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エロゲーヒロインですがサブキャラを好きになっちゃだめですか?
少年の思い
しおりを挟む──杜野ざくろは、幼馴染みに恋をしている。
それが周辺の共通認識であり、──中学時代彼女に惚れた俺、空木恭介もまた理解していることだった。……本当に、嫌になるほど。
「おはよう、空木くん」
「あっ、あぁ、おはよう、杜野」
「ふふっ、寝癖が残ってるわよ。可愛い。そういうちょっと抜けてるところも好き
──なのにこれはどうしたことだろう?
諦めざるをえない。そう思ってしまうほど幼馴染みを好いていたはずの彼女が、俺を『好きだ』と言い始めた翌日。朝っぱらから眩しい笑顔を向けられ、俺は思わず胸を押さえた。
あの杜野が。いつもなら挨拶してそれで終わりの彼女が。幼馴染みと登校してくるはずの彼女が。教室に入った途端、たった一人で俺のところまで来て、その上また『好き』だなんて言ってくれて。
……都合のいい夢を見ているんじゃないだろうか。
「ねぇ空木くん、今日のお昼休みは空いてる?一緒にお昼ご飯食べたいなって思ったんだけど……ダメかしら」
「や、ぜんぜんっ!?もちのろんでオッケーだけど!」
「ほんと?よかった」
ホッとした様子で表情を緩める彼女。
……こんな顔、見たことない。気が強くて、今までは俺に対して怒ってばかりいた気がするのに。まるで人が変わったみたいだ。クラスメートも『何事だ』と遠巻きにしているのが見える。『いったい何があった』なんて、俺が聞きたいよ。
「じゃあまた後で。楽しみにしてるから」
けれど実にあっさりした様子で彼女は手を振って、自分の席に戻っていく。取り残された俺は期待を裏切られたような、そんな気分。……って、いやいやいや、何を期待していたんだか。
早速友人たちに取り囲まれる杜野の横顔を遠く眺めて、俺は溜め息をつく。
「俺だって好きだけどさぁ……」
でも彼女は幼馴染みにフラれたばかりだ。弱っているところに俺が漬け込む格好になっただけで、今の彼女が『恋』だと錯覚しているのだって、きっと時間が経てば冷めるもの。その時に傷つくのは俺じゃない。……彼女だ。彼女の泣き顔はもう見たくない。
だから杜野がどんなに『好きだ』と言ってくれたとしても、答えるわけにはいかないんだ。
そうわかっているはずなのに、俺の弱い心は早速折れそうになっていた。
授業中にふと目が合った瞬間、笑みかけられる。ただそれだけのことで途方もない幸福感を覚えてしまって、『好きだ』と叫びたくなった。……俺は弱い男だ。
「どうしたの、溜め息なんかついて」
「いや、なんでも……」
「そう?悩みがあるならいつでも相談してね」
悩みの元はツインテールを揺らして優しく笑いかけてくれる。憎らしいやらいとおしいやらで俺の心はぐちゃぐちゃだ。
「それより昼メシ、どこで食べる?」
「ここは定番の屋上…って言いたいところだけど、あいにく鍵がかかってるのよね。中庭でいいかしら?」
俺は「もちろん」と頷いて、席を立つ。杜野の提案だ、俺に断るなんて選択肢は最初からない。
……とは思ったものの、実際中庭に出てみるとそこはもう恋人たちのパラダイス。すっかり失念していたが、そういえばここはそういう場所だった。
……杜野は知っていたのだろうか?
「だ、大丈夫よ!私たちにだって使用する権利はあるはず、気にすることないわ!」
どうやら知らなかったらしい。動揺してる。かわいい。
俺は「そうだよな!」と無駄に明るく言って、ベンチに座った。
周りからは俺たちも恋人同士に見えてるんだろうか。だとしたら嬉しい……そう思ってしまうことくらいは許してほしい。
「空木くんはパンだけ?」
「ん?あぁ、今朝は母さ…、お袋が仕事で。そういう日はコンビニか学食が基本だな。俺が弁当作れたらいいんだけど、」
男としては恥ずかしい理由を打ち明け、『失望されたんじゃないか』と恐る恐る杜野の様子を窺う。
「そう、なんだ」
が、彼女は気にした風もなく。というか気もそぞろといった感じで視線をさ迷わせ、指先を弄ぶ。
「あの、空木くんさえよかったらなんだけど、」
「うん?」
「……私があなたのお弁当を作ってきたいって言ったら、迷惑?」
そう言って、目を伏せた杜野の手元。広げられた弁当箱には定番のおかずたちが行儀よく並んでいて、
「って、ダメだろ!……あぁいや、迷惑とかそういうんじゃなくて、」
「じゃなくて?」
「費用とか、それに杜野の負担になりたくないし!」
「別に一人分増えたくらい……」
反論しかけた彼女だったが、「でも、」と思い直す。
「そうね、負担になりたくないっていうのはわかるわ。私も空木くんに『申し訳ない』って思われるのは嫌だもの」
「そ、そっか」
「じゃあその代わり。……時々、味見してくれる?」
それも迷惑かしら、と。揺れる瞳は頼りなげで、……そんな顔をされたら、とても断れなかった。
「……それくらいなら。でもいいのか?自分の分が減るのに」
「私から言い出したんだからいいに決まってるじゃない」
パッと顔を輝かせて、それから杜野は目を細めた。
「それにしても……ふふっ、費用だなんて『当たり前』のこと言われるとは思わなかったわ。あなたって律儀な人なのね、アイツならあっさり受け取りそうなものを……」
アイツ、とは。すなわち彼女の幼馴染みであり、俺の友人でもある男を指すのだろう。バカでもわかる答えだ。
でもわかりたくなかった。今も彼は杜野の心に住み着いているんだなんて、そんなの知りたくなかった。思い知らされたくなかったのに、
「それじゃあ……はい、どれでもおひとつどうぞ」
差し出された弁当箱と新品の割り箸。なんと用意のいいことか。ちょっと残念……だなんて、そんなまさか。『あーん』とか、そんなものは望んでいない。断じて。……嘘だ、ちょっとだけ期待していた。
しかしどれでも……と言われると迷ってしまうのは人類共通のものだと思うのだが、違うのだろうか。譲ってもらっても差し障りのないものを、と考えるが、かといってもしもそれが彼女の好物だったらと思えば箸はなかなか定まらない。
思えば、俺は彼女の好きなものすら知らないのだ。
「……イタダキマス」
「はい、召し上がれ」
悩んだ末に手をつけたのはきんぴらごぼう。別に好きでも嫌いでもないけど、……うん、美味しい。
「そういえば私、あなたの好物すら知らないのよね」
「だから教えてほしい」、そう続ける彼女には、俺の心を読み取る才能まであるらしい。俺の思ったこと、言いたかったこと、……なのに口にする勇気が出なかったセリフを、容易くその唇に乗せて。
「空木くんの好きなもの、嫌いなもの。……色んなことを、これからは教えてほしいな」
微笑む彼女に、俺の胸は痛む。
「……どうしてそんなに尽くしてくれるんだ?俺は杜野の気持ちに何も応えられていないのに」
ひどいことをしてると思う。散々『好きだ』と言ってきたくせに、いざ彼女に同じ言葉を向けられると『それは勘違いだ』と断じる俺。杜野からすれば身勝手極まりない振る舞いに映るだろう。
『どうして』と問うたこの言葉すら罪悪感から。堪えきれず口にして、また後悔して。
聞くべきじゃなかったと思いかけたその時、
「バカね」
そう呟いた彼女に、額を小突かれた。
「それはこっちのセリフ。今まで散々無視してきたのは私の方だもの。今度は私が追いかける番。……だから気にしないで」
あっさり言いのける彼女はぐだぐだ悩んでいる俺なんかよりよっぽどカッコいいと思う。
……反対に俺はといえば。
俺がずっと『好きだ』と言い続けてきたのは振り向いてほしいと思っていたからじゃない。冗談でもそう言っていれば、彼女との関わりを作ることができたからだ。諦めきれず、さりとて叶わない夢を追いかけ続けることもできず。宙ぶらりんのまま、現状を維持することだけを考えていた。
……自分が恥ずかしい。昔も、今も。
「俺はダメなやつだ……」
「ダメでもいいじゃない。ライバルが減るなら私としてはラッキーだし、お世話するのもあなたが相手なら嫌じゃないわ」
それは男としてどうなんだ?大した矜持は持ち合わせちゃいないけど、……いや、やっぱりダメだろう。
もしも彼女の気持ちが勘違いじゃなかったとして。そんな都合のいいことが本当に現実になったとして。……そのとき俺は自信を持って彼女の隣に立てるのだろうか?
そのために俺はどうすればいいのか。──今はまだ、見当もつかなかった。
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