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第二章『お兄ちゃんの代わりにしていいよ』
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しおりを挟む真新しいスーツの集団がぞろぞろと大ホールから這い出てくる。頭上からみたら黒い頭は蟻の群れにでも見えるのではないだろうか。
本日四月一日は桜葉大学の入学式だ。
ホール周辺はサークル勧誘する先輩方でごった返している。
何故かキッチンカーや模擬店まで出ていて、思わず学祭じゃないよね? と目を見張ってしまう。
(ふぇ~大学ってすごい~っ)
人波を掻き分けサークル勧誘を躱し僕が目指すのは正門だ。
入学式後に兄優雅と会う約束をしている。兄もこの桜葉大の学生だ。別に兄を追って来たというわけじゃない。僕の学力で、しかも推薦で受けられ、それほど遠くない大学であったというだけだ。学部も違う。兄は経営学部、僕は文学部だ。
(だいたい優雅がここにしたってのがおかしいんだ。あの人の学力ならもっといいとこ行けただろ)
正門に辿りついて三十分が過ぎた。
(遅いっ)
時計と周辺を交互に見ながら気持ち苛ついていた。
更に十分が経過した頃やっと優雅が現れる。しかし、女連れであった。
「温、待った?」
彼はその女性の肩に手を回し悪びれもせずに笑っていた。
「だいぶ、待ちましたけど?」
だいぶを強調。嫌みな口調で言うが優雅にはまったく通じていないようだ。
「ごめんね。あと、もう一つごめん。用事ができてつき合えなくなった」
一つも悪いと思ってないような顔で謝る。
「はぁ?!」
「でも、大丈夫! 助っ人呼んだから。じゃあおれ行くから!」
四十分待たされた挙げ句一分で会話終了。優雅は彼女の肩を抱きながら背中を向け、二歩進んだところでもう一度顔だけ振り向ける。
「あ、温。入学おめでとう!」
それだけ言うとさっさと行ってしまった。二人の背を僕は呆然と見送った。
(はぁぁぁー?!)
次にきたのは怒りだ。
今日は入学式の後優雅が大学内を案内し、それからお祝いに夕飯を奢ってくれるという話だった。それは優雅のほうから言ってきたことで、僕がお願いしたことでもなんでもない。
(それなのに。この仕打ちはなんだ! 用事あるなら朝言って……ってか、昨日から家にいなかったか。どうせあの人と一緒だったんだろ。そんでもってこの後も一緒なんだろ。だったらラインでもなんでも連絡すればいいだろーっっ)
公衆の面前で叫ぶわけにもいかず心の中だけで留めた。
優雅は高慢で高飛車で、そして身勝手だ! そんなところは本当に嫌いだ。
(さっさと帰ろうっっ)
ぐるっと勢いよく百八十度回転すると誰かにぶつかってしまった。自分がぶつかっていったのに跳ね返され、僕はその人物に肩を支えて貰った。
「す、すみません」
そのまま真正面から見ても顎の辺りしか見えなかった。僕よりだいぶ背の高い人物のようだ。一歩下がって見上げる。
その顔には見覚えがあった。
「え……っ松村さん?」
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