5 / 30
第一部
05. 侍女の巻⑤
しおりを挟む
『馬小屋』と呼んでる侍女たちの宿舎は、一部屋に6人が共同で生活していた。狭くて蒸し暑い環境だが、私はぐっすりと爆睡している。この生活にも慣れ、隙間風や雨漏り、隣から聞こえる生活音など気にもならない。
それもそのはず──
朝早くから食事の準備、大浴場の清掃、侍女会の会合、食材の搬入とほぼ休む時間もなく働いているのだ。まるで召使いのようで、これでは姉の世話をする余裕が殆どないのです。
麗しのジョーめ、あなたはどこにいるの?必ず見つけ出してやる!でも探す時間がない……。
目が覚めると、私はいつもジョーのことを考えていた。処女を捧げる御方だ。彼がとっても素敵な男性だと勝手に想像してるけど不安もあった。ジョーだって選ぶ権利があるのだ。モテモテ(たぶんね?)の彼がはたして私を抱いてくれるでしょうか?
……などと考えている暇はない。
「ああ、もう時間だわ、急がなくっちゃ!」
慌てて身支度を整え、駆け足で朝食の準備のため、屋舎に向かった。
「おはよう、ポピー。今日も早いねー」
「おはようございます。あら、仕立て屋さんこそ、お早いのですね」
姉が住む屋舎のホールで荷物を整理していると、そこにいた仕立て屋さんに声をかけられた。彼は後宮に出入りすることができる商人で、婦人たちの階級に合わせた商売をしてる貴重な存在です。私たち貧しい者にとっては大変助かっています。
「姉のドレスの修繕が終わったのね。ありがとう。代金をお支払いするわね」
「いや、今回はサービスだよ。実はそれほど手の込んだ作業じゃなかったんだ」
「でも、お金を払わないのは気が引けるわ」
「いいんだよ。俺もここで商売してるわけだし、力になれるならそれでいいんだ」
「そうなの?ではお言葉に甘えて!」
お世辞にもハンサムとは言えないけれど、愛嬌があり気さくな彼は後宮に詳しく情報通なので、密かにジョーの素性を探るようにお願いしていた。
「……で、尋ね人なんだけど、謎に包まれ過ぎてるな。本当に存在してるのかって思っちゃうよ?」
「そうなんだ。仕立て屋さんですら分からないなんて、本当に謎の殿方ねえ」
「まあ、何か情報が入ったら教えるよ!」
「うん、ありがとう!じゃあね!」
***
朝食の後片付けが終わり、大浴場の掃除をしながら私は考え込んでいた。
もしかして、あの情報は作り話なのかな?そもそも調整役が必要なのか疑問だよね。派閥に入れるかどうかはトップが決めればいいだけの話だしー。
「ポピー、明日は休みなさい」
「えっ⁉︎」
突然、背後からボスに声をかけられた。
「皆で交代で休んでるのよ。半月に一度だけどね。明日はあなたの番にするわ」
「そ、そうですか!助かります!」
侍女にもお休みがあるなんて知らなかった。これは願ってもない機会だわ。よし!自分の足でジョーのことを調べてやる!
私はさっさとお掃除を済ませて、姉に報告する。
「お姉様、侍女会から明日はお休みをいただけることになりましたので、ジョーを探しに出かけようと思います」
「そう。……で、何か手がかりはあるの?」
「誰に聞いても分からないんです。なので後宮、いえ、宮廷を隅々まで歩いて、彼の居場所を探したいと思っています」
「分かったわ。これ、お小遣いとしてあげる」と、姉から銀貨を一枚渡された。
貧乏ながら、この姉はワインやドレス、そして銀貨など、随分と豊かな暮らしをしているようだ。きっとお父様から、なけなしの財産を託されているのでしょうね。でも、それだけ我が姉に賭けているとも言えます。
お父様、残り5ヶ月半となりましたが、私も全力を尽くします。姉のためだけでなく、私自身の人生のためにも……。
それもそのはず──
朝早くから食事の準備、大浴場の清掃、侍女会の会合、食材の搬入とほぼ休む時間もなく働いているのだ。まるで召使いのようで、これでは姉の世話をする余裕が殆どないのです。
麗しのジョーめ、あなたはどこにいるの?必ず見つけ出してやる!でも探す時間がない……。
目が覚めると、私はいつもジョーのことを考えていた。処女を捧げる御方だ。彼がとっても素敵な男性だと勝手に想像してるけど不安もあった。ジョーだって選ぶ権利があるのだ。モテモテ(たぶんね?)の彼がはたして私を抱いてくれるでしょうか?
……などと考えている暇はない。
「ああ、もう時間だわ、急がなくっちゃ!」
慌てて身支度を整え、駆け足で朝食の準備のため、屋舎に向かった。
「おはよう、ポピー。今日も早いねー」
「おはようございます。あら、仕立て屋さんこそ、お早いのですね」
姉が住む屋舎のホールで荷物を整理していると、そこにいた仕立て屋さんに声をかけられた。彼は後宮に出入りすることができる商人で、婦人たちの階級に合わせた商売をしてる貴重な存在です。私たち貧しい者にとっては大変助かっています。
「姉のドレスの修繕が終わったのね。ありがとう。代金をお支払いするわね」
「いや、今回はサービスだよ。実はそれほど手の込んだ作業じゃなかったんだ」
「でも、お金を払わないのは気が引けるわ」
「いいんだよ。俺もここで商売してるわけだし、力になれるならそれでいいんだ」
「そうなの?ではお言葉に甘えて!」
お世辞にもハンサムとは言えないけれど、愛嬌があり気さくな彼は後宮に詳しく情報通なので、密かにジョーの素性を探るようにお願いしていた。
「……で、尋ね人なんだけど、謎に包まれ過ぎてるな。本当に存在してるのかって思っちゃうよ?」
「そうなんだ。仕立て屋さんですら分からないなんて、本当に謎の殿方ねえ」
「まあ、何か情報が入ったら教えるよ!」
「うん、ありがとう!じゃあね!」
***
朝食の後片付けが終わり、大浴場の掃除をしながら私は考え込んでいた。
もしかして、あの情報は作り話なのかな?そもそも調整役が必要なのか疑問だよね。派閥に入れるかどうかはトップが決めればいいだけの話だしー。
「ポピー、明日は休みなさい」
「えっ⁉︎」
突然、背後からボスに声をかけられた。
「皆で交代で休んでるのよ。半月に一度だけどね。明日はあなたの番にするわ」
「そ、そうですか!助かります!」
侍女にもお休みがあるなんて知らなかった。これは願ってもない機会だわ。よし!自分の足でジョーのことを調べてやる!
私はさっさとお掃除を済ませて、姉に報告する。
「お姉様、侍女会から明日はお休みをいただけることになりましたので、ジョーを探しに出かけようと思います」
「そう。……で、何か手がかりはあるの?」
「誰に聞いても分からないんです。なので後宮、いえ、宮廷を隅々まで歩いて、彼の居場所を探したいと思っています」
「分かったわ。これ、お小遣いとしてあげる」と、姉から銀貨を一枚渡された。
貧乏ながら、この姉はワインやドレス、そして銀貨など、随分と豊かな暮らしをしているようだ。きっとお父様から、なけなしの財産を託されているのでしょうね。でも、それだけ我が姉に賭けているとも言えます。
お父様、残り5ヶ月半となりましたが、私も全力を尽くします。姉のためだけでなく、私自身の人生のためにも……。
1
あなたにおすすめの小説
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
行き倒れていた人達を助けたら、8年前にわたしを追い出した元家族でした
柚木ゆず
恋愛
行き倒れていた3人の男女を介抱したら、その人達は8年前にわたしをお屋敷から追い出した実父と継母と腹違いの妹でした。
お父様達は貴族なのに3人だけで行動していて、しかも当時の面影がなくなるほどに全員が老けてやつれていたんです。わたしが追い出されてから今日までの間に、なにがあったのでしょうか……?
※体調の影響で一時的に感想欄を閉じております。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる