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第八章
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しおりを挟む温室は礼拝堂の奥にあり、礼拝堂の壁に沿って進んで来た。
リンゴンリンゴン。
鐘は鳴り続けている。すぐ近くで鳴る鐘はやかましく耳を塞ぎたくなるくらいだ。
壁が途切れ角を曲がれば正面の入口がある面になる。そこで涼は立ち止まって礼拝堂を仰いだ。
華も一緒に見上げる。
途端ぴしゃと何かが顔に当たった。
液体だ。頬を流れていく感覚がする。
片側の目に入り視界が赤くなる。
(なんで赤いの?)
頬に触れそれを軽く拭った。自分の手を見ると赤いものが付着していた。
(何かしら……これ)
傍らを見ると涼の顔にも制服にも赤い何かがついている。
(涼さんにも……)
本当はもう気づいているのかも知れない。しかし頭がそれを拒否している。
鐘は鳴り止んでいたが、涼がそれを見上げていた。華も視線を上げた。
真っ赤に染まった何かが鐘の先にロープで繋がれぶら下がっている。今まで鳴っていた鐘はそれが揺れていた為だろう。まるで振り子のように。
「……りお……っ」
それきり言葉が出なかった。悲鳴さえも。
両足首にロープが巻かれ、それが礼拝堂の鐘へと繋がっている。膝辺りでも制服のスカートごと縛られていて、そこから先は髪も両手も重力に従って垂れ下がっていた。
鐘を鳴らす力はないがまだゆらゆらと揺れている。その度に血がぽたりぽたりと垂れてきていた。
「涼さん……あれ……」
「華」
名前を呼ばれ抱き締められた。記憶はそこまでだった。
気がつくと寮の部屋のベッドの上だった。心配そうに覗き込んでいる涼の顔が見えた。
「涼さん……またわたし……」
前にも気を失って涼に運んで貰ったことを思い出す。本来なら申し訳なさや恥ずかしい気持ちが湧いてきてもおかしくはないが、今はそんな部分にも鈍くなっていた。
華はベッドに寝転んだまま自分の両掌を見た。それから頬に触ってもう一度掌を見る。『赤』はついていない。涼の顔を見ても元の綺麗な顔だし、ルームウェアに着替えていた。
『赤』はもうない。
やっとほっとできた。
「もう夕食の時間だけどどうする?」
華はゆっくり頭を振った。まだ反応は鈍い。
「だよな……わたしも今は食べる気がしない」
流石の涼も顔色が悪かった。
「……凜音さん……でしたよね」
『何が』とは言わなくても当然涼にはわかるし口にしたくもなかった。
「ああ……」
苛立ちからかカリッと爪を噛んだ。
「まさか、あんな……。彼奴……立て続けにこんな惨たらしいことを」
「……『彼奴』って誰なんですか……?」
今まで訊くのを躊躇っていた。躊躇いも思考が鈍っているのに負けてとうとう口にしてしまった。
「涼さんは何を知っているんですか?」
涼は暫く黙って華の顔を見ていた。
それから徐ろに口を開く。
「聞くか? 長い話になるが」
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