婚約破棄&追放されたあと、虎視眈々と私を狙っていたストーカー(サイコパスイケメン)に拾われました

陽日

文字の大きさ
3 / 4

ちょっとだけ会話

しおりを挟む
 屋敷の人達に私の紹介がされることはなかった。
 やはり歓迎はされていないんだろう。一部、私と関わることになる使用人とだけ、秘密裏に挨拶が行われる程度。

 私は隠されるように離れの一室を与えられ、基本的にそこから出ないようスタンレー伯爵領の当主に厳命された。

「レイチェル様。朝食の準備が整いました」

「ありがとう」

 用意された朝食を部屋で黙々と食べる。相変わらず味はしない。今の私にとって食事は楽しむものではなく、ただ生きるため腹にモノを詰め込む作業だった。

「はぁ」

 さて何をしようか。ここは一人、ゆっくりと時間が過ぎていく。本を読もうが、ぼーっとしていようが、誰に見咎められることもない。

 昔の忙しさは鬱陶しいと思っていたけど、これだけ暇を持て余すのも大変だな。

 気が付けば既に読み終えた本を手に取っていた。それは年若い女性が男に騙され、人生を転げ落ちていく様を描いた一冊なのだが、どうにも私と境遇を重ねてしまって何度も目を通したくなるのだ。

 そうして今日も無駄に一日を過ごそうとした時、

 コンコン、と。優しく扉がノックされた。使用人が食事を下げに来たのだろう。私は返事もせずに扉を開ける。

「あ、おはようございます」

 その先にいたのは見慣れた使用人ではなく、ゾッとするほどの美しさを持つ男の子だった。

 肩まで伸ばした銀髪を涼しげに揺らすウィリアム。ここの当主の嫡男だと聞いた。

「おはようございます。あの、どういったご要件でしょうか?」

「ん? 特に要件はありませんよぉ。何となくお話したいなって」

「はあ」

「嫌でなければあがってもいいですか?」

「はい。というより私に拒否権はありませんので」

「やった」

 ウィリアムはぽわぽわした笑顔で部屋に入って来た。男女二人で密室という殿下と婚約していた頃ではあり得ない状況に、ほんの少しだけ罪悪感を覚える。

 そんな迷いを知ってか知らずか、ウィリアムはニコニコと私の近くに座ってきた。そして私が持つ本を指差して言う。

「それ僕も読んでます。キャラの心理描写が細かくて、なんかハラハラしちゃいますよね」

「そ、そうですかね。ていうか、男性の方もこういうの読まれるんですね」

(……そりゃ話し合わせるためにここにある本は全部読んだから) 

「あんまり言わないんですけど、実はこういうやつ好きなんです。友達にはお前の趣味は女っぽいって言われちゃうんですけどね」

 内緒ですよ、と口の前で人差し指を立てるウィリアム。その雰囲気が一瞬黒く見えたのは気の所為だろうか??

「レイチェルさんはなんかそういうのありませんか?あんまり人に言えないみたいな」

「え、いや、特には」

「あはは、冗談ですって。急にそんなこと聞かれても困りますよね」

 そう言って黙り込むウィリアム。わたしたちの間で沈黙が流れる。けれどそれは決して気まずくはない。彼は室内を好奇心旺盛な目で見渡したり、本やインテリアなどに興味を示しては表情を輝かせるのだ。

 その反応を見るのが、正直ほんの少しだけ退屈しのぎになる。

「あ、そろそろお父さんの手伝いがあるので行きますね」

「はぁ」

 部屋に来て数十分。ウィリアムは突然来たときのように、突然部屋を去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

処理中です...