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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~
83.貴族という名の伏魔殿④(ユミナ視点)
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いや、たしかにそうは言ったが・・・驚きを隠せない・・・
私は、今日も王宮で作業をしている。
今日は、殿下方と会う予定が始めからわかっているので、一度タウンハウスへと戻り再度登城して来たところだった。
私に割り当てられている客室に複数の気配を感じる。
一つは、慣れ親しんだマルクスのもの。もう一つは、多分ヘーゼルだろう。
あとの2つは武人の気配だというところまではわかる。最後の1人は普通の気配で、私には判断がつかないな。
でも、ミリィの護衛に付いているはずのヘーゼルがいるのだろうか。
まさか、ミリィの身になにか?!
慌てて部屋に入れば、目の前の光景に唖然とする。
フードを深く被った者の側にヘーゼルとマルクスが立ち、少し離れて侍女が1人とあれはメビウスか?
「旦那、顔。かお」
「辺境伯。すまない」
ヘーゼルとマルクスの声に我に返り表情を改める。
そして、再度気配を感じてまたもや唖然とする。
私は最初、普通の気配が侍女で武人がフードの者とメビウスかと思っていた。
しかし、武人の気配は、メビウスと侍女であり、普通の気配がフードの者だった。
あの侍女は見覚えがある。たしか、ミリィについていた侍女だ。ミリィは、メルと呼んでいたと記憶している。
彼女は、護衛も兼ねていたのか。
と言うことは、あのフードの者は・・・
私が、見つめていると、すっとフードを落とす。
現れたのは、灰白色の髪。夢にまで見た、愛しい人と同じ色。
そして、顔はやはり彼女だった。
「なぜ、ミリィがここに?」
私の声は、思ったよりも低く固いものだった。
それ故か、ミリィが肩を強ばらせるのを感じた。
「ごめんなさい。ただ、これは私の我が儘なのです」
ミリィへと視線で続けるように促せば、緊張した面持ちで話し始める。
「まず、今日私はここにいますけれど、いないことになっています。
王宮へ登城した記録は残っていません。お爺さまとクルツが登場する際に、紛れて登城しました。
もちろん、近衛の警備隊長などの隊長クラスと陛下には報告しておりますし、お爺さまとクルツは知っています」
ちょっとまってくれ。なぜ、そうまでしてミリィは、ここに来たんだ?
そして、テイラー侯爵は何を考えているんだ。
「因みに、私の身元証明は、陛下が発行してくださいました」
ミリィはローブの上に首からかけられたプレートを指し示す。
見れば国の印と陛下の印が刻まれている。最高位の貴賓扱いの印章になっていた。
・・・陛下も何を考えているんだ?
「そして、私がここに来た理由ですけれど・・・」
そこまで言って、ミリィの声が震えていることに気づく。
表情を窺えば、無表情の中に不安が見てとれる。
瞳が揺れ、迷っているように感じる。
「あの。その前に・・・一つお聞きしてもよろしいですか・・・」
震え、消え入りそうな声に、側により抱きしめたくなる。
だが、身を隠してまで登城してきた理由を聞かねばならない。
「ユミナ様は・・・シュトラウス様は・・・」
まて、なんでミリィは言い改めたんだ?
「私は・・・私はまだユミナ様と呼んでもよろしいのですか。
私はまだ、お側にいてもよろしいのですか」
ミリィの言葉に殴れた気持になった。
見れば、手にはあの鞘飾りが握りしめられている。指先が白くなるまで、硬く握られていた。
私が良かれと思ったことが、ミリィを追い詰めていたのか?
静かに側により、ミリィの前へと膝をつく。
硬く握られていた指先へと手を伸ばし、優しく包み込む。
いつも暖かかった彼女の手は、冷たく冷え切っていた。
「どうして、そう思ったの?私がミリィを追い詰めてしまった?
私は、これからもミリィにユミナと呼んで欲しいし、側に居て欲しいよ」
私の言葉で少しだけ力の抜けた指先をすくい上げ、唇をよせる。
「だっ・・・だって、ユミナ様が鞘飾りを預けるからって。
でも、会いにも来て下さらなくて。し・・・信じようと思っても不安で・・・」
ミリィは、目に大粒の涙を浮かべ、つっかえながらも説明してくれる。
そうか。私が思っている以上に、ミリィを不安にさせていたのか。
お互いに確かな言葉を言っていないことに、少しだけ甘えすぎたのかもしれない。
「ねぇミリィ。この鞘飾りに私の知らない意味があるのかな。
辺境とは違う風習がテイラー家にはあるとカミラ殿下は言っていたけれど。
私の知る意味は、戦士の安寧と無事を祈願するものだ。
でも、今の君の反応を見ているとそれだけではないきがするんだ」
私の言葉に、ぴくりと身を強ばらせ、顔を背けた気配を感じる。
顔を上げてみれば、少しだけ頬を染めたミリィがいた。
「教えてはくれないのだろうか」
と言えば、ミリィが目線だけこちらに向けてくる。目には涙をためたままだ。
それを絡め取れば、またさっとそらされる。先程よりも、頬の色が濃くなった気がする。
「知ってどうしますの」
そう、彼女は問うてくる。
何というか、ぐっとくる表情だな。
恥じらいと戸惑い。そこに、好意が透けて見える。
我ながら、いい性格をしていると思う。
「そうだな。どうするのかと聞かれれば返答に困ってしまうね」
私の答えに、ミリィは目を閉じる。その拍子に、ためられていた涙が頬を伝う。
手を伸ばし、涙を拭う。
「その鞘飾りは、父の形見ですの。私がお父様から頂いたものです。ひ・・・ヒントはそれだけです。あとは、ご自身でお調べになってくださいまし」
ミリィは、それだけ言うと口を閉ざしている。言うことは言ったということだろうか。
父親の形見。父から娘への贈り物?
そこまで考えて、何かを思いだしかける。
昔爺様から聞いた事があるような?確か廃れた風習だとか言っていたような・・・
ーーー母親から息子に贈る鞘飾りはの、息子の安全を祈願する意味がある。
息子に鞘飾りを贈るものが現れるまでは、母親の鞘飾りが守ってくれる。
そんなことを言っていた気がする。父親から娘に贈られる事にも意味があるのだろうか。
「もう今はいないけれど、爺様から母親から息子へ鞘飾りを贈られるのは、息子の安全を祈願する意味もあるとにいた事がある。
息子に鞘狩りを贈る人が現れるまでは、母親の鞘飾りが守ってくれると言っていた。
もしかして、父親から娘に贈られる事もあるものなのだろうか」
問いかければ、少し驚いた顔でこちらを振り返ってきた。
こうしてたまにミリィは、表情を見せてくれる。彼女は無意識の様だけれど。
その表情に見とれていれば、涙を拭うために離した方のてを口元へと持って行き、人差し指を自分の唇へと当てる。
「秘密です」
その表情は、先程よりもずっと綺麗で、柔らかいものだった。
私はそれに見とれ、ミリィに手を離されたことも気付かなかった。
気付いた時には、ミリィが私の鞘に鞘飾りをつけ終えた所だった。
「でも、意味を知っても持っていてくれると嬉しいです」
そう、言いながら小さく微笑んでいるミリィがいた。
些細な変化だろうが、確かに口角が上がり僅かに目尻が下がっている。
私は思わず、唇を奪いそうになり、慌てて軌道を変える。
唇にほど近い頬へと口づければ、赤く染まるミリィが目に入る。
その頬に軽く振れ、立ち上がると直ぐ側へと腰掛ける。
「で、ミリィはなんで登城してきたの?
このためだけではないんだろう」
そう問えば、ミリィはヘーゼルとマルクスへと視線を向けている。何かあるのか?
「え・・・ええ。ユミナ様が王弟殿下方と第二王子殿下の事を話されるとお聞きして・・・」
少しだけ、慌てたように話し出す。
そんなに慌てなくとも。と、思いながら話を聞いていく。
「私の異能も含めてお話しした方が良さそうですし、それなら私が直接離した方が良さそうですので」
彼女の話は、強ち間違ってはいない。でも、存在を偽ってまでする話ではないようにも思う。
「わからなくもない話だけれど、存在を偽る必要性をあまり感じないのだが」
そう問えば、マルクスが口を挟んでくる。
「お嬢。諦めろ。話しておいた方がいい」
なんだ?マルクスへと視線を向ければ、肩をすぼめられる。
ならばとミリィへと視線を向ければ、小さくなっている彼女がいた。
「どうしたの?話せない何かなの?」
そう問えば、下を向いたまま小さな声で返答がある。
「いえ。そういうものではないんですの。ただ・・・」
そこで、とまる。続きを促せば、どう言えばいいかを迷うそぶりを見せる。
「えっとですね、私知ってるんですの」
やっとのことで、ミリィはそれだけを口にする。
何を知っているのか、分からないが、続きを待つことにする。
「私は、知ってますの。お爺さまやクルツ、ユミナ様が私のために汚名返上して下さろうとしていることを。
今、私がどのような立場になっているかと言うことも。
だから、私がそれを潰してはダメなのだと思うのです」
頭を抱えてしまった私を許して欲しい。
少し考えればわかったはずだ。情報の収集能力は彼女の方が得意分野だ。
私が知るよしもない情報も知っている。
と言うことはだ、彼女自身がなんと言われているかも、彼女がどのような立場に立たされているのかも、知っていたとしても不思議ではない。
テイラー侯爵とミリィへ話さないと決めたときに、クルツが微妙な顔をしていたわけがわかった。
あの時、一番冷静な思考をしていたのが彼であり、彼はこの可能性に気付いていたと言うことだろう。
「・・・ごめんなさい」
思考の淵へと沈みかけていたところに、小さな謝罪が耳に入る。
ミリィはまだうつむき、指先はローブを握り混んでいるのが目に入る。
ああ、私はだめだな。彼女が悪いわけではないのに
ローブを握る指先へと手を伸ばし、優しくほどく。
そして、彼女の指先と私の指先を絡め握り混む。
「謝る必要はないよ。少し考えれば、気づけたことだし。
ミリィは、テイラー侯爵や私の思いをくみ取ってくれたから、存在を偽ったんだね。
確かに反撃の糸口を掴みかねてる今は、ここに君はいない方がいい」
そこまで言って、私は侍女へと顔を向ける。
「たしか、君は・・・メルだったかな?」
侍女は奇麗にお辞儀をし、肯定の言葉を返してきた。
護衛が侍女なのか侍女が護衛なのかはわかりかねるが、王宮にもこれほど綺麗なお辞儀を出来る者は少ないだろう。
「すまないけれど、カミラ殿下に一人客が増えることと君達が増えることを伝えてきてもらえるかな」
「かしこまりました」
侍女は言葉少なにそう言うと部屋をあとにした。
流石テイラー家と言ったら良いのかは分からないが、王族の前に出しても恥ずかしくない教育を受けているようだ。
「さてと。ひとつ気になっているのだけれど、メビウスなんでいるの」
「あ。認識されたんだ。てっきり無視を決め込むのかと思ってたよ」
メビウスが軽い調子で返してくる。
いや、無視しておいて良いなら、無視を決め込むのだが・・・
「あの。ごめんなさい。私が同行を許可しましたの。
彼の腕は確かですし、頭はいいので」
確かにその通りなのだが、若干含みを感じる。
「頭はって・・・ひどくない?」
ああ、本人にも伝わってるな。
ミリィにしては、珍しい物言いなきもするが、信用していると言うことか?
自分を攫った者の1人だろうに。
「このままだと君の話も聞かれると思うけどいいのか?」
そう問えば頷き返される。
「別に隠しておくほどのものでもないですし、これからも私の護衛につくのであれば、知っておいた方が良いかと思いまして」
確かに一理ある。護衛として、護衛対象の情報は知っておいた方がいい。
身体能力や思考のクセ。交友関係等、知っておけばいざという時の行動が把握しやすいため、守りやすい。
それは、わかるが心がじゃっかん不満を訴えているのを感じる。
私の留守中も護衛についていたのは、知っているが・・・
なんだか、面白くないな・・・
少しだけ不満を感じていれば、僅かに握り替えされるのを感じる。
私は気を紛らわせるため、彼女の感触を確かめるように指先を動かす。
彼女の身が少しはねた気がするが、気にすることなく堪能する。
その間、彼女の手は引かれることなく私に預けられたまま、怪しく動く指先を受け入れていた。
その事に満足感を憶えながら、私は暫く堪能することに決めた。
私は、今日も王宮で作業をしている。
今日は、殿下方と会う予定が始めからわかっているので、一度タウンハウスへと戻り再度登城して来たところだった。
私に割り当てられている客室に複数の気配を感じる。
一つは、慣れ親しんだマルクスのもの。もう一つは、多分ヘーゼルだろう。
あとの2つは武人の気配だというところまではわかる。最後の1人は普通の気配で、私には判断がつかないな。
でも、ミリィの護衛に付いているはずのヘーゼルがいるのだろうか。
まさか、ミリィの身になにか?!
慌てて部屋に入れば、目の前の光景に唖然とする。
フードを深く被った者の側にヘーゼルとマルクスが立ち、少し離れて侍女が1人とあれはメビウスか?
「旦那、顔。かお」
「辺境伯。すまない」
ヘーゼルとマルクスの声に我に返り表情を改める。
そして、再度気配を感じてまたもや唖然とする。
私は最初、普通の気配が侍女で武人がフードの者とメビウスかと思っていた。
しかし、武人の気配は、メビウスと侍女であり、普通の気配がフードの者だった。
あの侍女は見覚えがある。たしか、ミリィについていた侍女だ。ミリィは、メルと呼んでいたと記憶している。
彼女は、護衛も兼ねていたのか。
と言うことは、あのフードの者は・・・
私が、見つめていると、すっとフードを落とす。
現れたのは、灰白色の髪。夢にまで見た、愛しい人と同じ色。
そして、顔はやはり彼女だった。
「なぜ、ミリィがここに?」
私の声は、思ったよりも低く固いものだった。
それ故か、ミリィが肩を強ばらせるのを感じた。
「ごめんなさい。ただ、これは私の我が儘なのです」
ミリィへと視線で続けるように促せば、緊張した面持ちで話し始める。
「まず、今日私はここにいますけれど、いないことになっています。
王宮へ登城した記録は残っていません。お爺さまとクルツが登場する際に、紛れて登城しました。
もちろん、近衛の警備隊長などの隊長クラスと陛下には報告しておりますし、お爺さまとクルツは知っています」
ちょっとまってくれ。なぜ、そうまでしてミリィは、ここに来たんだ?
そして、テイラー侯爵は何を考えているんだ。
「因みに、私の身元証明は、陛下が発行してくださいました」
ミリィはローブの上に首からかけられたプレートを指し示す。
見れば国の印と陛下の印が刻まれている。最高位の貴賓扱いの印章になっていた。
・・・陛下も何を考えているんだ?
「そして、私がここに来た理由ですけれど・・・」
そこまで言って、ミリィの声が震えていることに気づく。
表情を窺えば、無表情の中に不安が見てとれる。
瞳が揺れ、迷っているように感じる。
「あの。その前に・・・一つお聞きしてもよろしいですか・・・」
震え、消え入りそうな声に、側により抱きしめたくなる。
だが、身を隠してまで登城してきた理由を聞かねばならない。
「ユミナ様は・・・シュトラウス様は・・・」
まて、なんでミリィは言い改めたんだ?
「私は・・・私はまだユミナ様と呼んでもよろしいのですか。
私はまだ、お側にいてもよろしいのですか」
ミリィの言葉に殴れた気持になった。
見れば、手にはあの鞘飾りが握りしめられている。指先が白くなるまで、硬く握られていた。
私が良かれと思ったことが、ミリィを追い詰めていたのか?
静かに側により、ミリィの前へと膝をつく。
硬く握られていた指先へと手を伸ばし、優しく包み込む。
いつも暖かかった彼女の手は、冷たく冷え切っていた。
「どうして、そう思ったの?私がミリィを追い詰めてしまった?
私は、これからもミリィにユミナと呼んで欲しいし、側に居て欲しいよ」
私の言葉で少しだけ力の抜けた指先をすくい上げ、唇をよせる。
「だっ・・・だって、ユミナ様が鞘飾りを預けるからって。
でも、会いにも来て下さらなくて。し・・・信じようと思っても不安で・・・」
ミリィは、目に大粒の涙を浮かべ、つっかえながらも説明してくれる。
そうか。私が思っている以上に、ミリィを不安にさせていたのか。
お互いに確かな言葉を言っていないことに、少しだけ甘えすぎたのかもしれない。
「ねぇミリィ。この鞘飾りに私の知らない意味があるのかな。
辺境とは違う風習がテイラー家にはあるとカミラ殿下は言っていたけれど。
私の知る意味は、戦士の安寧と無事を祈願するものだ。
でも、今の君の反応を見ているとそれだけではないきがするんだ」
私の言葉に、ぴくりと身を強ばらせ、顔を背けた気配を感じる。
顔を上げてみれば、少しだけ頬を染めたミリィがいた。
「教えてはくれないのだろうか」
と言えば、ミリィが目線だけこちらに向けてくる。目には涙をためたままだ。
それを絡め取れば、またさっとそらされる。先程よりも、頬の色が濃くなった気がする。
「知ってどうしますの」
そう、彼女は問うてくる。
何というか、ぐっとくる表情だな。
恥じらいと戸惑い。そこに、好意が透けて見える。
我ながら、いい性格をしていると思う。
「そうだな。どうするのかと聞かれれば返答に困ってしまうね」
私の答えに、ミリィは目を閉じる。その拍子に、ためられていた涙が頬を伝う。
手を伸ばし、涙を拭う。
「その鞘飾りは、父の形見ですの。私がお父様から頂いたものです。ひ・・・ヒントはそれだけです。あとは、ご自身でお調べになってくださいまし」
ミリィは、それだけ言うと口を閉ざしている。言うことは言ったということだろうか。
父親の形見。父から娘への贈り物?
そこまで考えて、何かを思いだしかける。
昔爺様から聞いた事があるような?確か廃れた風習だとか言っていたような・・・
ーーー母親から息子に贈る鞘飾りはの、息子の安全を祈願する意味がある。
息子に鞘飾りを贈るものが現れるまでは、母親の鞘飾りが守ってくれる。
そんなことを言っていた気がする。父親から娘に贈られる事にも意味があるのだろうか。
「もう今はいないけれど、爺様から母親から息子へ鞘飾りを贈られるのは、息子の安全を祈願する意味もあるとにいた事がある。
息子に鞘狩りを贈る人が現れるまでは、母親の鞘飾りが守ってくれると言っていた。
もしかして、父親から娘に贈られる事もあるものなのだろうか」
問いかければ、少し驚いた顔でこちらを振り返ってきた。
こうしてたまにミリィは、表情を見せてくれる。彼女は無意識の様だけれど。
その表情に見とれていれば、涙を拭うために離した方のてを口元へと持って行き、人差し指を自分の唇へと当てる。
「秘密です」
その表情は、先程よりもずっと綺麗で、柔らかいものだった。
私はそれに見とれ、ミリィに手を離されたことも気付かなかった。
気付いた時には、ミリィが私の鞘に鞘飾りをつけ終えた所だった。
「でも、意味を知っても持っていてくれると嬉しいです」
そう、言いながら小さく微笑んでいるミリィがいた。
些細な変化だろうが、確かに口角が上がり僅かに目尻が下がっている。
私は思わず、唇を奪いそうになり、慌てて軌道を変える。
唇にほど近い頬へと口づければ、赤く染まるミリィが目に入る。
その頬に軽く振れ、立ち上がると直ぐ側へと腰掛ける。
「で、ミリィはなんで登城してきたの?
このためだけではないんだろう」
そう問えば、ミリィはヘーゼルとマルクスへと視線を向けている。何かあるのか?
「え・・・ええ。ユミナ様が王弟殿下方と第二王子殿下の事を話されるとお聞きして・・・」
少しだけ、慌てたように話し出す。
そんなに慌てなくとも。と、思いながら話を聞いていく。
「私の異能も含めてお話しした方が良さそうですし、それなら私が直接離した方が良さそうですので」
彼女の話は、強ち間違ってはいない。でも、存在を偽ってまでする話ではないようにも思う。
「わからなくもない話だけれど、存在を偽る必要性をあまり感じないのだが」
そう問えば、マルクスが口を挟んでくる。
「お嬢。諦めろ。話しておいた方がいい」
なんだ?マルクスへと視線を向ければ、肩をすぼめられる。
ならばとミリィへと視線を向ければ、小さくなっている彼女がいた。
「どうしたの?話せない何かなの?」
そう問えば、下を向いたまま小さな声で返答がある。
「いえ。そういうものではないんですの。ただ・・・」
そこで、とまる。続きを促せば、どう言えばいいかを迷うそぶりを見せる。
「えっとですね、私知ってるんですの」
やっとのことで、ミリィはそれだけを口にする。
何を知っているのか、分からないが、続きを待つことにする。
「私は、知ってますの。お爺さまやクルツ、ユミナ様が私のために汚名返上して下さろうとしていることを。
今、私がどのような立場になっているかと言うことも。
だから、私がそれを潰してはダメなのだと思うのです」
頭を抱えてしまった私を許して欲しい。
少し考えればわかったはずだ。情報の収集能力は彼女の方が得意分野だ。
私が知るよしもない情報も知っている。
と言うことはだ、彼女自身がなんと言われているかも、彼女がどのような立場に立たされているのかも、知っていたとしても不思議ではない。
テイラー侯爵とミリィへ話さないと決めたときに、クルツが微妙な顔をしていたわけがわかった。
あの時、一番冷静な思考をしていたのが彼であり、彼はこの可能性に気付いていたと言うことだろう。
「・・・ごめんなさい」
思考の淵へと沈みかけていたところに、小さな謝罪が耳に入る。
ミリィはまだうつむき、指先はローブを握り混んでいるのが目に入る。
ああ、私はだめだな。彼女が悪いわけではないのに
ローブを握る指先へと手を伸ばし、優しくほどく。
そして、彼女の指先と私の指先を絡め握り混む。
「謝る必要はないよ。少し考えれば、気づけたことだし。
ミリィは、テイラー侯爵や私の思いをくみ取ってくれたから、存在を偽ったんだね。
確かに反撃の糸口を掴みかねてる今は、ここに君はいない方がいい」
そこまで言って、私は侍女へと顔を向ける。
「たしか、君は・・・メルだったかな?」
侍女は奇麗にお辞儀をし、肯定の言葉を返してきた。
護衛が侍女なのか侍女が護衛なのかはわかりかねるが、王宮にもこれほど綺麗なお辞儀を出来る者は少ないだろう。
「すまないけれど、カミラ殿下に一人客が増えることと君達が増えることを伝えてきてもらえるかな」
「かしこまりました」
侍女は言葉少なにそう言うと部屋をあとにした。
流石テイラー家と言ったら良いのかは分からないが、王族の前に出しても恥ずかしくない教育を受けているようだ。
「さてと。ひとつ気になっているのだけれど、メビウスなんでいるの」
「あ。認識されたんだ。てっきり無視を決め込むのかと思ってたよ」
メビウスが軽い調子で返してくる。
いや、無視しておいて良いなら、無視を決め込むのだが・・・
「あの。ごめんなさい。私が同行を許可しましたの。
彼の腕は確かですし、頭はいいので」
確かにその通りなのだが、若干含みを感じる。
「頭はって・・・ひどくない?」
ああ、本人にも伝わってるな。
ミリィにしては、珍しい物言いなきもするが、信用していると言うことか?
自分を攫った者の1人だろうに。
「このままだと君の話も聞かれると思うけどいいのか?」
そう問えば頷き返される。
「別に隠しておくほどのものでもないですし、これからも私の護衛につくのであれば、知っておいた方が良いかと思いまして」
確かに一理ある。護衛として、護衛対象の情報は知っておいた方がいい。
身体能力や思考のクセ。交友関係等、知っておけばいざという時の行動が把握しやすいため、守りやすい。
それは、わかるが心がじゃっかん不満を訴えているのを感じる。
私の留守中も護衛についていたのは、知っているが・・・
なんだか、面白くないな・・・
少しだけ不満を感じていれば、僅かに握り替えされるのを感じる。
私は気を紛らわせるため、彼女の感触を確かめるように指先を動かす。
彼女の身が少しはねた気がするが、気にすることなく堪能する。
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王太子の恋愛ストーリー
☆ストーリーに必要な部分で、残酷に感じる方もいるかと思います。ご注意下さい。
☆毒草名は作者が勝手につけたものです。
表紙 Bee様に描いていただきました
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