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第五章
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しおりを挟む皆の席にはもう既に紅茶や茶菓子が用意されていた。ティーセットは高級感のあるもので白地に薔薇の絵があしらわれている。同じ柄の色違いものが二、三セットずつ。お菓子はスコーンやクッキー、ミニケーキなど。
長いテーブルの中央二箇所には薔薇が生けられている。
(イヴさまは薔薇がお好きなのね)
流石『お嬢様方』が通う学院の茶会。上品で並べられたものは綺麗で高級感がある。
しかし本物の『お嬢様』がどれだけいるのだろうか。華にしても今はもう元『お嬢様』だ。
歪で悲しい『お嬢様ごっこ』のように思えた。
「では皆様頂きましょう」
イヴリンが最初に紅茶に口をつけると、皆がそれに習って口をつける。勿論華も周りの作法を見つつ口をつけようとして。
(う……っ)
躊躇して周りを見回す。イヴリン以外の皆が興味津々で見ていた。
「どうなさったの華さん、お飲みならないの?」
すぐ近くの上級生がくすりと笑った。
「美味しいですわよ」
周りの数人がくすくすっと笑う。
「華さん? お口に合わないかしら」
華の様子に気づいてイヴリンも声を掛ける。
圧に負けてどうにか口をつける振りだけでもと、ティーカップの取っ手を持って口に持って行く。
上手くやらなきゃという思いで余計緊張感が増しぷるぷる手が震えてしまう。
「あ……っ」
ガシャン。
大きな音と共に熱い紅茶が飛び散る。
「きゃっ」
近くの上級生の服にもかかってしまい華は青褪める。上品な話し声はあっても優雅で静かな雰囲気の室内にその音と声は大きく響き渡った。
「何なさるの」
「申し訳ありません」
テーブルに零れた紅茶が膝の上にも流れてくる。自分の手や足に熱さを感じながら立ち上がって大きく頭を下げる。
ひそひそと話す声が耳に痛い。
「大丈夫、華さん」
イヴリンが慌てて立ち上がって華のところに駆け寄って来る。その様子を見ると彼女が『このこと』に加担しているのではないと感じる。
「シスターシオン何か拭くものを」
世話役のシスターは急いで給仕用のワゴンの下側にある数枚の布巾をイヴリンに手渡した。イヴリンは華の前に跪き、手や濡れたスカートを拭き始めた。
イヴリンの行動に彼女たちが騒めく。
「あら……」
華を拭きながら床の零れた紅茶にも目が行き、そこにはありえないものが落ちていた。
大きな蛾だ。
それはいつの間にか華のティーカップに入れられていた。イヴリンはすぐに察した。
「誰かしらこんなことをしたのは」
『何を』とは言わずとも茶会に呼ばれた生徒全員にわかっていた。皆視線を逸らす。
「もういいわ。皆様はこのままここでお茶会を続けて」
厳しい顔で言うと華の顔を覗き込む。
「華さんはこちらへ」
ゆっくりと立ち上がらせた。
紅茶の掛かった上級生が自分の制服を拭きながら睨めつけているのが、華の目の端に映った。
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