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第一章『兄と陸郎と、そして僕』
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しおりを挟む僕が自分の性癖に気づいたのは中学生の時だった。
僕は前々からおかしいと漠然と思っていたことにその時改めて気づいたんだ。幼稚園、小学校時代に一度も女子を好きになったこともいいなと思ったことすらなかった。幼いといえばそれまでだけど。
僕はそれほど背も高くなく、小学校高学年でもうかなり成長している友だちに何故かどきどきしていた。自分にないものに対する憧れかと思っていたが中学生になるとそれはもう少し顕著になってきたのだ。
そしてそれが確信に変わったのは、中学二年の秋。
その日、僕は部活を休んで四時過ぎには家に辿り着いていた。僕の入っている写真部はガチ勢以外はゆるゆるだった。そういうわけでそんな日は多々ある。
その時間に帰ると大抵は誰もいない。両親は共働きで中高一貫に通う高二の兄の優雅は部活ガチ勢で、いつも帰って来るのは七時過ぎだ。
玄関前に立つと十中八九鍵がかかっているのに、とりあえずノブに手をかけて引いてしまうのが癖だった。誰もいないのはわかっているのに。
しかし。
(あれ? 開いてる……)
レバーハンドル型のドアノブを軽く握って引くとカチャッとドアが開いた。
(優雅帰ってきているのかな?)
玄関の三和土にスニーカーが二足。一足は見慣れた優雅のスニーカー。もう一足は優雅のよりもかなり大きい。
(松村さん?)
松村陸郎は中学の時からの兄の友人だ。優雅が家に連れて来るのはこの陸郎くらいなので間違いないだろう。
彼らが中二になる春休みに初めて家に連れて来た時に「おれの親友」と肩を組んで紹介された。優雅は時に人を見下すような少し傲慢なところがある。そんな彼が『親友』と認めるのは相当仲が良い証拠だろうと感じた。
玄関前の磨り硝子のドアは少し開いていて僕は特に何も考えずにするりと身体を忍びこませた。
一階のそこそこ広いLDKは黄金色に包まれていた。西向きにある大きな掃き出し窓から日没前の陽が射しこんでいるのだ。
窓のほうに顔を向けると一瞬眩しさに目が眩む。手を翳してそれを避けるとやがて目が慣れてきて、窓際のソファーに人がいるのを見つけた。
兄とその親友だ。
優雅はソファーに仰向けに寝て目を閉じていて、陸郎は優雅の胸に突っ伏していた。二人とも眠っているようだった。
(あ……っ)
それだけでもちょっとあれっと思ってしまうのに、陸郎の手が優雅の手に重ねられているのだ。まるで恋人にするように指を絡めて。
見てはいけないものを見てしまったような気がした。
息を潜めながらリビングの奥にある階段に目を走らせる。自室は二階で彼らの前を通り抜けなければならない。気づかれてしまうかもしれない。僕は足を忍ばせて後退しリビングの外へ、そして玄関の外へと戻った。
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