5 / 52
第1章〜逃走編〜
第5話
しおりを挟む
木津川へと向かう途中で、俺たちは斬り倒した足軽の具足を剥がし着替えることにした。赤備えでは目立ち過ぎる。六郎も忍び装束から足軽兵になった。こうして徳川方の足軽になりすまし、畦道を走ると木津川付近まで辿り着いた。
他の部隊が2人で行動してる俺たちに不信感を抱き近づいて来る。
「おい、お前らどこの隊や」
「ああ、田中隊だ。ちとはぐれての」
「田中隊?」
「急遽、この近辺を応援することになったんじゃ」
と、六郎が誤魔化したものの怪しまれている。敵方は足軽中隊(150名)相当だ。
「若、才蔵が河岸に」
「よし、もう少しだな」
霧隠才蔵(48歳)は船頭に扮装して、河岸に着けてある手漕ぎの木舟に荷物を載せながら、こちらを伺っていた。
「おい、待たんか。お前ら何者や」
「じゃから田中隊や言うとるじゃろう」
足軽兵に取り囲まれた。
「田中隊など聞いとらんわ」
「ほうか……わしら、ちと急ぐんでな」
六郎は足軽兵を振り切ろうとしたが、腕を掴まれた。咄嗟に足軽を投げ飛ばす。
「仕方ない。やりますぞ!」
「おう!」
ザクッ! ザクッ! ザクッ……!
俺らは囲いを解くべく足軽兵を斬りまくる。
「ひっ! ざ、残党だあ! 皆の者ーっ!」
「やかましい!」
ザクッ! ザクッ! ザクッ……!
ザクッ! ザクッ! ザクッ……!
木津川周辺は騒乱と化した。敵は足軽中隊だ。まともに相手できる人数ではない。俺たちは迫り来る足軽兵を斬りながら、木船に向かって走った。
「ドカーン!」と六郎の爆薬が鳴り響き、砂と煙が舞い上がる。敵が怯んだ隙に木船へ乗り込んだ。そして才蔵が勢いよく船を出す。
「若殿、よくご無事で。それにしても強うなりましたな、才蔵驚きました」
「ああ、才蔵も無事で良かった」
「しかし油断はなりませぬ。どうも伊賀者の気配が致します」
「伊賀だと? なぜ俺たちを襲わないんだ?」
霧隠才蔵は元々、伊賀流忍術使いである。彼らの手の内を1番理解している。
「恐らく、何処に行くのか監視しているかと」
「俺のような小者をか?」
「若、これは何かありますな」
「うーん。分からないよ」
「若殿。取り敢えず瀬戸内の、出来るだけ西の無人島を目指してくだされ」
「才蔵は戻るのか」
「は、淡路を超えて落ち着けば……ただ、伊賀の者が気になりますな」
「若には儂がついておりますよ」
「ああ、六郎頼んだよ」
「船には武器と僅かな食糧、釣り道具を積んでおります。逃げ切るよりも食が心配です。これからは、自給自足の旅となるでしょうからな」
「才蔵殿、若は食材探しの才があるんじゃよ」
「そうだよ、任せといて!」
「おお、それは頼もしい!」
***
数日後、伏見城にて……。
幕臣、安藤重信は屋敷に伊賀の頭領である藤林長門守を呼び、その後の経過報告を受けていた。
「木津川の戦闘騒ぎは真田の倅だと?」
「はっ、元々あの界隈で赤備えの男が暴れてると報告を受け、警戒しておったそうで……」
「で、逃げられたのか?」
「左様でございます。木船に乗って海へと。只今、某の手の者が追っておりまする」
「手強いのか」
「かなりの使い手かと……」
「ふむ。長門守よ、手強かろうが必ず生け捕りにせよ。これは上様の命である」
「ははっ」
「ところで……だな、服部正就(3代目服部半蔵)が天王寺口の戦で討死したと聞いたが、まことか?」
「奴に従った者たちの遺体を葬いましてございます。昔の仲間もおりました故。ただ、正就の遺体はなく、討死したとは言えません。行方不明でございましょう……」
「正就は、もはや上様の直臣ではないが、無事ならば使ってはどうか? お主の配下として」
「はあ……。あまり気乗りが致しません。かつては伊賀を統括する上忍三家(服部・百地・藤林)として対等な立場でございましたが、正就は大出世致し、我が配下とは……その、折り合いも悪うございまして」
「ははは、今ではお主の方が「力」を持っておるではないか」
「有り難きお言葉。されど……」
「奴を野放しにするのはちと心配でのう」
「こ、心得ました。では正就の行方も探ってみましょう……」
※服部正就は江戸幕府の誕生に貢献した元伊賀同心支配役(伊賀衆・甲賀衆の忍者たちを統率する頭領)であったが、伊賀同心との確執などにより改易し蟄居後、松平定勝に仕える身となった。大阪夏の陣では家康6男、松平忠輝の陣中に加わっている。
安藤重信は、凄腕である服部正就が『秀頼公の刀』を知り、先に単独で真田と接触しないかと心配していたのだ。できれば目の届きやすい組織に属して貰いたい。できなければ暗殺も視野に入れてたと言う。
他の部隊が2人で行動してる俺たちに不信感を抱き近づいて来る。
「おい、お前らどこの隊や」
「ああ、田中隊だ。ちとはぐれての」
「田中隊?」
「急遽、この近辺を応援することになったんじゃ」
と、六郎が誤魔化したものの怪しまれている。敵方は足軽中隊(150名)相当だ。
「若、才蔵が河岸に」
「よし、もう少しだな」
霧隠才蔵(48歳)は船頭に扮装して、河岸に着けてある手漕ぎの木舟に荷物を載せながら、こちらを伺っていた。
「おい、待たんか。お前ら何者や」
「じゃから田中隊や言うとるじゃろう」
足軽兵に取り囲まれた。
「田中隊など聞いとらんわ」
「ほうか……わしら、ちと急ぐんでな」
六郎は足軽兵を振り切ろうとしたが、腕を掴まれた。咄嗟に足軽を投げ飛ばす。
「仕方ない。やりますぞ!」
「おう!」
ザクッ! ザクッ! ザクッ……!
俺らは囲いを解くべく足軽兵を斬りまくる。
「ひっ! ざ、残党だあ! 皆の者ーっ!」
「やかましい!」
ザクッ! ザクッ! ザクッ……!
ザクッ! ザクッ! ザクッ……!
木津川周辺は騒乱と化した。敵は足軽中隊だ。まともに相手できる人数ではない。俺たちは迫り来る足軽兵を斬りながら、木船に向かって走った。
「ドカーン!」と六郎の爆薬が鳴り響き、砂と煙が舞い上がる。敵が怯んだ隙に木船へ乗り込んだ。そして才蔵が勢いよく船を出す。
「若殿、よくご無事で。それにしても強うなりましたな、才蔵驚きました」
「ああ、才蔵も無事で良かった」
「しかし油断はなりませぬ。どうも伊賀者の気配が致します」
「伊賀だと? なぜ俺たちを襲わないんだ?」
霧隠才蔵は元々、伊賀流忍術使いである。彼らの手の内を1番理解している。
「恐らく、何処に行くのか監視しているかと」
「俺のような小者をか?」
「若、これは何かありますな」
「うーん。分からないよ」
「若殿。取り敢えず瀬戸内の、出来るだけ西の無人島を目指してくだされ」
「才蔵は戻るのか」
「は、淡路を超えて落ち着けば……ただ、伊賀の者が気になりますな」
「若には儂がついておりますよ」
「ああ、六郎頼んだよ」
「船には武器と僅かな食糧、釣り道具を積んでおります。逃げ切るよりも食が心配です。これからは、自給自足の旅となるでしょうからな」
「才蔵殿、若は食材探しの才があるんじゃよ」
「そうだよ、任せといて!」
「おお、それは頼もしい!」
***
数日後、伏見城にて……。
幕臣、安藤重信は屋敷に伊賀の頭領である藤林長門守を呼び、その後の経過報告を受けていた。
「木津川の戦闘騒ぎは真田の倅だと?」
「はっ、元々あの界隈で赤備えの男が暴れてると報告を受け、警戒しておったそうで……」
「で、逃げられたのか?」
「左様でございます。木船に乗って海へと。只今、某の手の者が追っておりまする」
「手強いのか」
「かなりの使い手かと……」
「ふむ。長門守よ、手強かろうが必ず生け捕りにせよ。これは上様の命である」
「ははっ」
「ところで……だな、服部正就(3代目服部半蔵)が天王寺口の戦で討死したと聞いたが、まことか?」
「奴に従った者たちの遺体を葬いましてございます。昔の仲間もおりました故。ただ、正就の遺体はなく、討死したとは言えません。行方不明でございましょう……」
「正就は、もはや上様の直臣ではないが、無事ならば使ってはどうか? お主の配下として」
「はあ……。あまり気乗りが致しません。かつては伊賀を統括する上忍三家(服部・百地・藤林)として対等な立場でございましたが、正就は大出世致し、我が配下とは……その、折り合いも悪うございまして」
「ははは、今ではお主の方が「力」を持っておるではないか」
「有り難きお言葉。されど……」
「奴を野放しにするのはちと心配でのう」
「こ、心得ました。では正就の行方も探ってみましょう……」
※服部正就は江戸幕府の誕生に貢献した元伊賀同心支配役(伊賀衆・甲賀衆の忍者たちを統率する頭領)であったが、伊賀同心との確執などにより改易し蟄居後、松平定勝に仕える身となった。大阪夏の陣では家康6男、松平忠輝の陣中に加わっている。
安藤重信は、凄腕である服部正就が『秀頼公の刀』を知り、先に単独で真田と接触しないかと心配していたのだ。できれば目の届きやすい組織に属して貰いたい。できなければ暗殺も視野に入れてたと言う。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
34
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる