エロゲーヒロインだけど【主人公の友人】を攻略したい!

クリーム

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エロゲーですがハルウリはご法度です

逃避行も萌えのうち

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 もうダメだ、と思った。
 でもそんなのは過去の話。恭介くんが来た。来てくれた。そして彼の後からは裏切ったはずの柳村さんまで。二人は野球バットと鉄パイプを持って、男たちに襲いかかった。
 だから私も諦めない。諦めないし、恭介くん以外の男に触れられるのを許しはしない。

「……っ」

 蹴り上げた足が捉えたのは男の顎。でも女の体じゃそこまでの威力はない。すぐに反撃されるだろう。遠慮は無用。躊躇ったらそれ即ち死。敗北が確定する。
 そうわかっていたから間髪入れずに頭部を殴打した。
 もちろん拳で、ではない。これまた都合のいいことに手の届くところにコンクリ片が転がっていた。それを大きく振りかぶって──殴りつける。

「てめっ……」

 殴る。殴る。殴り続ける。私の太股を触っていた男、私の腕を押さえつけていた男、私の胸を揉んでいた男、汚らわしい汚らわしい汚らわしい男たち。
 コンクリと骨のぶつかる嫌な音がして、皮膚の裂ける感覚があった。男はあちこちから血を流している。すっごく痛いんだろうなぁ。私も殴りすぎて痛い。髪は引っ張られるし、突き指はするし、もう最悪。
 私と恭介くんの幸せを邪魔するやつらなんて、みんなみんな死んじゃえばいいのに。

「『身の程を知るのね、豚』……っ!」

 口をついて出たのは大好きなゲームの、とあるキャラクターのセリフ。憧れの女性、永遠の『姉様』の言葉をなぞって、私は肩で息をする。
 辺りは死屍累々。意外と呆気ない。不意をつかれた男たちは足元さえ覚束ない様子。けれどその中のひとりが携帯を手にしていた。
 表示されていたのは通話画面。──仲間を呼んだんだ。

「……二人とも、今のうちに逃げて」

 柳村さんはまだ意識のある男の後頭部を蹴り飛ばしながら言う。私のことはちらりとも見ずに。淡々とした調子で、今日の天気でも話すみたいに言った。

「でも、」

 そんな、置いていくわけにはいかない。だってそうしたら柳村さんはどうなるの?私は転がる男たちを見下ろす。
 これは奇襲が上手くいったからだ。男たちの油断が招いた結果。でも敵意を持つものがいると事前に知っていたなら?……柳村さん一人では到底敵いっこない。
 最悪の想像をして、私の拳はじくじくと痛んだ。それは男たちに触れられた時よりずっと厭な感覚だった。

「……行こう、ざくろ」

 待って、というより早く恭介くんに手を引かれる。

「……さようなら」

 もう二度と、こんなところには来ちゃだめだよ。
 傍らを通り抜ける寸前、柳村さんが囁く。いつかと同じ言葉を。いつかと同じ、寂しげな匂いのする微笑と共に。囁いた優しいひとを取り残して、私たちは廃工場をあとにした。
 私たちは走った。走って、走り続けて、気づけばどこかの路地裏にまで入り込んでいた。日は傾き、伸びる影の色も濃い。私の足はがくがくと震えていた。

「……大丈夫か?」

 恭介くんが私の肩を抱き寄せる。「ごめん、大丈夫なはずないよな」そう呟いて、唇を噛む。まるで後悔でもしてるみたいに。歪む顔を見て、私は不思議に思う。
 どうして、……なんで?恭介くんに悪いところなんてひとつもない。謝る必要なんてどこにもないのに、なのにどうして?

「ううん、私の方こそごめんなさい。迷惑、かけちゃった」

「迷惑だなんて」

「それに助けてくれてありがとう。私はもう大丈夫だから、だから離してくれていいよ。恭介くんが汚れちゃう」

 地面に転がされてた私は土埃やら何やらでお世辞にもきれいとはいえない有り様だろう。今更ながらそんなことを思い出して、羞恥の念が込み上げた。抱き締めてくれたのは嬉しいけど、今の私じゃあなたに相応しくない。
 だから距離を取ろうとしたのに。なのに彼の肩を押そうとした手を掴まれて、先程までより強く抱きすくめられた。

「汚れたっていい。ざくろと一緒なら、なんだって」

「恭介くん……」

 ──本当に?本当に、どんな私でも赦してくれる?男たちに触られた私も、男たちを殺したいと思った私も、どんな醜い私だって、赦してくれる?

「赦すよ、だってオレはざくろの彼氏だから」

 恭介くんの手が私の頭を撫でる。まるで繊細なものでも扱うみたいに、やさしく。男たちには乱暴に引っ張られた髪を、恭介くんはゆっくりと梳った。
 どくどくと鳴り響いていた心音も、それにつられて静まっていく。穏やかな温もり、手つき、匂い。おんなじ男なのに、ふしぎ。恭介くんの手はこんなにも安心できる。

「でもあの人たちは私を許さないわ。きっと恨みを買ってしまった。もしかしたら復讐されるかも」

「そしたら何度だって迎え撃つさ。けどそれも難しいっていうなら……」

「いうなら?」

「……二人で逃げようか。どこか遠く、誰も追ってこれないところまで」

 私は恭介くんを見上げた。恭介くんも私を見つめた。琥珀色の、澄んだ瞳の中に私が映っていた。
 そんな当たり前のことが嬉しくて、そんな当たり前が永遠であればいいのにと思った。永遠の中に私たちの二人だけを閉じ込めることができたら、どんなに幸せだろう。

「今までのすべてを捨てることになるわ、今までのすべてから追われることになるわ。それでもいいの?それでも私を選んでくれる?私だけをあなたのものにしてくれる?」

「もちろん。……お前だってそうだろ?」

「当然じゃない」

 だって私には他になんにもない。私が欲しいと思ったのは、そしてそれが叶えられたのは彼だけ。ゲームのキャラクターなどではない──私を私たらしめてくれるのは、彼への恋心だけなのだから。
 だから迷いはない。

「恭介くんとなら、私、死んでもいいわ」

「ああ、」

 私たちの距離が縮まる。引力に引き寄せられるみたいに、そうあることが当たり前であるかのように。私たちは無言のうちに諒解し、目を伏せた。
 そして、一瞬が永遠となる──

「……お取り込み中悪いのだけど、」

 その間際、こほんと咳払いがひとつ。静寂の支配する路地裏に響いて、私たちは慌てて距離を取った。
 通路の入り口に立っていたのは見慣れた制服姿の少女。可憐で麗しの生徒会長、柊沢かれんである。
 ──どうして彼女がここに?
 そんな私の疑問に、少女はけざやかなる笑顔を見せた。

「もう大丈夫よ、『彼ら』には私がたっぷりお灸を据えてあげたから」

 「だから安心して戻ってきなさい」と続けた彼女に、どうしてか寒気を覚えた。
 竿役のモブなんて屁でもない。この世界で一番強いのは彼女なのかも──そう思った瞬間だった。

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