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第2章 何故、わたくしを!?
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「結論から言うと八年前、此処で君と出逢っている。そして僕は君がシェリーだと勘違いして一目惚れしたんだ」
「八年前…ですか」
わたくしが奉公に来て二年が過ぎた頃ね。確か王子様とシェリーが婚約された年だ。それ以来、王子様は時々お屋敷へお越しになられている。勿論、シェリーと親睦を図るために…。
その頃をよく思い出してみよう。王子様はご年配の付き人をお連れになられていた。わたくしは庭園のお掃除を終え、玄関口でバッタリ出会してしまった。そうだ、玄関のお掃除を忘れて戻った時だわ。
「あ…こ、これは大変失礼致しました」
「やあ、お嬢様。…掃除してるとは偉いな」
「いえ、日課ですから。あ、どうぞおかがり下さい」
「うん」
その光景をシェリーが見ていて叩かれたっけ。
バチーーンッ!!
「アンタ、なにエリオットと話してんの⁈ 全く、そんな小汚い格好して、わたくしだと思われるじゃなーい!」
「ごめんなさい。シェリー様」
「いいこと? 彼と絶対お話しちゃ駄目よ!」
「はい、かしこまりました」
わたくしと似てる事を誰よりも気にしてたシェリーは、これまでも勘違いされた事例があって、自分と間違えられる事を極端に嫌っていた。その癖、ダンスのレッスンや学力テストなど面倒な行事はわたくしに押し付けていたのにね。…思い出すと腹立つなあ。
でも、あの出逢いで? 一目惚れ??
…
…
…
※エリオット王子視点
「庭園の掃除か…公爵令嬢とは思えないな」
「左様でございますね、お坊ちゃん」
宮廷で陛下に紹介された時は殆ど話もせず、ごく普通のご令嬢だと思ってたけど、今見た使用人風のシェリーはとても可愛らしい。美しい顔立ちは勿論の事、令嬢らしからぬ控えめで物腰柔らかい雰囲気がとても気に入った。政略結婚とは言え、そんな彼女と婚約出来て良かったな。
ーーそう思った。
ところが僕の目の前に現れた令嬢は先程の雰囲気は微塵もなく、妙にテンションの高いおてんばなシェリーだった。
「エリオット様ーー! お逢いしたかったわー!」
「や、やあ。シェリー」
「ね、お庭に出ない?」
「ああ、良いよ」
公爵家の庭園はとても広い。石畳の通りを二人で歩いてると、庭師が植木などを手入れしてる姿を見かけた。
ふと、池の近くに来た時だった。目の前をぴょんぴょん跳ねる、あの気持ち悪い生き物と遭遇した。
「ああっ、カエルだわ!」
ひぃぃ。
僕はココロの中で叫んだ。実は大の苦手なんだ。だが次の瞬間、何とシェリーはカエルを手掴みして捕まえたのだ。
えっ? 嘘だろ! 何で捕まえるんだよ!
「あー、可愛いーーっ!」
「可愛い?」
「うん、ねー、見てみて!」
うわっ、やめろ! 見せるな! 見たくない!
だが、怖がってるわけにもいかない。僕は男の子だ。無理して余裕なフリをしながら、彼女の手をそっと覗いて見た。
キ、キモい。土色と濃い緑色が入り混じった恐竜的な感じがグロテスクだよっ!
「ヒキガエルだね。うふふ」
な、何でこの令嬢はこんな気味の悪い生き物を素手で捕まえて「可愛い」などと言うのだろう? 本当に彼女は先程の…玄関口で会った慎ましいシェリーなのか? とても同一人物とは思えない。
そして、カエルが今にも飛びかかってきそうだ。手のひらから逃げ出そうと踏ん張っている。このまま僕に向かってきたらヤバいぞ。僕は皇族だ、シェリーの婚約者だ。情けない姿を見せられない。
「逃してやりなよ」
「えへへ、そうね。カエルさーん、バイバーイ!」
彼女はまるで小鳥を放つ様に天に向かってカエルを逃した。そして、それは一瞬の出来事だった。
勢いよく飛び跳ねたカエルは、何と僕の頭を経由して池に飛び込んでいったのだ!
ひぃぃ、い、今、確かに僕の頭を踏み台にしたよな? ええーーーーっ!!
「うふふ…今、エリオット様の頭に…あははははは…」
僕の中で彼女の素敵なイメージが崩れて去っていった。
「八年前…ですか」
わたくしが奉公に来て二年が過ぎた頃ね。確か王子様とシェリーが婚約された年だ。それ以来、王子様は時々お屋敷へお越しになられている。勿論、シェリーと親睦を図るために…。
その頃をよく思い出してみよう。王子様はご年配の付き人をお連れになられていた。わたくしは庭園のお掃除を終え、玄関口でバッタリ出会してしまった。そうだ、玄関のお掃除を忘れて戻った時だわ。
「あ…こ、これは大変失礼致しました」
「やあ、お嬢様。…掃除してるとは偉いな」
「いえ、日課ですから。あ、どうぞおかがり下さい」
「うん」
その光景をシェリーが見ていて叩かれたっけ。
バチーーンッ!!
「アンタ、なにエリオットと話してんの⁈ 全く、そんな小汚い格好して、わたくしだと思われるじゃなーい!」
「ごめんなさい。シェリー様」
「いいこと? 彼と絶対お話しちゃ駄目よ!」
「はい、かしこまりました」
わたくしと似てる事を誰よりも気にしてたシェリーは、これまでも勘違いされた事例があって、自分と間違えられる事を極端に嫌っていた。その癖、ダンスのレッスンや学力テストなど面倒な行事はわたくしに押し付けていたのにね。…思い出すと腹立つなあ。
でも、あの出逢いで? 一目惚れ??
…
…
…
※エリオット王子視点
「庭園の掃除か…公爵令嬢とは思えないな」
「左様でございますね、お坊ちゃん」
宮廷で陛下に紹介された時は殆ど話もせず、ごく普通のご令嬢だと思ってたけど、今見た使用人風のシェリーはとても可愛らしい。美しい顔立ちは勿論の事、令嬢らしからぬ控えめで物腰柔らかい雰囲気がとても気に入った。政略結婚とは言え、そんな彼女と婚約出来て良かったな。
ーーそう思った。
ところが僕の目の前に現れた令嬢は先程の雰囲気は微塵もなく、妙にテンションの高いおてんばなシェリーだった。
「エリオット様ーー! お逢いしたかったわー!」
「や、やあ。シェリー」
「ね、お庭に出ない?」
「ああ、良いよ」
公爵家の庭園はとても広い。石畳の通りを二人で歩いてると、庭師が植木などを手入れしてる姿を見かけた。
ふと、池の近くに来た時だった。目の前をぴょんぴょん跳ねる、あの気持ち悪い生き物と遭遇した。
「ああっ、カエルだわ!」
ひぃぃ。
僕はココロの中で叫んだ。実は大の苦手なんだ。だが次の瞬間、何とシェリーはカエルを手掴みして捕まえたのだ。
えっ? 嘘だろ! 何で捕まえるんだよ!
「あー、可愛いーーっ!」
「可愛い?」
「うん、ねー、見てみて!」
うわっ、やめろ! 見せるな! 見たくない!
だが、怖がってるわけにもいかない。僕は男の子だ。無理して余裕なフリをしながら、彼女の手をそっと覗いて見た。
キ、キモい。土色と濃い緑色が入り混じった恐竜的な感じがグロテスクだよっ!
「ヒキガエルだね。うふふ」
な、何でこの令嬢はこんな気味の悪い生き物を素手で捕まえて「可愛い」などと言うのだろう? 本当に彼女は先程の…玄関口で会った慎ましいシェリーなのか? とても同一人物とは思えない。
そして、カエルが今にも飛びかかってきそうだ。手のひらから逃げ出そうと踏ん張っている。このまま僕に向かってきたらヤバいぞ。僕は皇族だ、シェリーの婚約者だ。情けない姿を見せられない。
「逃してやりなよ」
「えへへ、そうね。カエルさーん、バイバーイ!」
彼女はまるで小鳥を放つ様に天に向かってカエルを逃した。そして、それは一瞬の出来事だった。
勢いよく飛び跳ねたカエルは、何と僕の頭を経由して池に飛び込んでいったのだ!
ひぃぃ、い、今、確かに僕の頭を踏み台にしたよな? ええーーーーっ!!
「うふふ…今、エリオット様の頭に…あははははは…」
僕の中で彼女の素敵なイメージが崩れて去っていった。
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