貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

82.貴族という名の伏魔殿③(ユミナ視点)

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なんで、私の客室が王族であふれているんだ。謎すぎないか?




立ち尽くし、動こうとしない王太子殿下にカミラが声をかける。

「なんだ。エーナス。来たのか。問題ないと言っただろう」

カミラの声に、王太子殿下は彼へと視線を向ける。
私は、邪魔にならぬようそっと視界の隅へと移動する。

「叔父上、そうは言われても病み上がりのようなものなのですから、心配します」

「兄上。俺は、大丈夫ですよ」

第二王子殿下の言葉に、きっと厳しい視線を向ける。

「大丈夫・・・私は、デュオの一番共に居た筈なのに、おまえの変化に疑問を持てなかったんだ。
それに、違和感すら抱けなかったんだ。心配ぐらいさせろ」

私は、カミラの目配せを受け、扉へと近づく。
辺りを見渡し、気配を確認し、扉を硬く閉め、扉の前へと立つ。
マルクスへは、窓の側に立つように目配せを送る。

その間、王太子殿下と第二王子殿下は言い争いとまではいかないが、何かしらの言い合いをしている。
私とマルクスの動きに気づいたそぶりはない。
カミラはため息を静かにつくと、小さく2度手を叩いた。

「?!」

「!!」

先ほどまで、言い合いをしていた殿下方が、小さく息をのみカミラへと視線を向ける。
気まずげな表情をしていた。

「さて、エーナス。おまえの立場は?」

「・・・王太子です」

「では、デュオ。おまえの立場は?」

「・・・王位継承権2位の王子です」

カミラは、隠すことなくため息を一つつく。

「よろしい。では、何がまずかったかわかるか」

「まず、ここへ慌ててきたことです」

「周囲への注意を怠り、二人で言い合いをしていたことです」

2人の殿下は、答えながら項垂れていっている。
気持ちはわからなくもない。場所もわきまえず、辺りへの注意を怠り、兄弟げんかを始める勢いであったのだから。
カミラは、2人の頭へと手を伸ばし、幼子にするように髪をかき混ぜる。
頭を撫でると言うには、些か乱暴ではある。

「わかっているならいい。次からは気をつけろ」

そう言って、2人から手を離す。

「ユミナわかっていることを話せ。恐らくだが、テイラー嬢の汚名返上にも使える。ただまぁ、それなりに表には出てもらうことにはなるが」

2人の殿下は、私を伺い、私はマルクスへと視線を向ける。
マルクスは、諦めたように肩をすくめるだけだ。

「明日までお待ちいただけますか。ミ・・・テイラー嬢本人に確認を取らないで、私の口から言えぬ事がありますゆえ、確認をとらせて下さい」

「なんだ。口実か」

カミラが少しだけニヤけた顔でこちらを見てくる。
違う。そもそも、今はまだあえない。
事が落ち着くまで、会わないと決めたからな。

「違います。そもそも、そこの彼がテイラー家のものですから、伝言を頼むだけです」

その言葉に、カミラはマルクスをマジマジと観察する。
マルクスはと言うと、身じろぎひとつせず、視線を受け流している。

「テイラー家のものか。名は何という」

マルクスからの視線での問いかけには、頷いておく。
そもそも、答えないとカミラが引き下がらないだろう。

「マルクスと申します」

マルクスがキチンと話しているのは、初めて聞いた。
いつもは、もっと砕けた話し方をしている。

「マルクスか。今ココで話せないものなのか」

その問いかけに、少しだけ考えるようなそぶりをしてみせる。
なるほど。即答よりは考えてものを言っている印象になる効果的な間だ。

「申し訳ありません。お嬢様に関するものらしいと言うのはわかるのですが、何についてなのか思い当たりませんので、答えかねます」

そう言って、腰を折る。敬意を払っているとわかる最低限ではあるが、腰を折り頭を垂れている。

「なるほどな。ユミナ。彼は何故ここにいるんだ」

あー・・・やはり、そこを切り込まれるか。
やましい話ではないが、説明が難しいな。

「テイラー侯爵が連絡係兼人手として貸し出してくださいました」

その答えに、虚を突かれたような表情をしたカミラがいた。

「テイラー侯爵がか?」

「そうですが」

そう短く返答する。カミラは何かを考え込み、一つだけ聞いてきた。

「知の侯爵がか?」

その問に答える前に私はマルクスからの視線に気付く。
なるほど。答えても良いが、ミリィの存在をにおわすなと言ったところか。

「そうですね。知の侯爵と言われるテイラー侯爵が、貸し出してくださいました。彼は優秀で何かと役に立っています」

もしかしたら、カミラは知の侯爵が何を現しているのか知っているのかもしれない。
私は、ミリィに聞くまで知らなかったけどな。

知の侯爵とは、テイラー侯爵自身をさして呼ばれることもあれば、別の意味を持って呼ばれることもある。
テイラー家の知を支えるのは、女主人。その女主人をさして呼ばれることもある。
現在、その任は空席に見せて入るが、ミリィが担っている。
情報の整理と統制。表には出ないが、大きな役割を担っていると。
カミラが、今回どちらの意味で問いかけていたかはわからない。
ただ、私はテイラー侯爵自身を指して返答した。

「そうか。では、明日まで待つとしよう。エーナス、明日は時間を取れるのか」

「午後のお茶の時間以降であればいつでも」

王太子殿下は、考えるまでもないと言ったように返答している。
何となくだが午後のお茶の時間までに、意地でも全てを終わらせるという雰囲気を感じ取る。
王太子殿下は、けっして暇ではない。陛下の仕事を一部引き取っているはずだ。

「デュオもそれでよいか」

「はい。かまいません」

第二王子殿下も問題ない旨を告げる。
隔離生活はまだされるようだから、恐らくカミラの手伝いでもしているのだろう。

「では、明日の茶の時間に私の部屋へ集合だ」

私が了承の返事をすれば、殿下方は部屋をあとにされる。
しばらく気配を追い、遠ざかるのを確認して一息つく。

「マルクス。ミリィへの確認を頼む」

・・・ミリィに会いたいと思う反面、私のせいでこれ以上彼女に汚名は着せられない。
調べていてわかったことが一つあった。
彼女への難癖は、私が関わっていることが少なからず理由に挙がっているようだ。
マレフィセント伯爵は、古の血に劣等感を持っているが故のものであったが、下位貴族達は新興貴族でありながら辺境伯と言う地位にいる私が面白くないが故だった。
私の好意が知られれば、彼女への難癖は増えるだろう。それは、避けたかった。
無理だとわかっていながら、彼女を何者からも守りたいと思ってしまう。

「旦那が直接聞けばいいのに」

マルクスにそう言われ、苦笑を浮かべるしかなかった。

「私のせいでこれ以上迷惑をかけたくない」

そう言い、腰の鞘飾りに手を触れようとして気付く。
ミリィへと預けていることに。
そして、ミリィの存在を感じるために触る。それが、癖となっていることに気付かされる。
私は、何事もなかったかのように、鞘を軽く撫で書類の山へと近づく。
最初こそ、タウンハウスと王宮とを往復していたが、次第に王宮へと泊まり込むことが多くなった。
情報を集めるにしても噂を聞く機会にしても、王宮にいる方が手間が省けるからだ。
毎日着替えとシュトラウス家に関する報告等を頼んでいる家令には悪いとは思っている。
後は、事後処理の報告書類もまだ提出しなければならないものもある。

「はぁ・・・」

思わず大きく息をつけば、マルクスが笑う気配がする。

「旦那。やせ我慢は身体に毒だぜ」

わかっている。わかっているさ。
それでもだ。私にもプライドが少なからずある。
少しくらいは、自分の手で彼女を守りたいんだ。
彼女に思いを伝えるにしても、今のままでは自分が少しだけ情けなくて、自信がない。

「ま、旦那の気持ちもわからないでもないけど、そのうちお嬢が動くかもよ」

マルクスの言葉に、少し苦笑をもらす。

「たしかに」

ミリィなら、しびれを切らして行動しそうだな。
そう思いながらも、会う決心はつかなかった。
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