1 / 61
第1章 ざまぁがしたいっ!!
1
しおりを挟む
「さすがはシェリー様、貴族院の首席を最後まで譲らず、見事な成績でした! お見事でございますー!」
期末照査の成績表を受け取ると同時に、担任教師──お父様の部下でもある彼が、誇らしげにそう言った。教室中が拍手喝采に包まれるが、別に嬉しくもなんともない。
「当然の結果ですわ。この貴族院、国立とはいえ、運営しているのは我がシュルケン家。首席でなければお父様に叱られますもの。おーっほほほほ~!」
わたくし、シェリー・シュルケンは公爵令嬢。そして卒業後には、第三王子との婚約が控えている。すべては予定通り。完璧。非の打ちどころなし。……ただ、ひとつを除いて。
席に戻るなり、取り巻きの令嬢たちが騒ぎ立てる。
「シェリー様、大変ですわ! また王子様に、あの厚顔無恥なオンナが群がっております!」
「あら?」
廊下の方に視線を向けると──確かに、わたくしの婚約者であるエリオット様の背後を、見覚えのある女生徒がチョロチョロと追いかけていた。
「ふん、卒業間近とあって、にわかファンが必死ね」
「ですがシェリー様が婚約者と知っているはずですのに! あんなにベッタリくっつくなんて、無礼にもほどがあります!」
「まあ、知性が足りないのね。憐れだわ」
「前にもこっぴどく懲らしめたのに、全然懲りてませんわ。放課後、例のトイレでお水遊びでもしてあげましょうか?」
「……え、ええ、適当にしておいて」
そのとき、ふとエリオット様と目が合った。わたくしは完璧な令嬢スマイルでそっと会釈をした。……けれど、彼はすぐに視線を逸らし、何事もなかったかのように去っていった。
──ああ、愛しのエリオット様。貴方がわたくしを愛していないことくらい、わかっております。でも……!
でも、それでもわたくし、本当は……
ああぁぁあ! 本当のこと、誰かに言いたいよーーっ!!
***
授業が終わると、取り巻きのご令嬢たちに見送られながら職員室へ──いや、さらにその奥へと進む。そのまた奥に用務員室があり、さらにそのまた奥に──関係者しか知らない「特別室」なる秘密の部屋があるのだ。毎度のルート、慣れたものだ。
「失礼します」
中には、豪華なソファにだらしなく寝転ぶお嬢様と、身の回りの世話係エミリーの姿。
「ふぁあああぁぁぁ……っ!」
「お帰りなさいませ、ポピー」
「ただいまエミリー。……あ、シェリー様、期末照査の成績表をお持ちしました。最後まで首席でございます」
「あーよく寝た。ん? ポピーか。うん、ご苦労さん。……首席ねえ、アンタほんっと勉強できるのね。で、他になんか面白いことあった?」
「あ、王子様の熱烈ファンを、放課後トイレで水攻めにするそうです」
「またミーアか。ふふっ、面白そう。じゃ、それまでワインでも飲んでのんびり待ちましょ。……アンタ、今日はちゃんと最後まで授業受けなさいよ?」
「か、かしこまりました……」
って、いやいやいや、昼間っからワインて! しかも今まで爆睡してたってどういうこと!?
ほんっっっっっっっっっとに、このお嬢はロクなもんじゃないわね!!
言いたいことは山ほどある。
わたくしは十年間も、コイツの替え玉を続けてきたのだ。しかも、ただの代役ではない。学園では”悪役令嬢”として、必要以上に目立つ役割まで押しつけられて。
もちろん、我が家を救ってくれたことには感謝している。あのとき、この話を引き受けなければ、伯爵家はもう立ちゆかなかっただろう。
……でもだからって、何でもかんでも「そっくりだから」で済ませるのは、少し違うんじゃないかしら。
試験も行事も日々の礼儀作法も──気づけば、彼女の役目の半分以上が私の仕事になっている。
いつかちゃんと……その分、お返ししてもらいますからね。
わたくし、ポピーはシュルケン公爵家ご令嬢付きの、控えめな使用人。
そして、もうひとつの顔は──
コイツの影武者だ!!
期末照査の成績表を受け取ると同時に、担任教師──お父様の部下でもある彼が、誇らしげにそう言った。教室中が拍手喝采に包まれるが、別に嬉しくもなんともない。
「当然の結果ですわ。この貴族院、国立とはいえ、運営しているのは我がシュルケン家。首席でなければお父様に叱られますもの。おーっほほほほ~!」
わたくし、シェリー・シュルケンは公爵令嬢。そして卒業後には、第三王子との婚約が控えている。すべては予定通り。完璧。非の打ちどころなし。……ただ、ひとつを除いて。
席に戻るなり、取り巻きの令嬢たちが騒ぎ立てる。
「シェリー様、大変ですわ! また王子様に、あの厚顔無恥なオンナが群がっております!」
「あら?」
廊下の方に視線を向けると──確かに、わたくしの婚約者であるエリオット様の背後を、見覚えのある女生徒がチョロチョロと追いかけていた。
「ふん、卒業間近とあって、にわかファンが必死ね」
「ですがシェリー様が婚約者と知っているはずですのに! あんなにベッタリくっつくなんて、無礼にもほどがあります!」
「まあ、知性が足りないのね。憐れだわ」
「前にもこっぴどく懲らしめたのに、全然懲りてませんわ。放課後、例のトイレでお水遊びでもしてあげましょうか?」
「……え、ええ、適当にしておいて」
そのとき、ふとエリオット様と目が合った。わたくしは完璧な令嬢スマイルでそっと会釈をした。……けれど、彼はすぐに視線を逸らし、何事もなかったかのように去っていった。
──ああ、愛しのエリオット様。貴方がわたくしを愛していないことくらい、わかっております。でも……!
でも、それでもわたくし、本当は……
ああぁぁあ! 本当のこと、誰かに言いたいよーーっ!!
***
授業が終わると、取り巻きのご令嬢たちに見送られながら職員室へ──いや、さらにその奥へと進む。そのまた奥に用務員室があり、さらにそのまた奥に──関係者しか知らない「特別室」なる秘密の部屋があるのだ。毎度のルート、慣れたものだ。
「失礼します」
中には、豪華なソファにだらしなく寝転ぶお嬢様と、身の回りの世話係エミリーの姿。
「ふぁあああぁぁぁ……っ!」
「お帰りなさいませ、ポピー」
「ただいまエミリー。……あ、シェリー様、期末照査の成績表をお持ちしました。最後まで首席でございます」
「あーよく寝た。ん? ポピーか。うん、ご苦労さん。……首席ねえ、アンタほんっと勉強できるのね。で、他になんか面白いことあった?」
「あ、王子様の熱烈ファンを、放課後トイレで水攻めにするそうです」
「またミーアか。ふふっ、面白そう。じゃ、それまでワインでも飲んでのんびり待ちましょ。……アンタ、今日はちゃんと最後まで授業受けなさいよ?」
「か、かしこまりました……」
って、いやいやいや、昼間っからワインて! しかも今まで爆睡してたってどういうこと!?
ほんっっっっっっっっっとに、このお嬢はロクなもんじゃないわね!!
言いたいことは山ほどある。
わたくしは十年間も、コイツの替え玉を続けてきたのだ。しかも、ただの代役ではない。学園では”悪役令嬢”として、必要以上に目立つ役割まで押しつけられて。
もちろん、我が家を救ってくれたことには感謝している。あのとき、この話を引き受けなければ、伯爵家はもう立ちゆかなかっただろう。
……でもだからって、何でもかんでも「そっくりだから」で済ませるのは、少し違うんじゃないかしら。
試験も行事も日々の礼儀作法も──気づけば、彼女の役目の半分以上が私の仕事になっている。
いつかちゃんと……その分、お返ししてもらいますからね。
わたくし、ポピーはシュルケン公爵家ご令嬢付きの、控えめな使用人。
そして、もうひとつの顔は──
コイツの影武者だ!!
0
あなたにおすすめの小説
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。
パリパリかぷちーの
恋愛
「ミイーシヤ! 貴様との婚約を破棄する!」
王城の夜会で、バカ王子アレクセイから婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢ミイーシヤ。
周囲は彼女が泣き崩れると思ったが――彼女は「承知いたしました(ガッツポーズ)」と即答!
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
婚約者を奪われるのは運命ですか?
ぽんぽこ狸
恋愛
転生者であるエリアナは、婚約者のカイルと聖女ベルティーナが仲睦まじげに横並びで座っている様子に表情を硬くしていた。
そしてカイルは、エリアナが今までカイルに指一本触れさせなかったことを引き合いに婚約破棄を申し出てきた。
終始イチャイチャしている彼らを腹立たしく思いながらも、了承できないと伝えると「ヤれない女には意味がない」ときっぱり言われ、エリアナは産まれて十五年寄り添ってきた婚約者を失うことになった。
自身の屋敷に帰ると、転生者であるエリアナをよく思っていない兄に絡まれ、感情のままに荷物を纏めて従者たちと屋敷を出た。
頭の中には「こうなる運命だったのよ」というベルティーナの言葉が反芻される。
そう言われてしまうと、エリアナには”やはり”そうなのかと思ってしまう理由があったのだった。
こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる