貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

36.侯爵令嬢は女主人

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私に出来ることは少ないけれど
テイラー家の女主人の底力を見せて差し上げます!



ハルカとカレンの調査結果を受け、今後の方針をどうするかを話し合うために、我がテイラー家の応接室にユミナ様やクルツにお爺さまが集まっています。
ベルディナル公爵家については、予想通りの結果でしたわ。
把握しているものはまだごく僅かではありますけれど、ベルディナル公爵家は、落ちぶれる瀬戸際に立たされているのですわ。
現当主とご子息様が、な投資話に騙されて、破産寸前なのです。
それでも、奥様と令嬢のお二人には黙ってらっしゃいますから、現状は推して測るべしですわ。

ご子息様の投資話は、ある意味運が悪かったといえますから、阿呆は言い過ぎかも知れませんわね。
ただ、当初からハイリスク・ハイリターンの案件ではありましたから、自業自得ではあります。
ご当主様については、本当に阿呆としか言えません。
少し調べれば、利益など生まないと分かるような案件でした。それ故に、投資者はごく僅か。
資産家として名をはせる賢明な投資家は、一人も投資していませんでしたのに。
これは、好機だと思われたのか、多額の投資をされていました。
そして現在は、利益を生むどころかマイナスに転じており、引くに引けない状況のようです。

そこで、目を付けたのがシュトラウス辺境伯家なのだそうです。
当主が若く比較的お金があると言う理由なのだとか。
これには、ユミナ様も渋面を作られておりました。
え?クルツとお爺さま?
お爺さまは、馬鹿を見るような表情を、クルツは嫌悪の表情をしていましたわ。
私は、このまま現当主が当主のままだと、公爵家はお取り潰しになるのでは?と、考えていましたわよ?

第二王子殿下については、確かな情報は入りませんでしたわ。
まぁ、王家の情報がただ漏れでは、困りますものね。
ただ、一つ分かったのは、10の頃から変わらず一人の侍従がついていると言うことです。
これについては、さして珍しい話ではなく、第一王子殿下にも幼少から一人の侍従がついていたはずです。
一つ気になるのは、第二王子殿下の周りのものはその侍従以外入れ替わりがあった。と言うことでしょうか。
第二王子殿下は、変わらずついているものは複数いますし、王女殿下に至っては、一人もおりません。
王女殿下の場合は、彼女の悪癖のせいでもあるとは思うのですけれど・・・

「とりあえず、シュトラウス家としては、ベルディナル公爵家からの釣書に対し、丁寧なお断りを出します。
幸い、辺境伯家には、その権限を与えられておりますので」

ユミナ様は、重いため息を落とされました。

「問題は、第二王子殿下についてか。婚約自体は断れるが・・・・」

そうおっしゃりながら、お爺さまが、私をチラリと見られます。
何を言わんとされているかは、分かる気がしましたけれど素知らぬ顔でお茶を飲んでおきます。

「お爺さま。無理です。お姉さまはそういう方です」

クルツが不本意であると顔に出しながら、私を援護してくれます。

「はぁ。辺境伯。我が侯爵家は、第二王子殿下について、動くことになりそうだ。ミラがその意思を示しておる。君はどうするかね」

お爺さまが、折れてくださいました。
幼き頃の記憶を思い出さなければ、私とて第二王子殿下の為に動こうとは思いませんわ。
そうと分からぬように助けて頂いたり、友好を深めていましたもの。

ユミナ様は、私をじっと見られて聞かれてきます。

「君にとって第二王子殿下の存在とは何だ?」

私は、ユミナ様の言わんとしていることはわかりませんが、素直に答えます。

「今現在、相手がどのように思っているかは存じません。
しかし、思い出した私は、少なくとも友人だと思っておりますわ」

ユミナ様は、私の深淵を探るように見つめてきます。
私もそらすことなく見つめ返します。
しばらくそうしていれば、ユミナ様ひとつ息をつかれ諦めたような顔をなさいました。

「わかった。では、私はシュトラウス家としてではなく、個人として。テイラー家ではなくミリィに手を貸そう」

ユミナ様は、そうおっしゃいました。
お爺さまとクルツを振り仰げば、
お爺さまは苦虫をかみつぶしたような顔を
クルツは虚を突かれたような顔をしていました。

何故かしら?
私はわからずに首をかしげます。
そんな私をクルツは、残念な目で見てきました。
え。私、何故そんな目で見られなければなりませんの?!

お爺さまが口を開こうとしたとき、慌てたようなノックの音が響きました。
訝しげに思いながらお爺さまは、入室を許可します。

「お話し中、申し訳ありません!シュトラウス邸から急使が来ております」

お爺さまとユミナ様は、カオを見合わせています。

「お通ししろ」

急ぎ入ってきた、急使の方はユミナ様に耳打ちをしております。
そして、みるみるユミナ様の表情が険しくなって行かれます。

「侯爵。私は急ぎ領地へ帰ります」

険しい表情で、ユミナ様は便箋を取り出され、何事かを書かれると、封蝋をされた後に私へと手渡してきます。

「王家へ渡りが欲しいときは、これと共にカミラ殿下へ連絡を取るといい」

私は、ユミナ様に頷くと封筒を受け取り胸に抱きます。
ユミナ様は、お爺さまに向き直り、何事かを説明してくださいました。

「急使の連絡は、北の国境沿いに、隣国の軍が野営をはじめたことと、魔族と思われる一団が確認されたためです。
侯爵には、私と共に王宮にあがっていただき、対応していただきたい。
状況的に、信用できるものが王宮に多い方が良いので」

お爺さまは、一つうなずくと少し意地の悪い顔をされます。

「承知した。しかし、わしを信用してもよいのか?」

ユミナ様は、苦笑を一つ返されます。

「思想の沿わぬ事もありはしますが、現状では信頼に足ると思っていますよ。それに、その信頼に応えてくださる方だとも」

お爺さまは、クルツにも着いてくるように言うと、準備を始められました。
私はしばらく呆然としていましたが、思い出したように自室へと走ります。
確かここに・・・

あった。お父様が私にと下さった、鞘飾り。
いつか、私に大事な方ができるまで、大事にしなさい。って、渡された。
私は、それを掴むと馬車に乗り込もうとしていた、ユミナ様に声を掛ける。

「ユ・・・ユミナ様!」

息も絶え絶えに、呼び止めるとユミナ様は驚いたように振り向いてくださる。
無理やりに息を整え、ユミナ様に鞘飾りを差し出す。

「よかったら、これを」

ユミナ様は、驚いたように受け取ってくださいました。

「無事にお帰りください」

そう言うとユミナ様は、くしゃりと顔をゆがめられ、ああ。と応えてくださいました。
そして、急ぎ馬車へと乗り込まれます。

私は、お爺さま達、三人が乗り込んだ馬車を見送ります。
こんな時に私に出来ることは、家を守ること。自分の身を守ること。
それ位しか出来ないことに歯がゆさを感じますけれど、これも大事な事ですものね。
私は、家へと戻り気持ちを切り替える。

お婆様もお母様も居ない今、テイラー家の女主人は私。
情報を制するのが、テイラー家の女主人ですもの。
さぁ。私に出来ることを始めましょう。
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