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※25.ナイトメア

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 ギオラはうとうとと微睡んでいた。
 柔らかなベッドの上で、温かな腕に抱き込まれている。はっきりとしない意識の中でも、その腕は誰の物であるかはわかった。イシュメルだ。乗馬を教わるときに、寝室で旅の予定を話すときに、幾度となくそのたくましい腕を身近に感じた。
 ギオラは自らを抱くその腕にほおずりをし、大きく息を吸い込んだ。

 ――違う

 微睡みは一瞬にして覚めた。ギオラは勢いよく身を起こし、2本の腕を弾き飛ばすと、ベッドの上をずりずりと後ずさった。

「やっほぉ。ギオラ、おはよ」

 寝転がった体勢のままひらひらと手を振るその人物は、やはりイシュメルだった。明るい金茶色の髪も、よく鍛え上げられた肉体も、ギオラのよく知るイシュメルの物。しかし表情と口調は違う。にんまりと弧を描く眼も、いやらしげに歪められた唇も、間延びした話し方も、本来のイシュメルのものとは似ても似つかなかった。

「お前、セロか。その気色の悪い変身を解け」

 ギオラがそう怒鳴りつければ、イシュメルの身体は淡く白い輝きを放ち、空気を抜いたように萎んでいく。輝きが治まったとき、ベッドの上にちょこんと座り込んでいたその男は、ギオラの1000年来の宿敵であるセロだ。

「よく僕だと分かったね。結構似てたと思うんだけどな、あの糞騎士くんに」
「匂いが違う」
「匂い? あー……そうか、匂いか。そりゃ盲点だ。確かに姿かたちは変えられても、匂いまでは変えられない」
「お前の匂いは不快だ。どろどろに淀んだヘドロのような匂い」
「ヘドロ? ちょっとその例えは酷くない。自分で言うのも何だけど僕、結構きれい好きだよ。部屋を見てもらえれば分かると思うけどさぁ」

 そう言われて、ギオラは初めて部屋の内部を見回した。かなりの広さがある部屋だ。ベッドの他に本棚やソファ、生活に必要な一通りの家具が揃えられており、一緒に部屋にいる相手がセロでなければ、十分居心地の良さそうな部屋ではある。

 しかし不可解なことにもその部屋には窓がない。部屋の広さから考えれば、2つ3つの大窓があってもよさそうなはずなのに。
 ギオラの心臓は跳ねた。

「ここはどこだ」
「ここは僕とお前の愛の巣だよ」
「ほざけ。どうやって俺をここに連れてきた」
「あれ、覚えてないの? ギオラがのこのこ僕に付いてきたんじゃん。糞騎士くんの姿をした僕にさ。『馬車乗り場が見つかった』って言ったら疑いもせずに付いてきちゃってさぁ。ちょっと警戒心、足りないんじゃない?」

 ギオラは懸命に記憶をたどった。そうだ、三角屋根の下でイシュメルを待っていたのだ。9時40分に発車する王都行きの馬車へと乗るために。
 人混みに消えたイシュメルは数分と経たずに戻ってきた。「王都行きの馬車乗り場が見つかった。少し遠回りになるが路地を通ろう。そっちの方が歩きやすいから」そう話すイシュメルの背に続き、何の疑いもなく人気のない路地へと立ち入った。そして路地を抜けた辺りでぷっつりと記憶が途絶えている。イシュメルの姿をしたセロに、何らかの手段で意識を失わされたのだ。

 神器の存在を忘れていた己の浅はかさに腹が立った。しかし今は情報収集以外にできることはなかった。

「ここは聖ミルギスタ王国の国土内か。国境の街バルザからは離れた土地か?」
「何でそんなこと訊くんだよ。どうでも良いだろ。お前はこの先の人生を、ずっと僕と一緒に過ごすんだから」
「馬鹿な」
「馬鹿なもんか。だって誰も助けになんて来ない。あの糞騎士くんは僕がどこの誰かも知らないんだぜ」

 ぎしり、とベッドがたわんだ。獣のように四つん這いとなったセロは、ギオラの銀色の目を至近距離からのぞき込む。

「やっと手に入れた。僕のギオラ、もう誰にも渡しはしない」

 不意に伸ばされたセロの右手を、ギオラは力任せに弾き飛ばした。そのままセロの胸元を突き飛ばし、ベッドの上から飛び降りようとする。
 窓はなくとも扉がある。例え鍵がかかっていても、助走をつけて蹴りかかれば破れる可能性は十分にあるだろう。ヘドロのように粘着質な男と生涯を共にするなど絶対に御免だった。

「おいこら、逃げるな」

 声とともに、下顎に衝撃が走った。脳味噌が揺れ、ギオラは成す術もなくベッドへ倒れ込んだ。
 手足に力が入らない。ぐわんぐわんと視界が揺れる。

「うう……」
「だから逃げるなって言ったろ。これでも前々世は軍人だったんだ。あれ、前々々世だったかな? 何にせよ便利なもんだろ。たくさんの人生の記憶があるというのもさ」

 言いながら、セロはギオラの衣類を次々と剥ぎ取っていく。脱がした衣類は全てベッドの下に投げ捨てて、脱力した肢体を満足気に眺め下ろす。これは全部僕のもの、とでも言うように。

 セロは自身もまた裸になると、勃起した陰茎をギオラの下腹に擦りつけた。唇はギオラの首筋に吸い跡を残し、指先は左右の乳首を交互にもてあそぶ。触れられる側の反応など微塵も気にかけない、早急で無遠慮な愛撫だ。
 ギオラはぐらぐらと揺れる意識の中で、必死に抵抗した。

「さわ、るな」
「無茶言うな。僕がどれだけこの時を待っていたと思う。一度や二度抱いただけじゃ全然足りない。ギオラの全部が欲しかったんだ。この綺麗な銀色の目に僕しか映らないようにしたかった。1000年前からずっとずっとずっと」
「そんなこと――ああ、ぁあァ」

 セロの人差し指が、ギオラの後孔にずぶずぶと押し入ってきた。歪んだ愛情に体内を掻き回される。不快で不快で吐き気を催しても、その行為を止めさせる術はない。
 そうして早急な愛撫を終えたセロは、今度は反り返る陰茎をギオラの後孔に押し入れんとした。ギオラは全身に力を込めてそれを拒むも、掌打の衝撃はまだ色濃く残る。セロの肩先に、かりかりと爪痕を残すだけで精いっぱいだ。太いモノを根元まで咥えこんで、ひくひくと膝を揺らす。

「あぅ……うう……」
「最っ高に気持ちイイ。なぁもう動いて良い? 一回中に出させて。そうしたら、次はギオラのことも気持ちよくしてあげるからぁ」

 ギオラの答えを待つ間もなく、セロはギオラの両脚を抱え上げ、寸分と置かずにギオラの臀部に腰を打ち付けた。ただ己が精を吐き出すためだけの、えぐるような挿抜だ。
 ひゅう、とギオラはのどを鳴らす。

「セロ、激し……」
「大丈夫。7日もあれば、僕のモノを咥えただけでイクようになる。ほらもう――出すぞ」

 セロの陰茎が膨張する。深いところを激しく突き乱されて、ギオラは悲鳴のような嬌声をあげた。
 間もなくして歪んだ愛情を吐き出したセロは、ギオラの頬にちゅうと口を付けた。

「今日は夜まで愛し合おうな。僕の宝物ギオラ
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