化の器――つまり、神々の魂を宿す依代だ。  
人間の存在は消え、完全な神性となる。  
そんな絶望の中、レオンは続けた。  
「俺はもう行けない。だが、お前なら届くかもしれない。お前の力は……“あの方”が残した最後の希望だ。」  
「あの方?」  
「神々の中の、唯一の“人を愛した神”だよ。」  
エルリア。あの祠で出会った女神の名が、頭を過った。  

ルナが肩で低く唸る。  
「面白い話だ。神々の争いの裏で、異端の神が人に力を託した——主、それが汝なのじゃ。」  
「知ってる。けど、そんな立派な存在じゃない。」  
「違う。だからこそ選ばれた。」

レオンはその会話を聞きながら、瓦礫に寄りかかる。  
「ハルト。俺の代わりに、あいつを救ってくれ。」  
「任せろ。」  
「ふっ、やっとそれらしい顔になったな……前より、ずっと強そうだ。」  
そう言って彼は目を閉じた。  
その肩で剣が弾けるように崩れ、光となって散る。  
勇者の魂が、神へ抗うための新たな力となって風に溶けていった。  



王都中心部。  
崩れた神殿跡の上空に、巨大な光の柱が立ち昇っている。  
地を這う瘴気すら、そこでは天を仰ぐように引かれていた。  
「あの上です。アリシアが囚われてる。」  
シルフィが指す先、浮遊する結界球。  
内部で金の鎖に縛られた姿が見える。  
「急ごう。」  

だが、足元の地面が揺れた。  
瓦礫の下から、黒い翼を持つ騎士たちが一斉に姿を現す。  
「神軍の残兵か!」  
セレーネが剣を抜くと同時に、ルナが光の尾を描く。  
「主、私は上空の結界を破りに行く。汝は下を任せた!」  
「了解!」  
俺は地を蹴った。  
「《調和加護・天命界域》!」  
広がる光の輪が敵を包み、影の羽を焼く。  
反撃の炎が降り注ぐが、セレーネが前に立ち、盾で受け止める。  
「ハルト殿、私を信じてください!」  
「任せた!」  
光と闇が再び交錯する。  

頭上で、ルナの白い閃光が結界を断つ。  
一瞬の隙。その中に飛び込み、俺はアリシアの鎖へ手を伸ばした。  
「目を覚ませ、アリシア!」  
金の鎖が悲鳴を上げると同時に、彼女のまぶたが微かに動く。  
「……ハルトさん……?」  
「遅くなった。」  
「あなたが……来てくれるって、信じてました……。」  
そう言って微笑んだ瞬間、全身の鎖が霧散した。  
だが同時に、空が裂ける。  

轟音。  
蒼い稲光が弾け、天に巨大な門が開いた。  
そこから現れたのは、白銀の翼を持つ存在。  
「来たか……!」  
ルナが一瞬で俺の肩に戻る。  
「上位神“セイオス”。神々の軍勢の総指揮者!」  
その双眼が地上を見渡し、静かに言葉を放った。  
「汝の加護――“調和”。世界の理を乱す異端、滅する。」  
光の剣が振り下ろされ、大地が割れた。  

咄嗟にアリシアを抱えて跳躍。  
衝撃波が背後を吹き飛ばす。  
「ルナ! 力を――」  
「やるとも!」  
再び光が重なり、胸の奥で鼓動が爆ぜる。  
「《調和解放・双神式》!」  
光と闇が交わり、俺の周囲に二つの円環が現れる。  
天と地、善と悪。  
相反するものがひとつの軸で繋がった。  

空の神が降り、地の人間が立ち向かう。  
その瞬間、世界は一瞬止まり、すべての色が消える。  

――次の瞬間、神々の戦いが始まった。  

(第16話 終)
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