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SCENE.1【抗憑依体質者、御手洗凛】
Capture.13『鬼喰い』
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お母さんに取り憑いていた死神を退治した後、私は霊力を使い過ぎてヘロヘロになって、意識を失った。しばらくして目が覚めると、小太郎さんがそばでいつも通り、能天気な笑顔を浮かべていた。
「まさかな、お前が鬼喰いとはな」
鬼喰い――憑依される事で逆に相手を取り込んでしまう能力を持つ者を、彼の時代にはそう呼んだそうだ。彼自身、実物を見るのは二度目らしく、当たり前の話だが喰われたのは初めてだという。
「都の陰陽師の中には、何人かいるって噂だがな」
「え? 陰陽師ってあの陰陽師、ですか? 安倍晴明とか?」
「誰だそりゃ?」
詳しく話を聞いたものの、時代背景などは分からなかった。何故なら小太郎さんは、山賊のような暮らしをしていたからだ。出入りしていた最寄りの集落の住人から、悪霊退治や陰陽師の話を聞いた事があったと話す。そこで、私は気付いた。
「あれ? 小太郎さん、記憶が戻ったんですか?」
「む? ああ、ところどころだがな」
どうやら、出会った時よりは記憶が戻っているようだ。病院を後にした私たちは、横浜の自宅へ向かっていた。お母さんには、手紙を置いて来た。きっと目覚めたら見てくれるだろう。
「一度目の鬼喰いは……思い出せねぇな」
駅に着く頃には、彼の昔話も一通り終わり、失った記憶に首を傾げている始末だった。かなり珍しい現象のはずなのに、不思議だ。
翌日、昼休み休憩に入った頃、目を覚ましたお母さんから電話があった。病院も驚いていると話し、明日には退院すると話した。これで一安心。そう思っていた。だけど、早番上がり、駅に向かう道中で、彼女は現れた。
「御手洗さん……あなたに取り憑いている呪霊……あたしが払うわ」
「え?」
突然だった。さくらちゃんはそう言って、私をひと気のない広場へ誘導する。
「前から気になってたんだけど、カースって?」
「それよ」
彼女の指先が示したのは、私の向こうにいる――
「え……」
小太郎さんだった。
「そいつ、悪い霊なの。このままだとあなたも高橋先輩のようになるわ」
「え? 小太郎さんがカースなの?」
「……あれが小太郎なのね。とにかく、あれは危険よ」
「小太郎さんは危険じゃないと思う」
そう説明する私を無視して、さくらちゃんは少し離れた場所に立つ小太郎さんの前に対峙した。そして、目を閉じた。すると、彼女の後ろに黒い靄が立ち昇った。それは大きな影となる。
「え……そ、それって死神?」
黒い影はギョロと瞳を開き、私を睨む。お母さんに取り憑いていた死神と同じように、私にゾワッとした悪寒が駆け抜けた。あの時よりももっと強い悪寒。そして、それが――
「さ、さくらちゃん?!」
彼女の体を全て取り込んだ。そして、目を開いたさくらちゃんが、右手の親指と人差し指を立て、右腕をぴんと水平に伸ばした。その瞬間、白い靄がその手の中心に上下に伸びる。その中心を左手が摘まんだ瞬間――
「ゆ、弓……」
弓矢を形どった白い靄が、小太郎さんを捉えていた。
「あたしの矢は外れない……消えなさい、呪霊っ!」
「ま、待ってっ!」
私の制止が空を舞う。放たれた矢がギュインという空気を裂く音を立てながら、小太郎さんの体を貫く。衝撃で辺りに土煙が巻き上がる。
「……やっぱり、危険ね」
さくらちゃんの顔が少しだけ歪んでいた。私は土煙の中へ小太郎さんを探して飛び込んだ。
「こ、小太郎さんっ! 無事ですかっ?!」
「凛……お前の体を貸せ」
「え?」
その瞬間、私の体に霊力が溢れた。土煙が晴れて、彼女の姿がはっきり見えた。
「霊力が、上がってる? 御手洗さん、あなた、まさか……」
霊力の弓を、再び構えた彼女は、とても悲しそうな顔をしていたのだった。
「まさかな、お前が鬼喰いとはな」
鬼喰い――憑依される事で逆に相手を取り込んでしまう能力を持つ者を、彼の時代にはそう呼んだそうだ。彼自身、実物を見るのは二度目らしく、当たり前の話だが喰われたのは初めてだという。
「都の陰陽師の中には、何人かいるって噂だがな」
「え? 陰陽師ってあの陰陽師、ですか? 安倍晴明とか?」
「誰だそりゃ?」
詳しく話を聞いたものの、時代背景などは分からなかった。何故なら小太郎さんは、山賊のような暮らしをしていたからだ。出入りしていた最寄りの集落の住人から、悪霊退治や陰陽師の話を聞いた事があったと話す。そこで、私は気付いた。
「あれ? 小太郎さん、記憶が戻ったんですか?」
「む? ああ、ところどころだがな」
どうやら、出会った時よりは記憶が戻っているようだ。病院を後にした私たちは、横浜の自宅へ向かっていた。お母さんには、手紙を置いて来た。きっと目覚めたら見てくれるだろう。
「一度目の鬼喰いは……思い出せねぇな」
駅に着く頃には、彼の昔話も一通り終わり、失った記憶に首を傾げている始末だった。かなり珍しい現象のはずなのに、不思議だ。
翌日、昼休み休憩に入った頃、目を覚ましたお母さんから電話があった。病院も驚いていると話し、明日には退院すると話した。これで一安心。そう思っていた。だけど、早番上がり、駅に向かう道中で、彼女は現れた。
「御手洗さん……あなたに取り憑いている呪霊……あたしが払うわ」
「え?」
突然だった。さくらちゃんはそう言って、私をひと気のない広場へ誘導する。
「前から気になってたんだけど、カースって?」
「それよ」
彼女の指先が示したのは、私の向こうにいる――
「え……」
小太郎さんだった。
「そいつ、悪い霊なの。このままだとあなたも高橋先輩のようになるわ」
「え? 小太郎さんがカースなの?」
「……あれが小太郎なのね。とにかく、あれは危険よ」
「小太郎さんは危険じゃないと思う」
そう説明する私を無視して、さくらちゃんは少し離れた場所に立つ小太郎さんの前に対峙した。そして、目を閉じた。すると、彼女の後ろに黒い靄が立ち昇った。それは大きな影となる。
「え……そ、それって死神?」
黒い影はギョロと瞳を開き、私を睨む。お母さんに取り憑いていた死神と同じように、私にゾワッとした悪寒が駆け抜けた。あの時よりももっと強い悪寒。そして、それが――
「さ、さくらちゃん?!」
彼女の体を全て取り込んだ。そして、目を開いたさくらちゃんが、右手の親指と人差し指を立て、右腕をぴんと水平に伸ばした。その瞬間、白い靄がその手の中心に上下に伸びる。その中心を左手が摘まんだ瞬間――
「ゆ、弓……」
弓矢を形どった白い靄が、小太郎さんを捉えていた。
「あたしの矢は外れない……消えなさい、呪霊っ!」
「ま、待ってっ!」
私の制止が空を舞う。放たれた矢がギュインという空気を裂く音を立てながら、小太郎さんの体を貫く。衝撃で辺りに土煙が巻き上がる。
「……やっぱり、危険ね」
さくらちゃんの顔が少しだけ歪んでいた。私は土煙の中へ小太郎さんを探して飛び込んだ。
「こ、小太郎さんっ! 無事ですかっ?!」
「凛……お前の体を貸せ」
「え?」
その瞬間、私の体に霊力が溢れた。土煙が晴れて、彼女の姿がはっきり見えた。
「霊力が、上がってる? 御手洗さん、あなた、まさか……」
霊力の弓を、再び構えた彼女は、とても悲しそうな顔をしていたのだった。
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