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22.国境の街バルザ
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その日の夕刻、2人は本日の目的地である国境の街バルザへと辿り着いた。
聖ミルギスタ王国と魔族の土地は、南北に広く国境を面している。聖ミルギスタ王国を地図の左側、魔族の土地を右側として考えれば、バルザは両土地の上側に位置する街だ。バルザの北側には小さな人間国家がひしめいており、彼らが聖ミルギスタ王国を訪れる際に必ずといって良いほど立ち寄る場所が、この国境の街バルザなのだ。
聖ミルギスタ王国への国境を越えても、王国内の大きな都市まではまだかなりの距離がある。長旅の休憩地点の役割を担う街だということだ。だからバルザの街には、目の色も肌の色も、話す言葉違うたくさんの人が溢れている。
イシュメルがこのバルザを中継地点として選んだ理由は2つだ。
まず1つ目の理由は、バルザを経由せずには聖ミルギスタ王国への立ち入りが難しいこと。国土の東側を魔族の土地と接する聖ミルギスタ王国は、国境付近の警備が厳重だ。例え深い森の中に国境があるからといって、ひょいと超えることは困難なのである。だから安全を第一に考えるのならば、多少遠回りでもバルザに立ち寄り、そこから国境を越えようとするたくさんの人間たちに紛れてしまうことが確実であった。
そして2つ目の理由は、イシュメルがギオラに人間の街を見せたかった。聞けばギオラは1000年前の聖ミルギスタ王国宮殿訪問以外で、人間の住む街を訪れた経験はないのだという。ならば一度くらい、人間に紛れて人間の街に滞在するのも面白いのではないか、という単純なサービス心だ。
洗練された聖ミルギスタ王国内の街とは違い、バルザは混沌とした土地だ。国籍、言葉、肌の色、目の色、常識、食べる物、好きな物。何もかもが異なるたくさんの人々が、バルザという小さな街に詰め込まれている。もしも将来人間と魔族が共存し、一つの街を形作ったとすれば、きっとバルザのような賑やかな街ができあがるのではないか。
そんなことを考えれば、ぜひ一度ギオラにバルザの街を見て欲しかった。
そしてイシュメルのサービス心は大当たりであった。街に一歩立ち入ったとき、ギオラは独り言のように呟いた。
「これは凄い、街と人に押し潰されそうだ」
狭い通りにひしめく、色も形も違った数々の建物。そこに詰め込まれる人、人、人。異国の言葉でお喋りを楽しむご婦人、買い食いを楽しむ子連れの家族、日銭を稼ごうとする大道芸人。建物に、人に、賑わいに押し潰されてしまいそうだ。
「賑やかで楽しい街だろう。人も、物も、情報も、国を超えて移動するものは必ずといって良いほどバルザを経由する。中継機能を担う街だ」
「この街では何をする。一晩を明かして終わりか?」
「いや。実は色々とやらなければならないことがある。まずは馬の売却だ」
イシュメルが手綱に繋がれた2頭の馬を交互に指さすと、ギオラは声を荒げた。
「おい、城の馬を勝手に売るんじゃない」
「売らなければならないんだ。それがバルザのルールだ。というのも聖ミルギスタ王国では、旅行客の馬の使用が厳しく制限されている。だから周辺諸国から馬に乗ってバルザへとやって来た旅行客は、バルザで一度馬を売り払うんだ。国境を越えた後は馬車を利用して各都市へと向かい、帰り道にバルザで馬を買い戻す」
周辺諸国から聖ミルギスタ王国を訪れる旅行客は多い。旅行客が馬を利用して王国内の各都市を訪れれば、都市部は旅行客の数と同じだけの馬で溢れてしまう。道中の道は踏み荒らされてしまうし、馬糞の始末も大変だ。馬同士の衝突事故も後を絶たないだろう。
そういった事情から、旅行客は聖ミルギスタ王国へ馬を乗り入れることができない。国境の街バルザで馬を降り、その先はのんびりと馬車に揺られて目的地の都市を目指すのだ。どうしても馬に乗りたければ、行く先の都市で馬を借りる。気性が穏やかでよく慣らされた馬だ。
もちろん馬の乗り入れに関して、多少の例外が認められる場合もあるが、大抵の旅行客はバルザで馬を手放してしまう。郷に入っては郷に従え、というやつだ。
そんなことを、イシュメルはつらつらとギオラに語った。すれ違う人と肩をぶつけながら、ギオラは尋ね返した。
「帰り道では、自分の乗ってきた馬を買い戻すことができるのか?」
「しようと思えばできる。売却の他に預け入れという方法もあるからな」
「城の馬は預け入れずに売ってしまうのか」
「売ってしまって問題ないだろう? だって帰りはバルザを経由しない。空を飛んで城に帰るんじゃないのか」
イシュメルがそう言い放てば、ギオラは言葉に詰まった。
「……その通りだ」
「そうだろう。それに俺たちは金を持っていない。2頭の馬を売り払えば、旅の資金としては十分すぎるくらいだ。今夜は少し良いお宿に泊まれるぞ。美味い飯も食える」
イシュメルの言葉に、ギオラの視線があちらこちらへと移ろった。店頭で客引きをする人、「酒各種飲み放題」の看板、じゅうじゅうと音を立てながら肉を焼く屋台、溢れかえる人波。景色も匂いも喧騒も、バルザは全てが魅力的な街だ。
馬よりも金。街並みを眺めるうちに、ギオラはその事を認めたようだ。
「馬の件はお前に任せる。だがこの馬はエマのお気に入りだ。無事全てが解決したあかつきには、城に名馬を贈って寄越すように。3頭」
「おい、なぜ増やした?」
「俺が乗る分だ」
「……んん。それならまぁ仕方ない」
聖ミルギスタ王国と魔族の土地は、南北に広く国境を面している。聖ミルギスタ王国を地図の左側、魔族の土地を右側として考えれば、バルザは両土地の上側に位置する街だ。バルザの北側には小さな人間国家がひしめいており、彼らが聖ミルギスタ王国を訪れる際に必ずといって良いほど立ち寄る場所が、この国境の街バルザなのだ。
聖ミルギスタ王国への国境を越えても、王国内の大きな都市まではまだかなりの距離がある。長旅の休憩地点の役割を担う街だということだ。だからバルザの街には、目の色も肌の色も、話す言葉違うたくさんの人が溢れている。
イシュメルがこのバルザを中継地点として選んだ理由は2つだ。
まず1つ目の理由は、バルザを経由せずには聖ミルギスタ王国への立ち入りが難しいこと。国土の東側を魔族の土地と接する聖ミルギスタ王国は、国境付近の警備が厳重だ。例え深い森の中に国境があるからといって、ひょいと超えることは困難なのである。だから安全を第一に考えるのならば、多少遠回りでもバルザに立ち寄り、そこから国境を越えようとするたくさんの人間たちに紛れてしまうことが確実であった。
そして2つ目の理由は、イシュメルがギオラに人間の街を見せたかった。聞けばギオラは1000年前の聖ミルギスタ王国宮殿訪問以外で、人間の住む街を訪れた経験はないのだという。ならば一度くらい、人間に紛れて人間の街に滞在するのも面白いのではないか、という単純なサービス心だ。
洗練された聖ミルギスタ王国内の街とは違い、バルザは混沌とした土地だ。国籍、言葉、肌の色、目の色、常識、食べる物、好きな物。何もかもが異なるたくさんの人々が、バルザという小さな街に詰め込まれている。もしも将来人間と魔族が共存し、一つの街を形作ったとすれば、きっとバルザのような賑やかな街ができあがるのではないか。
そんなことを考えれば、ぜひ一度ギオラにバルザの街を見て欲しかった。
そしてイシュメルのサービス心は大当たりであった。街に一歩立ち入ったとき、ギオラは独り言のように呟いた。
「これは凄い、街と人に押し潰されそうだ」
狭い通りにひしめく、色も形も違った数々の建物。そこに詰め込まれる人、人、人。異国の言葉でお喋りを楽しむご婦人、買い食いを楽しむ子連れの家族、日銭を稼ごうとする大道芸人。建物に、人に、賑わいに押し潰されてしまいそうだ。
「賑やかで楽しい街だろう。人も、物も、情報も、国を超えて移動するものは必ずといって良いほどバルザを経由する。中継機能を担う街だ」
「この街では何をする。一晩を明かして終わりか?」
「いや。実は色々とやらなければならないことがある。まずは馬の売却だ」
イシュメルが手綱に繋がれた2頭の馬を交互に指さすと、ギオラは声を荒げた。
「おい、城の馬を勝手に売るんじゃない」
「売らなければならないんだ。それがバルザのルールだ。というのも聖ミルギスタ王国では、旅行客の馬の使用が厳しく制限されている。だから周辺諸国から馬に乗ってバルザへとやって来た旅行客は、バルザで一度馬を売り払うんだ。国境を越えた後は馬車を利用して各都市へと向かい、帰り道にバルザで馬を買い戻す」
周辺諸国から聖ミルギスタ王国を訪れる旅行客は多い。旅行客が馬を利用して王国内の各都市を訪れれば、都市部は旅行客の数と同じだけの馬で溢れてしまう。道中の道は踏み荒らされてしまうし、馬糞の始末も大変だ。馬同士の衝突事故も後を絶たないだろう。
そういった事情から、旅行客は聖ミルギスタ王国へ馬を乗り入れることができない。国境の街バルザで馬を降り、その先はのんびりと馬車に揺られて目的地の都市を目指すのだ。どうしても馬に乗りたければ、行く先の都市で馬を借りる。気性が穏やかでよく慣らされた馬だ。
もちろん馬の乗り入れに関して、多少の例外が認められる場合もあるが、大抵の旅行客はバルザで馬を手放してしまう。郷に入っては郷に従え、というやつだ。
そんなことを、イシュメルはつらつらとギオラに語った。すれ違う人と肩をぶつけながら、ギオラは尋ね返した。
「帰り道では、自分の乗ってきた馬を買い戻すことができるのか?」
「しようと思えばできる。売却の他に預け入れという方法もあるからな」
「城の馬は預け入れずに売ってしまうのか」
「売ってしまって問題ないだろう? だって帰りはバルザを経由しない。空を飛んで城に帰るんじゃないのか」
イシュメルがそう言い放てば、ギオラは言葉に詰まった。
「……その通りだ」
「そうだろう。それに俺たちは金を持っていない。2頭の馬を売り払えば、旅の資金としては十分すぎるくらいだ。今夜は少し良いお宿に泊まれるぞ。美味い飯も食える」
イシュメルの言葉に、ギオラの視線があちらこちらへと移ろった。店頭で客引きをする人、「酒各種飲み放題」の看板、じゅうじゅうと音を立てながら肉を焼く屋台、溢れかえる人波。景色も匂いも喧騒も、バルザは全てが魅力的な街だ。
馬よりも金。街並みを眺めるうちに、ギオラはその事を認めたようだ。
「馬の件はお前に任せる。だがこの馬はエマのお気に入りだ。無事全てが解決したあかつきには、城に名馬を贈って寄越すように。3頭」
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