ご主人様は若い女性が苦手なのです。

鼻血の親分

文字の大きさ
11 / 26
第二章〜ご主人様をワタワタさせます〜

11. ご主人様は私を見てたんだ

しおりを挟む
 ※ブルクハルト視点

 その晩僕はベットの上で物思いに耽っていた。頭に浮かぶのは『安息玉』と出会った日のこと。

 話は半年前に遡る……

 不名誉なことだが二度目の離婚を国王様へご報告した帰り道だった。王宮で美しい女性に沢山話しかけられ緊張の連続でとても疲れた。できればそっとして欲しいものだ。

 まぁこうなることは想定の内。だから今回の宿は王都でもあえて静かな街外れを選んでいた。

「伯爵様。顔色めちゃくちゃ悪いですよー」

 エリク。笑顔でそう言うな。だがいつものことだし、むしろ深刻そうにされてはかえって困る。できれば間を取って普通に言って欲しいものだが。

「……で、宿はまだなのか?」
「あともう少しかと。暫しのご辛抱ですよ」

 馬車に揺られるとさらに気分が悪くなる。宿へ着いたら持参した薬草を煎じて飲むとしよう。あまり効かないが何もしないよりマシだ。

「ん、あれは?」

 窓越しから小さな薬草園らしき光景が目に映った。古びた『薬草屋』の看板も掲げている。

 こんな街外れにあったんだ。気になるな。

「すまないが止めてくれ」
「はい?」

 エリクは不思議がっていたが構わず無理やり馬車を停車させた。

「薬草屋へ行くぞ。ついて参れ」
「えー、ひょっとして薬草忘れたんですかぁ?」

 渋々のエリクを引っ張って店の軒先を覗いてみると市場の様に色んな薬草が並べてある。そして『安息玉』と言う表示が目に止まったのだ。

「安息……玉だと?」
「あ、いらっしゃいませ。って、貴族の御方でしょうか!」

 売り子の声が上ずっている。若い男だ。

 ん、そうか。王宮の帰りだから大礼服のままだった。こんな街外れで現れたら驚くだろうな。

「ああそうだ。いや気にしなくても良い。それよりこれ……」
「安息玉ですね。これはストレスや緊張を和らげる生薬でございます」
「ストレスや緊張を? 本当か?」
「はい。うちのお姉様が開発した看板商品です」

 お 姉 様? 

 奥にエプロン姿の若い女性が見えた。長い金髪を一括りにしてひたすら薬草を洗っている。

 労働階級の娘か? その割に気品を感じるな。綺麗な碧眼とその容貌……とても美しい女性だ。確か売り子は「お姉様」と丁寧な言い方をした。

 何者なんだ……

「伯爵様。薬草。ご購入。するんですよね?」
「ん、ああ。そうだな。ではこの生薬を一つ、いや三つ頂こうか」
「ありがとうございます。この『安息玉』の用量ですが、大きいので一日一粒にしてくださいね」
「なるほど。分かった」

 これが衝撃的な出会いだった。

 その晩、葡萄ほどの真っ黒でグロテスクな生薬を食すると何とも言えない幸福感に満たされた。

 何だこの気分は。これは良いぞ。気持ちが落ち着く。あの美しい女性が精魂込めて作った姿が目に浮かぶ様だ。ああ、美しい女性だったな……

 僕は久しぶりにぐっすりと安眠した。

 その翌朝のこと。薬草屋へ再び立ち寄り、全ての『安息玉』を買い占めた。残念ながらあの女性は見かけなかったが。

 そしてエリクに指令を出す。

「お前は一週間ほど王都へ残り『薬草園』のこと調べてくれないか?」
「え、王都で休暇取っても良いんですか!」
「いやだから。休暇じゃなくて」
「はいはい。分かってますよ。あの生薬が気になるんですねー。了解~!」

 うむ。大丈夫かな? まぁこいつはチャラいが仕事はできる。

「頼んだぞ、エリク」

 僕は期待に満ち溢れながら王都を後にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

処理中です...