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第二章〜ご主人様をワタワタさせます〜

16. ご主人様はワタワタですね

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 ※ブルクハルト視点

 あれから悪趣味なプレゼントは無くなった。ディアナからの贈り物は生薬と手作りクッキーのみだ。そのクッキーもただ丸いだけの至って普通の形をしている。勿論、メッセージカードもない。

 何なんだあの女は。腹が立つ。

 と、いつまでも僕は引きずっていた。楽しいひとときをぶち壊された苛立ちと寂しい気持ちが入り乱れ、また怒鳴ったことも心の何処かで後悔している。その複雑な心境を彼女にぶつけていたのだ。

「ドミニク。例の件、セリアに確認したのか」
「はい。実は……」
 
 昨日彼から聞いた話だ。猿やカエルに危害を加えていたのは前妻である公爵令嬢とお付きの者だったらしい。僕に気を遣っていた訳ではなく、露天風呂へ頻繁に現れるので頭にきて処分を命じたとか。

 ただセリアも僕が子供の頃、森林から猿を追い出したことがありこれは僕を守るためだと思う。

 カエルに関しては本邸へ紛れ込むのを防ぐため、できるだけの捕獲をカトリーヌに指示していた様だ。串刺しなどは公爵令嬢のしたことであって、その噂が今も生きてるだけ。実際は本邸で捕まえれば屋敷外へ逃してるそうだ。

 なるほど。決してセリアは生き物を無残に殺したりはしない。

 だが、僕の知らないところで侍女たちに気苦労させているとは領主として情けない限りだ。

 もしかしてディアナはそれを遠回しに伝えたのではないのか。いい大人が、領主が猿やカエルにビビってどうするんだって。

 そう思えてならない。

 あぁ、本当の気持ちが知りたい。君が態と嫌われる様なことをするとは思えないよ。そうだろ。叱咤激励するためなんだろ?

 こんなに心が、感情の起伏が乱れるのは初めてだ。僕は狼狽えている。あのアロマの香りがするぬいぐるみを捨てきれないのは君を信じてるからだろう。

 ディアナ。君に逢って真実を確かめたい……

「御坊ちゃま、本日の生薬ですが先程別邸へ伺いましたところ、まだとのことでございました」
「なに、まだだと? もう一粒もないぞ!」

 ドミニクの知らせを受け、僕の動揺はピークに達した。早く安息玉を食べて落ち着きたいのだ。

 直接取りに行くか。いや待て、彼女に会わす顔が。ええーい。もう、どうしたらいいんだ!

 リビングを歩き回りソワソワして落ち着かない。と、その時だった。

「ご、ご主人様。ディアナ様が……その」
「どうした、セリア!」
「お止めしたのですが、生薬を持参してここまで来てしまって」

 なんと、ディアナがそこにいるのか?

「如何致しましょう。私が受け取って追い返しても宜しいのですが」
「い、いや。ちょうど良い。ここへ呼ぶのだ」
「ご、ご主人様……?」

 ついそう言ってしまった。どう接するのか何も考えていない。ただ逢いたいと願っていたのは事実。

「失礼致します。ご主人様、遅くなりました」

 彼女だ。僕の心を掻き乱すディアナが目の前にいる。いつもの美しい箱を持って……
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