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ちょっとだけ会話
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屋敷の人達に私の紹介がされることはなかった。
やはり歓迎はされていないんだろう。一部、私と関わることになる使用人とだけ、秘密裏に挨拶が行われる程度。
私は隠されるように離れの一室を与えられ、基本的にそこから出ないようスタンレー伯爵領の当主に厳命された。
「レイチェル様。朝食の準備が整いました」
「ありがとう」
用意された朝食を部屋で黙々と食べる。相変わらず味はしない。今の私にとって食事は楽しむものではなく、ただ生きるため腹にモノを詰め込む作業だった。
「はぁ」
さて何をしようか。ここは一人、ゆっくりと時間が過ぎていく。本を読もうが、ぼーっとしていようが、誰に見咎められることもない。
昔の忙しさは鬱陶しいと思っていたけど、これだけ暇を持て余すのも大変だな。
気が付けば既に読み終えた本を手に取っていた。それは年若い女性が男に騙され、人生を転げ落ちていく様を描いた一冊なのだが、どうにも私と境遇を重ねてしまって何度も目を通したくなるのだ。
そうして今日も無駄に一日を過ごそうとした時、
コンコン、と。優しく扉がノックされた。使用人が食事を下げに来たのだろう。私は返事もせずに扉を開ける。
「あ、おはようございます」
その先にいたのは見慣れた使用人ではなく、ゾッとするほどの美しさを持つ男の子だった。
肩まで伸ばした銀髪を涼しげに揺らすウィリアム。ここの当主の嫡男だと聞いた。
「おはようございます。あの、どういったご要件でしょうか?」
「ん? 特に要件はありませんよぉ。何となくお話したいなって」
「はあ」
「嫌でなければあがってもいいですか?」
「はい。というより私に拒否権はありませんので」
「やった」
ウィリアムはぽわぽわした笑顔で部屋に入って来た。男女二人で密室という殿下と婚約していた頃ではあり得ない状況に、ほんの少しだけ罪悪感を覚える。
そんな迷いを知ってか知らずか、ウィリアムはニコニコと私の近くに座ってきた。そして私が持つ本を指差して言う。
「それ僕も読んでます。キャラの心理描写が細かくて、なんかハラハラしちゃいますよね」
「そ、そうですかね。ていうか、男性の方もこういうの読まれるんですね」
(……そりゃ話し合わせるためにここにある本は全部読んだから)
「あんまり言わないんですけど、実はこういうやつ好きなんです。友達にはお前の趣味は女っぽいって言われちゃうんですけどね」
内緒ですよ、と口の前で人差し指を立てるウィリアム。その雰囲気が一瞬黒く見えたのは気の所為だろうか??
「レイチェルさんはなんかそういうのありませんか?あんまり人に言えないみたいな」
「え、いや、特には」
「あはは、冗談ですって。急にそんなこと聞かれても困りますよね」
そう言って黙り込むウィリアム。わたしたちの間で沈黙が流れる。けれどそれは決して気まずくはない。彼は室内を好奇心旺盛な目で見渡したり、本やインテリアなどに興味を示しては表情を輝かせるのだ。
その反応を見るのが、正直ほんの少しだけ退屈しのぎになる。
「あ、そろそろお父さんの手伝いがあるので行きますね」
「はぁ」
部屋に来て数十分。ウィリアムは突然来たときのように、突然部屋を去っていった。
やはり歓迎はされていないんだろう。一部、私と関わることになる使用人とだけ、秘密裏に挨拶が行われる程度。
私は隠されるように離れの一室を与えられ、基本的にそこから出ないようスタンレー伯爵領の当主に厳命された。
「レイチェル様。朝食の準備が整いました」
「ありがとう」
用意された朝食を部屋で黙々と食べる。相変わらず味はしない。今の私にとって食事は楽しむものではなく、ただ生きるため腹にモノを詰め込む作業だった。
「はぁ」
さて何をしようか。ここは一人、ゆっくりと時間が過ぎていく。本を読もうが、ぼーっとしていようが、誰に見咎められることもない。
昔の忙しさは鬱陶しいと思っていたけど、これだけ暇を持て余すのも大変だな。
気が付けば既に読み終えた本を手に取っていた。それは年若い女性が男に騙され、人生を転げ落ちていく様を描いた一冊なのだが、どうにも私と境遇を重ねてしまって何度も目を通したくなるのだ。
そうして今日も無駄に一日を過ごそうとした時、
コンコン、と。優しく扉がノックされた。使用人が食事を下げに来たのだろう。私は返事もせずに扉を開ける。
「あ、おはようございます」
その先にいたのは見慣れた使用人ではなく、ゾッとするほどの美しさを持つ男の子だった。
肩まで伸ばした銀髪を涼しげに揺らすウィリアム。ここの当主の嫡男だと聞いた。
「おはようございます。あの、どういったご要件でしょうか?」
「ん? 特に要件はありませんよぉ。何となくお話したいなって」
「はあ」
「嫌でなければあがってもいいですか?」
「はい。というより私に拒否権はありませんので」
「やった」
ウィリアムはぽわぽわした笑顔で部屋に入って来た。男女二人で密室という殿下と婚約していた頃ではあり得ない状況に、ほんの少しだけ罪悪感を覚える。
そんな迷いを知ってか知らずか、ウィリアムはニコニコと私の近くに座ってきた。そして私が持つ本を指差して言う。
「それ僕も読んでます。キャラの心理描写が細かくて、なんかハラハラしちゃいますよね」
「そ、そうですかね。ていうか、男性の方もこういうの読まれるんですね」
(……そりゃ話し合わせるためにここにある本は全部読んだから)
「あんまり言わないんですけど、実はこういうやつ好きなんです。友達にはお前の趣味は女っぽいって言われちゃうんですけどね」
内緒ですよ、と口の前で人差し指を立てるウィリアム。その雰囲気が一瞬黒く見えたのは気の所為だろうか??
「レイチェルさんはなんかそういうのありませんか?あんまり人に言えないみたいな」
「え、いや、特には」
「あはは、冗談ですって。急にそんなこと聞かれても困りますよね」
そう言って黙り込むウィリアム。わたしたちの間で沈黙が流れる。けれどそれは決して気まずくはない。彼は室内を好奇心旺盛な目で見渡したり、本やインテリアなどに興味を示しては表情を輝かせるのだ。
その反応を見るのが、正直ほんの少しだけ退屈しのぎになる。
「あ、そろそろお父さんの手伝いがあるので行きますね」
「はぁ」
部屋に来て数十分。ウィリアムは突然来たときのように、突然部屋を去っていった。
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