悪役令嬢の影武者を嫌々演じて十年、憎っくき本物に『ざまぁ』した結果→彼女は嵌められてた!本当の悪役は、まさかっ!?

鼻血の親分

文字の大きさ
30 / 61
第2章 何故、わたくしを!?

30

しおりを挟む
 母は機嫌が良かった。シェリーが噂と違って、とてもしっかりしていたからだ。これでは僕が嘘をついてる様に思われても仕方ない。

「ねえ、シェリー。ダンスしようよ」

 最早この歓談に意味は無かった。ボロが出るより益々母の印象を良くするだけだ。早々に切り上げ、次なる作戦を実行しよう。

「あら、よっぽどダンスがしたいのね」

「そうだよ、お母様」

「シェリーのダンスは評判らしいから、わたくしも楽しみだわ」

「いえいえ、とんでもございません。わたくしのダンスなど、お見苦しいだけです」

「まあ、謙遜しちゃって。さあ、踊ってらっしゃい」

 皇室専用のオーケストラが軽やかなリズムで向かえてくれた。僕らはミニホールの中央へ立ち、お互い手を合わせる。そして静かに演奏が始まった。

 お母様。よーく見ててね。

 ーーだが、…だが、だが、またしても、

 僕は違和感を感じた。以前とは全く違う感覚だった。軽やかなステップ、そして優雅に舞うシェリーに驚きを隠せない。彼女はスタンダードなワルツを完璧に踊っていた。

 じ、上手だ! 凄いぞ!

 シェリーにリードされてる自分が情けなく思う。

 何故だ、何故だ? これがシェリーの実力なのか? とても信じられない。僕は揶揄われていただけなのか⁈

「ね、ねえ、スタンディング・スピン・スペシャルはやらないの?」

「スペシャル…ですか?」

「ほら、公爵邸でやったじゃない。高速回転の!」

「何の事だか記憶にございませんわ」

 え? いやいや、あの滅茶苦茶で自分勝手なスピンだよ。忘れたとは言わせないぞ。パンツ丸出しで転んだじゃないか⁈

 だが、今日のシェリーは素敵なナチュラル・スピンターンやリバースターンを繰り広げ、見るものを魅了する美しいダンスしかやらない。

 やがて曲が終わり、ホールに居た全員から拍手喝采を浴びた。彼女はドレスの裾を軽く持ち上げ、可愛いらしく礼を取る。

「素晴らしいわ、シェリー!!」

 母も感動している。今の彼女は誰が見ても、僅か十歳の少女とは思えない気品溢れたお嬢様だった。

「エリオット、貴方も練習しないとついて行けなくなるわよ!」

「あ、ああ、そうだね…」

 ダンス作戦も失敗した。それどころかシェリーの評判は増すばかりだ。

 この後、庭園を散策するものの僕などそっち退けで母とシェリーが仲良く秋の紅葉を満喫していた。時折笑い声が聞こえてくる。カエルは現れないし、現れてもこの雰囲気なら無視するだろう。

 そして何事もなく、この日が終わってしまった。単に母とシェリーの親睦を深めたに過ぎない結果だった。


 ***


「バトラー、今日のシェリーをどう思った?」

 その晩、バトラーと反省会を行う事にした。公爵邸でのおてんばなシェリーを見てるのは彼だけだし、僕の味方だと信じている。

「素晴らしいお嬢様かと」

「そうではない。公爵邸の彼女とは思えないだろう」

「は、左様でございますね。まあ、王妃様の御前ですから猫を被ってらっしゃたのでは?」

「本性を隠したと言うのか? いや、それにしても変わり過ぎだ。あれは二面性を持った病的な人格だと思う。それとも…」

 ふと、ポピーの顔が浮かんだ。

「あっ⁈ ま、まさか…いや、幾らなんでも」

「お坊ちゃん、如何なされました?」

 僕はとんでもない推測をしてしまった。

 あ、あれはシェリーではなく、としたら…???

 それなら納得がいく。だってそっくりだから誰も気づきはしないだろう。

 そうだ、そうかもしれない。幾ら母の前だからって、あんなに人格が変わるのも可笑しな話だ。普通ありえない。

 これは確かめたいぞ。何としても見破りたい!!

「バトラー、頼みがある!」

 僕は一策を講じた。





 










 









しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

処理中です...