エロゲーヒロインだけど【主人公の友人】を攻略したい!

クリーム

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エロゲーですがハルウリはご法度です

夜は終わりになりまして

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 あれから、三日が経った。
 復讐でもされるんじゃないかと危惧していたのだが、それも杞憂に終わったらしい。あの日以来、不良たちの姿さえ見ることがなくなった。

「だから言ったじゃない、『大丈夫』だって」

「……いったい彼らに何をしたんですか?」

「それは内緒。あなたでも教えられないわ」

 恭介くんと一緒に私を探してくれていたのだと言う柊沢先輩は蠱惑的な笑みを浮かべて、私の唇に人差し指を立てる。
 「あなたが無事でよかった」……これは、はぐらかされているのだろうか。
 気になるけど、本当はすっごくすっごく気になるけど!でも聞かない方が身のためだろう。言外に圧を感じて、私は問いの言葉を呑み込んだ。
 そういえばこの人、自ルートでは女王様キャラだったなぁ。彼女に鞭でしばかれる不良少年たちの姿を思い描いて、私は口元をひきつらせた。
 好奇心は猫をも殺す。公式で猫耳キャラだった私は、女王様の命に大人しく従うことにした。猫じゃ女王様には勝てないもの、ね。

「でも驚いたわ。すぐ助けが来るから待てと言ったのに、空木くんもあの人も全然言うこと聞かないんだもの。おまけに空木くんときたら杜野さんを連れて街の方に走っていっちゃうし」

「その節はどうも……、ご迷惑をおかけしました」

「ああ、いいの。あなたを責めているわけじゃないのよ。ただやっぱり殿方って……可愛らしいくらいに愚かよね」

「そ、そうですね……」

 いやいや待ってよ、これが高校生のセリフなの?悩ましげに溜め息をつく先輩に、私は乾いた笑い声を洩らす。
 この人、サバ読んでるんじゃないの?それともエロゲ世界の歳上キャラは精神年齢が肉体のそれを上回るのが必定なのかしら。いわゆるバブみってやつ?そういえば昨今の人気女性キャラは母性が強い傾向にある、ような。……恭介くんもそういったのに弱かったりするのかしら。

「けど少し残念。傷ついたあなたも、きっと今までとは違う愛らしさがあったでしょうに」

「え、」

「……なんてね、冗談よ」

 ふふふ、と笑う先輩は後光を背負っている。けれどその笑みは悪魔のそれよりずっと悪魔らしくて、私は思わず後ずさった。
 命の恩人のひとりではあるけど。悪い人じゃないと知っているけど。……でもあんまり深入りしたら、きっと戻れなくなってしまう。そんな予感がして、私は逃げるように生徒会室を飛び出した。



 そうそう、それから怖い女といえばもう一人。

「ざっくろちゃーんっ!」

「のわっ!?さっ、佐藤さん!?」

 廊下を歩いていると背後から奇襲をかけられた。突然のバックハグ。その上助走のおまけつき。でも顔が引き攣ったのは思いがけない衝撃に驚いたせいだけではない。
 『ハルウリ少女』佐藤さんは秘密を知った私の口封じを狙っていたはず。なのに一夜明けると一転。何事もなかったかのように──むしろ怖いくらいに親しげな様子で──接してくるようになった。……もう、何がなんだかわからない。
 困惑をよそに、佐藤さんは私の頬に彼女のそれを擦り寄せる。正直怖い。

「今日こそは一緒に帰ろうよ、ね?」

「いや、今日は用事が……」

「付き合うよ。なに?買い物?」

「違いますけどお付き合いも結構です」

「ええ~!ざくろちゃんマジ塩すぎ!ていうかなんで敬語?寂しいじゃん」

「あなたねぇ……、この前のこと、忘れたとは言わせないわよ」

「忘れてないよ!忘れられるわけがない……。だからこそざくろちゃんと仲良くなりたいって言ってるのに」

 自分は正論を行っているのだ。そんな顔で佐藤さんは堂々と宣う。

「男たちを足蹴にして『豚』って嘲け笑った……、そんなざくろちゃんに私は惚れたんだもん」

「あ、あれは……」

 あれはちょっと、ハイになってただけで。だからそんな被虐主義者みたいにうっとりした目を向けられても困る。
 恭介くんがノーマルである限り、私も彼と同じ。今のところSにもMにもなる予定はないのだから。
 だから期待には応えられないし、応えるつもりもない。

「というわけで、失礼」

「あっ」

 佐藤さんの両腕から逃れ、すたこらさっさ。逃げの一手を取った私の背に、佐藤さんの「ざくろちゃんのいけず!」という文句が飛んでくるけど聞こえないふり。これ以上の邪魔が入らぬうちに、と急いで校門をくぐった。





 秋の日の夕暮れはどうしてか寂しげな雰囲気がある。
 放課後、いつもとは違う道を歩きながら私は思う。

 秋風のヴィオロンの節ながき啜り泣き、物憂きかなしみに我がこころ傷つくる────

「ここ、かしら」

 目的地は学生向けのアパート。そのひと部屋の前、表札を確認してから、呼び鈴を鳴らす。


「はい、────?」

 出てきたのは口元にガーゼを貼り、目の下を青く腫らした青年。ガーゼの白が痛々しい彼、柳村さんは私の顔を見るなり──顔を顰めた。なぜ?

「どうしてそんな嫌そうなのよ。この私がせっかく心配して様子を見に来てあげたのに」

「いや、頼んでないし。……もう来るなって言ったでしょ」

「それはホテルの話でしょ?あなたの家に来るなとは言われてないわ」

「屁理屈って知ってる?ていうかなんでウチ知ってんの?」

「柊沢先輩に調べてもらったのよ」

「コワ……」

 柳村さんはめんどくさそうに眉を寄せながら、しかし周囲を見渡したあとで「入りなよ」と室内を指し示した。

「では遠慮なく」

「遠慮してくれてもいいんだけど」

 あーあーきこえないきこえない。
 余計な一言は無視して、柳村さんのご自宅にお邪魔する。

「あら、案外きれいなのね」

 予想していたのは敷きっぱなしの布団だとか転がる空のペットボトルだとか、そんなマイナスのもの。なのだけれど、室内は存外片付いていた。
 というより、必要最低限のものしかない、といったところか。ベッドとテーブル、パソコンに本の山。うんうん、健全な大学生って感じだ。

「ちょっと、あんまりじろじろ見ないでくれる?」

「あぁごめんなさい。ところでこれって仏語辞典よね?もしかして第二言語でとってるの?」

「あぁ、まぁ……」

「だったらそう言ってくれればよかったのに。教わりたいこと、いっぱいあるのよ」

「いやまだ人に教えられるレベルじゃ……、最近になってやっと真面目に勉強しようって気になったところなのに」

「あら、そうなの?」

 よくわからないけど、更生したならよかった。学生の本分はやっぱり勉強だもの。関心関心。まぁ私は愛に生きさせてもらうけど。

「それなら待ってるわ、あなたが人に教えられるくらいになる時を。その日が来たら私を一番の生徒にしてちょうだいね」

 何の気なしにそう言ったところ、柳村さんの目が曇るのがわかった。

「……どうして、」

「え?」

「オレは、あんたを騙してたのに」

 伏せられた目。その上に落ちる深い翳りの色。あの夜の日々を抜け出した今も、彼だけがそこに取り残されている。
 そんな気がして、私は──

「……バカね」

 額を指先で小突くと、睨まれた。でも全然怖くない。彼が優しい人だってことは、私も知ってるから。

「バカって……こっちは真剣なんだけど」

「だからそれが間違ってるのよ。真剣に……とか、そんな深刻に考えることないわ。実際私はこうして無事なんだから」

「それは結果論だ。もし間に合ってなかったら……」

「間に合わなかったとしても、あなたはあの場に来てくれたでしょう?私を助けようと、そう思ってくれたんでしょ?」

「それは……そうだけど」

「ならそれでいいじゃない。少なくとも私は嬉しかったわ。例え間に合わなかったとしても、あなたが助けに来てくれた……、それだけで私は救われた気持ちになれたと思うの」

 結果が重要なのだと、そう言う人もいるかもしれない。結果として助かったのだから、だから赦せるのだと。
 でも私はそう思わない。私のために負った傷、痛々しいガーゼの白に触れ、私は笑う。「ありがとう」退屈な夜も、暴力に屈した時も。あなたがいてくれたから、今の私がいるの。

「それにね、あのくらいのことであなたを恨むほど、私、小さくないわ。舐めないでよね」

 言い切って、ふふんと得意気な笑みを作る。と、柳村さんは「……バカはどっちだよ」と呆れ顔。失礼ね。でも調子が戻ったならよかった。

「……『黎明が広がり夜が明けていくのだから、長いこと僕を逃れた後で、希いを聞き入れて希望が僕のもとへ帰ってきたのだから』」

「『かくてこそ義務さえが幸福となり、努力も楽しくなるはずだ』……、何かいいことでもあったの?」

「……うん、まぁ、ね」

 言葉少なに。唇に浮かぶのは淡い笑み。暮れ方の、鮮やかなる橙色を頬に刷いて、彼はちいさく笑った。

「上田敏でも永井荷風でも、堀口大學でもない……自分の、自分だけの言葉で、いつかヴェルレーヌを表してみたい。……その時は、聞いてくれる?」

「……っ、もちろんよ!」

 大きく頷くと、かつて『生きる目的がない』と言っていた青年は「ありがとう」と笑みを深めた。
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