春まだ遠く

璃々丸

文字の大きさ
5 / 7
雪解け前の雨

五.

しおりを挟む
 翌日、ましろは普通に起き上がれてホッ、とした。


 良かった・・・・・・今日は気分が良いや。


 そっ、とベッドから抜け出して何時もそうしているように学校に行く準備を始めた。
 着替えてから顔を洗い、階下に向かう。ダイニングでは春人がボリューミーな朝食を食べている所であった。
 昨日の今日では仕方が無いのかもしれないが、夏樹は相変わらず起き上がれないようでその姿が無かった。


「おはよう、春兄」


 そう言って静かに席に着いた。


「うん、おはよう。ましろ」


 イチゴのジャムをたっぷり乗せたパンを手に持つ春人が、ほんわかとした笑顔で挨拶を返した。
 今日はゆっくりなんだな、と思いつつしかし自分はゆっくりしている暇は無いのでさっさと食べ始める。


 頑張って食べ終わると、今日は忘れないようにちゃんと薬を二種類呑んでから立ち上がった。


「じゃあ、行ってきます!」


 そう言ってリュックを掴み、家を出た。
 今日も、いつも通りの退屈で平凡な日常がまた始まるのだ、と思う所なのだが今日だけは違う。
 本城颯人。彼と今日放課後に会う約束をしているからだ。


 一体どんな話をされるのか、怖いが興味が無いと言えば嘘になる。
 いったい過去にどんな事があったのか・・・・・・。もし、知る事が出来たら自分の周囲がどうしてこんなに冷たいのかも、分かるかもしれない。


 ましろはそう考えた。
 今日は何時も以上にうわの空で過ごしてしまったが、無事に放課後を迎えたましろは逸る気持ちを抑えつつ学校を出た。
 そうして電車に揺られて戻って来たましろの緊張感はMaxに迄高まっていた。


 うう・・・緊張する・・・・・・。


 今日この場所で、と言っていたから多分バスターミナル辺りで良いんだよね、と其方へ向かって足を向けた。


「あ・・・・・・」


 バスターミナルの木の植え込みがある場所に、人待ち顔で立つ本城颯人が其処に居た。
 ただ其処に立っているだけだと言うのに、何とも絵になる立ち姿だ。
 凛然と立つ姿は矢張り騎士のようで、守られたいと思う程格好いいとましろは思った。


 やっぱりカッコイイ、ってこう言う人のコトを言うんだな・・・・・・。


 どう声を掛けようか考えながらおずおずと近寄ると、颯人は此方に気付いて笑顔でましろに近づいて来た。


「来てくれてありがとう」


 颯人は本当に嬉しそうにそう言った。


「いいえ、その・・・それでお話って・・・・・・」


「ああ、そうだな。こんな場所では落ち着かないから・・・何処か場所を変えよう」


 そう言いながら颯人が歩き出すので、ましろが素直について行ったら連れて来られたのは、ましろもよく行くシアトル系のカフェだった。


「ここなら静かすぎないから良いんじゃないかな」


「そうですね」


 この店の、一番奥まった場所の座席を取ると、ふたりでコーヒーを買いにカウンターへと向かう。


「何にする?」


 と聞かれてましろはメニュー表を覗き込み、コレ、と指差した。
 それは今年の春限定メニューの、桜をモチーフにしたコーヒーだった。
 真っ白でふわふわのフォームミルクの上にピンク色の、桜の花びらを模したチップが乗っている。
 何とも可愛らしい、春めいたコーヒーだった。


「・・・他にはないのかい?」


 さらに聞かれてましろはこれ以上奢ってもらうのは流石に図々し過ぎる、と首をブンブンと左右に振った。


「い、いえ! 大丈夫ですっ」


 本当は限定のシフォンケーキだったりキャラメルのチーズケーキをお願いしたい所だが、もしこれらを食べてしまうと晩ご飯が入らなくなってしまうのでやっぱり諦めざる得ないのだった。


「ありがとうございます」


 こんな風に奢ってもらうのが初めてのましろは嬉しそうに颯人にそう言うと、颯人も照れたように微笑んだ。


「ふふ、どういたしまして」


 ささやかな会話を交わしながら、そうしてコーヒーを受け取ったふたりは座席に戻ると途端に思い出したように緊張からか無言になってしまった。


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 間が持たないましろは無言でコーヒーを啜り、颯人が口を開いてくれるのを待った。


「・・・・・・長らくこうやって君と話す事を思い描いていたのに、実際にこうなると中々緊張するものだな」


 そう言って颯人もコーヒーを一口飲んだ。


「そうだな・・・君は、小さい頃の事はあまり、覚えていないのだったね」


「・・・・・・はい」


「俺達は、そう・・・俺が誕生日を迎えるまえだったから六歳くらいの夏頃だ」


 なら、自分は四歳くらいだろうかとましろは考えた。それならば、多少記憶にないのは仕方が無いかもしれない。
 そうして颯人が静かに話し出した内容は、中々にショッキングな出来事であった。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL シリアスはほとんどないです 不定期更新

【エルド学園】俺はこの『親友』が、ただの学生だと思っていた

西園 いつき
BL
エルド王国第一王子、レオンは、唯一の親友ノアと日々研鑽を重ねていた。 文武共に自分より優れている、対等な学生。 ノアのことをそう信じて疑わなかったレオンだが、突如学園生活は戦火に巻き込まれ、信じていたものが崩れ始める。 王国と帝国、そして王統をめぐる陰謀と二人の関係が交錯する、王子×親友のファンタジーBL。

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定 (pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

処理中です...