2 / 12
エロゲーヒロインですがサブキャラを好きになっちゃだめですか?
少女の告白
しおりを挟む──好きな人がいた。
相手は幼馴染みで、物心ついた時から一緒で、周りからは『夫婦』だなんだと言われていたから、なんとなく『そう』なるのだと思い込んでいた。
──彼と結ばれるのは、私だと。
でも現実は違った。
「好きです──」
夏の終わりの頃、校舎の裏で。彼が告白したのは私ではない──私とは似ても似つかない、別の人。その人を前にして、辿々しいながらも誠実な愛の告白を紡ぐ幼馴染みは、私の知らない顔をしていた。
瞬間、嫌でも理解した。私の恋は永遠に叶わないんだって。幼い頃からの夢は夢のまま、どこにも辿り着くことはないんだって。そう理解すると同時に、痛みが襲うのは頭と心。
それはある種のショック療法のようなものだったのだろう。
「そう、そういうことだったのね……」
「ど、どうしたんだよ……」
そう呟いた私を心配そうに窺うのはこの場に連れてきた張本人、好奇心旺盛なクラスメートであったけれど、あいにく私には彼に構っている余裕がない。
何せこの瞬間に思い出してしまったのだ。この世界がゲームの中であること、私ではない『私』もそのプレイヤーのひとりであったことを。
ここは美少女ゲーム──ようするに、女の子の好感度を高めてエンディングを目指すゲームの世界。この世界において私は攻略対象の一人であり、たったいま告白をしたばかりの少年こそがこの物語の主人公。彼のこの告白によってルートが確定し──私が彼と結ばれるのはバッドエンドのみとなったのだ。
それが悲しい……わけではない。選ばれなかった、というのはつくづく癪であるし、腹立たしいし、悔しいけれど。でもプレイヤーであった頃の自分を思い出した今の私に、幼馴染みへの恋心は残されていないからだ。
──だから私に慰めの言葉なんていらないのに。
「……俺が何言ったってなんの慰めにもならないだろうけどさ。けど自分を責めることはないし、お前に悪いところなんて一つもないと思うぜ。あいつが……あいつの見る目がなかっただけだ」
なのにクラスメートの男の子は。主人公の友人で、当て馬役で、そんな寂しい役割を押しつけられた人はそう言って、不格好に笑ってみせた。
私はその顔をまじまじと見つめて──よく見知っているはずの彼のことすら、初めて会う人のように思えることに気づいた。ただ前世の記憶を取り戻しただけなのに。今まで彼のことなんか幼馴染みの友達としか認識していなかったはずなのに。
なのにその優しさがいやに胸にしみて。
「……っ」
悲しくないのに涙が出た。
「なっ、泣くなよ……、お前に泣かれるとどうしたらいいかわからなくなる……。いや、ここは泣いた方がすっきりしていいのか……?」
「……別に、いいのよ、慰めてくれなくたって。私は平気だから、放っておいて」
「放っておけるわけないだろ。惚れた女の前ではカッコつけたいのが男心ってもんだ」
軽口を叩く彼は、──あぁ、そうだった。幼馴染みしか見ていなかった愚かな『私』を、それでも好きだと言ってくれて──なのに『私』はその尊い感情すら下らない冗談と片づけて──いつだって真正面から受け止めてはこなかった。
それがどれだけ不誠実なことだったか。どれだけ身勝手なことだったか。
その事実を悟ったと同時。
「好き、」
転がり出た言葉は、紛れもない本心だった。
何においても凡庸な『主人公』がある日拾った一冊のノート。それは隣の席の女の子が密かに書き溜めていた小説で、主人公は成り行きから彼女の夢を知ってしまう。奥手ゆえに様々な経験が不足している──リアリティのある小説が書けないと悩む彼女のため、主人公は友人や幼馴染み、先輩から後輩までを巻き込んで、学生らしい『キラキラした青春』の実現を目指す。
──というのがこのPCゲーム、『はるいろドリーマー!』のあらすじだ。いうまでもないが、この『主人公』が私の幼馴染みであり、校舎裏で彼に告白されていたのが小説家志望のメインヒロインである。そして私は幼馴染みに片想い中のツンデレヒロイン──だった。つい先程、前世の記憶を取り戻すまでは。
「は?え?いまなんて、」
「だから好きって言ったのよ。あなたが好き。たった今好きになったの、現金な話だけどね」
「まっ、まてまてまて落ち着けって、冷静になれ!」
「私は冷静よ、至極落ち着いているわ。あなたこそ動揺しすぎよ」
「いや落ち着いていられるわけないだろ……!」
呆然としていたかと思えば驚天動地、慌てふためき赤くなる彼は、一見チャラそうな外見をしているのに案外ウブで可愛らしい。ここはアダルトゲーム──エロゲーの世界なのに。そう考えるとおかしくて、でもそんな『普通』の彼が堪らなく尊いもののように思われて──キュンとした。
……私なんて共通ルートの序盤から主人公には着替えを覗かれるわ、転べばパンチラが常だわ、隙あらば胸は揉まれるわで、羞恥心がマイナスへ振り切れてしまっていたから。
ああでも、メインヒロインに告白したんだから個別ルートに入ったんだろうし、選ばれなかったヒロインの私が誰を好きになろうがもう関係ないわよね。ここから他のヒロインが介入する余地なんて、寝とり寝取られのバッドエンドくらいなものだし。
そう考えた私──『ツンデレ幼馴染み』役だった杜野ざくろは、『主人公の友人兼当て馬』役のクラスメート、空木恭介を壁際に追いつめた。簡潔に言うなら『壁ドン』の体勢である。
「なっ……!」
「信じられないなら何度だって言うわ。私はあなたが──空木くんが好き。今まで冷たくしてごめんなさい。でもわかったの。人間、やっぱり優しさが一番よね」
「いやいやいや、やっぱおかしいって!それはあの…、アレだ、フラれたばっかのとこに優しくされたからちょっと……みたいな!冷静になった後で後悔するって!」
「だから私は冷静だって言ってるじゃない」
彼、空木恭介は主に『私』のルートで活躍する当て馬だ。彼が『私』に告白したことで、主人公が『私』を意識するようになる──そんな可哀想な役。そのくせ顔立ちは悪くないのよね、と狼狽する顔を見つめながら私は思う。
ていうかこの手のゲームってだいたい主人公よりその友人の方が好みの顔立ちをしていた記憶がある。主人公はだいたい顔なしで、黒くて重たい前髪をしてて、……どうせならイケメンと美少女の恋愛が見たかった、と前世でも兄に押しつけられたゲームをやりながら思ったものだ。まぁ、一途ゲーだった『白昼夢の●写真』とか『恋で●なく』とかは私でも楽しめたけど。
つまり何が言いたいかっていうと──
「もちろん性格だけじゃないわ、見た目も好きよ。その明るく染めた髪もよく似合ってると思うし、身長だってアイツより高いじゃない?目は……色素が薄いのね、とってもきれい」
おとがいを持ち上げると、彼の喉がひゅうっと鳴った。
そういえばこれっていわゆる『顎クイ』ってやつかしら?もうちょっと距離をつめれば簡単にキスだってできそう。なんだかドキドキしてきた。やっぱり私、恋してるみたい。
「ね、このまま……だめ?」
返されるは沈黙。満たすのは互いの吐息のみ。彼の目には私だけが映っていて、それがすごく嬉しい。このまま永遠が続けばいいのにって、そう願ってしまうほど。
「なっ、何やってるんだよ、二人とも……」
なのにそのささやかな幸せさえ、『主人公』に打ち砕かれてしまう。ゲームではこんなことなかったはず、だけど。
「あら、奇遇ね。見ての通りこちらはお取り込み中よ」
まったくもう。そっちはそっちでよろしくやっててくれればいいのに。たった一度の告白イベントで第三者が介入してくるなんて、元がゲームの癖にこの世界ときたら融通がきかないんだから。
ポカンとした顔の主人公と、その後ろで赤面するメインヒロイン。二人を前に私は「用があるなら後でお願い」と制止をかけたのだけど、我に返った空木くんに押しのけられてしまった。
「なっ、なんでもねーよ!気にすんなって!」
いや押しのけられたといっても、優しく肩を押されただけなんだけど。それにそれに触れた瞬間気遣わしげな目を向けられたし、今だって庇うように前に立ってくれてるし、手を──手を伸ばせば、握り返してくれる、し、
「──好き!」
「うおっ」
思わず背後から抱き着いてしまう。主人公が『信じられない』とばかりに目を見開いているけど、そこまで気が回らない。説明なんて後回し。
だって私、恋に落ちてしまったんだもの!
「たとえいま、あなたに答えてもらえなくてもいい!今度は私があなたに好きになってもらえるよう頑張るわ!」
「わかった、わかったから離れて……!」
「あら、積極的なのはお嫌い?それなら気をつけるわ」
「きら……じゃねぇけど!そ、そういうのはまだ早いっていうか刺激が強すぎるっていうか……っ」
そう言う空木くんを、私はさらに強く抱き締める。
嫌いじゃないって、言質は取ったもの。好きな人とはできるだけくっついていたいものじゃない?だから顔を赤くする彼には悪いけど、簡単に離してあげられそうにない。
私は『私』じゃないんだから、私らしいやり方で恋をする。この日、目を覚ました私は晴れ渡る空に決意した。
1
あなたにおすすめの小説
貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。
ななよ廻る
恋愛
貴族のみに門戸を開かれた王国きっての学園は、貧乏貴族の俺にとって居心地のいい場所ではなかった。
令息令嬢の社交場。
顔と身分のいい結婚相手を見つけるための場所というのが暗黙の了解とされており、勉強をしに来た俺は肩身が狭い。
それでも通い続けているのは、端的に言えば金のためだ。
王国一の学園卒業という箔を付けて、よりよい仕事に就く。
家族を支えるため、強いては妹に望まない結婚をさせないため、俺には嫌でも学園に通う理由があった。
ただ、どれだけ強い決意があっても、時には1人になりたくなる。
静かな場所を求めて広大な学園の敷地を歩いていたら、薔薇の庭園に辿り着く。
そこで銀髪碧眼の美しい令嬢と出会い、予想もしなかった提案をされる。
「それなら、私と“偽装婚約”をしないかい?」
互いの利益のため偽装婚約を受け入れたが、彼女が学園唯一の公爵令嬢であるユーリアナ・アルローズと知ったのは後になってからだ。
しかも、ユーリアナは偽装婚約という関係を思いの外楽しみ始めて――
「ふふ、君は私の旦那様なのだから、もっと甘えてもいいんだよ?」
偽装婚約、だよな……?
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』『アルファポリス』に掲載しております※
※ななよ廻る文庫(個人電子書籍出版)にて第1巻発売中!※
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。
――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。
「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」
破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。
重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!?
騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。
これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、
推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる