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エロゲーヒロインですがサブキャラを好きになっちゃだめですか?
少女と世界
しおりを挟む鏡に映る『私』の姿。赤茶色のツインテールに、つり目がちな目。細い手足と対照的に豊満な胸。『男にとって都合のいい体つきね』と他人事のように思ってしまう私には、これが新しい私なのだという実感は薄い。
客観的に見て美人なのはまぁ、嬉しいけど。
「なんでよりによってエロゲなのよ。転生者が女なら普通、乙女ゲームに飛ばされるべきじゃない?」
この世界の神様はよっぽどポンコツなのか、それとも転生ものによくある『手違い』の類いか。
しかし独り言に答える声はなく、学園もののエロゲー世界にファンタジー要素が入り込む隙はない。今日も今日とて代わり映えのしない学校生活を送るしかないのだ。まったく、恋のひとつでもしてなきゃ刺激がなさすぎてやってられない。
「ま、『にくにく』とか『魔耗』とか、その辺のハードなエロゲじゃないだけ感謝しないとね」
鏡の前で身だしなみを整えて、私はひとつ頷く。
エロゲといえどそのジャンルは多岐に渡る。このゲームのように平和な学園ものもあれば、先述した『死に●く君』や『魔法●女消耗戦線』、古くは『ゴア・スク●ーミング・ショウ』や『猟●の檻』など女の子を痛めつけるシーンに力を注いでいる作品も数多く存在していた。だから退屈な学生生活を送れるだけでも喜ぶべきところだろう。
──何より私はいま、健全な『恋』をしてるんだし!
「でもやっぱり屋上でのいちゃラブシーンは外せないわよね。なんとかして合鍵を手に入れなくちゃ」
靴を履きながら、私は思案する。屋上は聖地だ、聖域だ。『天●のいない十二月』や『素晴ら●き日々』で性癖を歪められた私としては外せないところ。
このゲームで屋上といえば『品行方正に見えて裏の顔のある生徒会長ヒロイン』のものだけど。でも彼女には部活でよくしてもらっているし、頼めば合鍵を貸してくれそうな気がする。
……うん、そうと決まれば今日早速聞いてみよう。
決意を固めてドアを開けた私は、けれど青空の下、別の意味で固まった。
「あっ、おはよう、ざくろ」
「……おはよう」
門の前、待ち構えていたのは片想いの彼、……ではなく、お隣さんの幼馴染み。先日メインヒロインと結ばれたはずの彼である。
「なんでアンタが、」
「今まではざくろが迎えに来てくれてただろ?だから今日は、と思って」
「いや、答えになってないし」
こいつ、彼女がいるくせに他の女と登校するつもり?女の敵ね、最低最悪。へらへら笑っているのも腹立たしい。常識ってものが欠けてるんじゃないの?
……なんて。喉元まで出かかったセリフを飲み込んで、私は「『彼女』に悪いでしょ」と懇切丁寧に教えてやることにした。これもひとつの善行だ。
「付き合ってる女の子がいるんだから、いくら幼馴染みだからってこういうことはしないの」
「でも、」
「『でも』も『だって』もないから。そういうのはちゃんとしとかないと。私、必要のない敵は作りたくないの」
「……ざくろがそこまで言うなら」
不承不承、というか『よくわかってない』風な幼馴染みに頭が痛くなってくる。
いやいやいや、なんなの?これって今後も私が面倒見なくちゃいけないの?この歳にして介護が必要って?そんなのごめんだわ。
「じゃあ私、先行くから。学校でも今までみたいに話しかけてこないでね。勘違いされたくないし」
それに下手を打って変なルートに──別名『3Pルート』に入られたら困る。非常に困る。
だから努めて厳しい声を作って、私は幼馴染みを突き放す。しゅんとした顔に良心が痛んだけど、でも、仕方のないことだ。
メインヒロインのルートで幼馴染みに──『杜野ざくろ』にうつつを抜かすと、トゥルーエンドを外れ、二股をかけることになる。純愛エロゲのくせに、だ。
三角関係を描くなら『ホワルバ』くらい丁寧にやってほしい。……というのが、1プレイヤーとしての感想である。
ともかく、リアルで二股なんて倫理的に許しがたい。
なのでどうか恨まないでほしい。そう思いながら、私は幼馴染みの返事を待たず歩き出した。
休み時間。件の生徒会長に合鍵の件を聞くと、快く貸し出してくれた。……ただし、『借りは返してもらうから』と言われたが。『冗談よ』と付け足す彼女の笑顔には、思わず背筋を冷やされた。
……無理難題を吹っ掛けられなければいいけれど、と後悔したところで時すでに遅し。……うん、気持ちを切り替えよう。
「いつから杜野と付き合い始めたんだよ」
教室に入ろうとしたところ、聞こえた声に慌てて身を隠す。
そろり、様子を窺ってみれば、空木くんが二人の男子に挟まれているのが見える。二人ともゲーム中では立ち絵のひとつもなかったし、そもそも私とも空木くんとも親しくない、顔見知りなだけのクラスメートだ。
──そんな彼らがどうして?
「杜野ってさ、幼馴染みに惚れてたんじゃないの?なのに急に……ああなったじゃん?」
「そうそう。それでどうやって落としたのか、オレら気になって」
「あー……」
空木くんが困ったような声を洩らす。彼らは件の幼馴染みが他に彼女を作ったことをまだ知らないらしい。だから優しい空木くんは『話してもいいものか』と悩んでいるようだ。
私としては別にどちらでも構わない。『フラれたから手近な人で妥協した』と言われたって、痛くも痒くもないから。それが名前しか知らないクラスメート相手ならなおさらだ。
「実は結構尻軽だったり?ならオレにもチャンスないかなーって」
「なぁ?ほら、杜野って性格はキツいけど顔と体はいいわけだしさ」
「実際空木に乗り換えたわけだろ?」
下世話な会話だなぁ、と思う。エロゲ特有って感じ。それとも普通の高校生ってこんなものなんだろうか。……だったらいやだなぁ。他人にどう思われようが関係ないと思ってたけど、なんだかすごくムカムカする。同じ人類だと思いたくない。
私が眉を潜めている間にも話は進む。まったく、『貸し出す』だの何だの、そういうのは抜きゲーだけでやってなさいよ。あぁもう、休み時間が終わっちゃうじゃない。
「──そういうの、やめてくれ」
仕方ない。私自ら出向いて天誅を下してやろう。そう決めて、足を踏み出しかけた時、──それまで沈黙を守っていた空木くんが口を開いた。
「杜野のこと、……俺が勝手に付きまとってるだけだから、下品な想像はやめてほしい」
「なんだよ、冗談だって」
「冗談でも俺が嫌なんだよ」
「ノリわりぃなぁ」
そうよね、普通そういう反応になるわよね。
話題が何であれ、場の空気にそぐわない返答をすればだいたい『ノリが悪い』の一言で切り捨てられる。そういうのは前世もこのゲームの世界でも変わらない。
だから人付き合いなんて最小限でいいと思ってた。昔は嫌なことから逃げ出して、引き込もって。今は『私』が裏も表も知っているゲームの登場人物とばかり関わって。……傷つかないで済むようにしていた。
──でも、彼は。
「……っ、好き!」
「うわっ、…って、杜野!?まさか今の聞いて、」
「うん、だから好き。私は空木くんが好き、……それをちゃんと教えてやりたかったから」
前半は空木くんに向けて。後半は下らない想像しかできないクラスメートに向けて。睨めつけると、彼らは「冗談だって言ったろ」と言い捨ててそそくさと立ち去っていった。
その姿の情けないこと。結局口だけか。それも影でこそこそ言うだけの、度胸の欠片もないやつ。ここで女を口説くくらいできなくちゃ抜きゲーの竿役だってできないわよ、と私は呆れる。空木くんに抱きついた格好のままで。
「……ごめん、嫌な話聞かせちゃって」
「あなたが謝ることじゃないわ。端から見れば私が尻軽なのは事実だし」
「こら、女の子がそういう単語を使うんじゃありません」
コツンと額を小突かれて、きゅんとする。
「わかった、もう言わない」純情キャラってわけでもないけど、それを望んでくれるなら応えたい。だって私は恋をしているから。私のために怒ってくれる彼のことが好きだから。
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