悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本物に『ざまぁ』した結果→彼女は嵌められてた!本当の悪役は、まさかっ!?

鼻血の親分

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第1章 ざまぁがしたいっ!!

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「さすがはシェリー様、貴族院の首席を最後まで譲らず、見事な成績でした! お見事でございますー!」

 期末照査の成績表を受け取ると同時に、担任教師──お父様の部下でもある彼が、誇らしげにそう言った。教室中が拍手喝采に包まれるが、別に嬉しくもなんともない。

「当然の結果ですわ。この貴族院、国立とはいえ、運営しているのは我がシュルケン家。首席でなければお父様に叱られますもの。おーっほほほほ~!」

 わたくし、シェリー・シュルケンは公爵令嬢。そして卒業後には、第三王子との婚約が控えている。すべては予定通り。完璧。非の打ちどころなし。……ただ、ひとつを除いて。

 席に戻るなり、取り巻きの令嬢たちが騒ぎ立てる。

「シェリー様、大変ですわ! また王子様に、あの厚顔無恥なオンナが群がっております!」

「あら?」

 廊下の方に視線を向けると──確かに、わたくしの婚約者であるエリオット様の背後を、見覚えのある女生徒がチョロチョロと追いかけていた。

「ふん、卒業間近とあって、にわかファンが必死ね」

「ですがシェリー様が婚約者と知っているはずですのに! あんなにベッタリくっつくなんて、無礼にもほどがあります!」

「まあ、知性が足りないのね。憐れだわ」

「前にもこっぴどく懲らしめたのに、全然懲りてませんわ。放課後、例のトイレでお水遊びでもしてあげましょうか?」

「……え、ええ、適当にしておいて」

 そのとき、ふとエリオット様と目が合った。わたくしは完璧な令嬢スマイルでそっと会釈をした。……けれど、彼はすぐに視線を逸らし、何事もなかったかのように去っていった。

 ──ああ、愛しのエリオット様。貴方がわたくしを愛していないことくらい、わかっております。でも……!

 でも、それでもわたくし、本当は……
 ああぁぁあ! 本当のこと、誰かに言いたいよーーっ!!


 ***


 授業が終わると、取り巻きのご令嬢たちに見送られながら職員室へ──いや、さらにその奥へと進む。そのまた奥に用務員室があり、さらにそのまた奥に──関係者しか知らない「特別室」なる秘密の部屋があるのだ。毎度のルート、慣れたものだ。

「失礼します」

 中には、豪華なソファにだらしなく寝転ぶお嬢様と、身の回りの世話係エミリーの姿。

「ふぁあああぁぁぁ……っ!」

「お帰りなさいませ、ポピー」

「ただいまエミリー。……あ、シェリー様、期末照査の成績表をお持ちしました。最後まで首席でございます」

「あーよく寝た。ん? ポピーか。うん、ご苦労さん。……首席ねえ、アンタほんっと勉強できるのね。で、他になんか面白いことあった?」

「あ、王子様の熱烈ファンを、放課後トイレで水攻めにするそうです」

「またミーアか。ふふっ、面白そう。じゃ、それまでワインでも飲んでのんびり待ちましょ。……アンタ、今日はちゃんと最後まで授業受けなさいよ?」

「か、かしこまりました……」

 って、いやいやいや、昼間っからワインて! しかも今まで爆睡してたってどういうこと!?
 ほんっっっっっっっっっとに、このお嬢はロクなもんじゃないわね!!

 言いたいことは山ほどある。
 わたくしは十年間も、コイツの替え玉を続けてきたのだ。しかも、ただの代役ではない。学園では”悪役令嬢”として、必要以上に目立つ役割まで押しつけられて。

 もちろん、我が家を救ってくれたことには感謝している。あのとき、この話を引き受けなければ、伯爵家はもう立ちゆかなかっただろう。

 ……でもだからって、何でもかんでも「そっくりだから」で済ませるのは、少し違うんじゃないかしら。
 試験も行事も日々の礼儀作法も──気づけば、彼女の役目の半分以上が私の仕事になっている。

 いつかちゃんと……その分、お返ししてもらいますからね。

 わたくし、ポピーはシュルケン公爵家ご令嬢付きの、控えめな使用人。

 そして、もうひとつの顔は──
 コイツのだ!!






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