イヴたちの館

さくら乃

文字の大きさ
28 / 64
第五章

6

しおりを挟む

 皆の席にはもう既に紅茶や茶菓子が用意されていた。ティーセットは高級感のあるもので白地に薔薇の絵があしらわれている。同じ柄の色違いものが二、三セットずつ。お菓子はスコーンやクッキー、ミニケーキなど。
 長いテーブルの中央二箇所には薔薇が生けられている。
(イヴさまは薔薇がお好きなのね)
 流石『お嬢様方』が通う学院の茶会。上品で並べられたものは綺麗で高級感がある。
 しかし本物の『お嬢様』がどれだけいるのだろうか。華にしても今はもう元『お嬢様』だ。
 歪で悲しい『お嬢様ごっこ』のように思えた。

「では皆様頂きましょう」
 イヴリンが最初に紅茶に口をつけると、皆がそれに習って口をつける。勿論華も周りの作法を見つつ口をつけようとして。
(う……っ)
 躊躇して周りを見回す。イヴリン以外の皆が興味津々で見ていた。
「どうなさったの華さん、お飲みならないの?」
 すぐ近くの上級生がくすりと笑った。
「美味しいですわよ」
 周りの数人がくすくすっと笑う。
「華さん? お口に合わないかしら」
 華の様子に気づいてイヴリンも声を掛ける。
 圧に負けてどうにか口をつける振りだけでもと、ティーカップの取っ手を持って口に持って行く。
 上手くやらなきゃという思いで余計緊張感が増しぷるぷる手が震えてしまう。
「あ……っ」
 ガシャン。
 大きな音と共に熱い紅茶が飛び散る。
「きゃっ」
 近くの上級生の服にもかかってしまい華は青褪める。上品な話し声はあっても優雅で静かな雰囲気の室内にその音と声は大きく響き渡った。
「何なさるの」
「申し訳ありません」
 テーブルに零れた紅茶が膝の上にも流れてくる。自分の手や足に熱さを感じながら立ち上がって大きく頭を下げる。
 ひそひそと話す声が耳に痛い。
「大丈夫、華さん」
 イヴリンが慌てて立ち上がって華のところに駆け寄って来る。その様子を見ると彼女が『このこと』に加担しているのではないと感じる。
「シスターシオン何か拭くものを」
 世話役のシスターは急いで給仕用のワゴンの下側にある数枚の布巾をイヴリンに手渡した。イヴリンは華の前に跪き、手や濡れたスカートを拭き始めた。
 イヴリンの行動に彼女たちが騒めく。
「あら……」
 華を拭きながら床の零れた紅茶にも目が行き、そこにはありえないものが落ちていた。
 大きな蛾だ。
 それはいつの間にか華のティーカップに入れられていた。イヴリンはすぐに察した。
「誰かしらこんなことをしたのは」
『何を』とは言わずとも茶会に呼ばれた生徒全員にわかっていた。皆視線を逸らす。
「もういいわ。皆様はこのままここでお茶会を続けて」
 厳しい顔で言うと華の顔を覗き込む。
「華さんはこちらへ」
 ゆっくりと立ち上がらせた。
 紅茶の掛かった上級生が自分の制服を拭きながらめつけているのが、華の目の端に映った。
 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...