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第三章『恋人としたいこと◯か条』
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しおりを挟む帰りのことも考えてとりあえず地元の駅まで戻った。ここからなら歩いても三十、四十分くらいで自宅まで戻れる。
たいして目玉になるようなものもない地味な街だが、ゴールデンウィーク前の週末となれば多少は賑わっているようだ。
(さて何処に入ろうか)
誘ったはいいが無計画だった。少し前まで高校生だった僕がお洒落な店なんか知るはずもなく、せいぜいファミレスかカラオケくらいなものだ。
「松村さん何処かよいところありませんか?」
結局陸郎に振った。
「そうだね……」
そう言って陸郎に連れて来られたのは普通にチェーン店の居酒屋だった。
それぞれ飲み物と食べ物を二、三選んだ。
陸郎がビール、僕はカルピスウォーターだ。
「今日は飲まないの?」
注文して飲み物が到着するまでの間に彼は僕にそう言った。
(ん? 今日は? 飲まないのってお酒のことかな??)
謎な問いかけに僕の頭には、はてなマークが飛び交った。
「僕まだ十八なんで飲みませんよ~」
陸郎は自分の口から思わず出てしまった言葉にハッとしたようだった。それから軽い落胆が滲んだように感じた。
「ああ、そうだよね」
(何今の表情……僕を誰かと間違えた?)
ピンとくるものがあった。陸郎がじっと僕を見つめている。
(誰かって、優雅に決まってるっ。あんな目で僕を見て)
ちりっと胸が熱くなったけど、そんな言葉の意味にも眼差しにも気づかない振りをする。
「じゃあ、僕が飲めるようになったら一緒に飲みましょう!」
「そうだね」
僕が何も気づかなかったことにほっとしているようだった。
僕がお酒を飲めるようになるのは、まだ一年半はある。『恋人ごっこ』の期限は陸郎が卒業するまでだ。その後僕らはどうなっているのか。
(まぁ……一年持つかもわからないけど。例えば、陸郎に彼氏なり彼女なりができたら……)
暗くなる気持ちを押しこめる。
「じゃあ、乾杯しましょう」
そう明るく言ってグラスを掲げた。
「かんぱ~い」
カシャンと音と共に僕は少し小さめの声で言った。
「僕らの『恋人ごっこ』の始まりに」
周りはもう既に酔っている人も多く賑やかで誰にも聞こえてないだろう。陸郎は、といえば複雑な顔をしていたがただ「乾杯」と言っただけだった。
「松村さん、けっこう飲むんですね」
腹が空いていた僕らは来た料理をあっという間に平らげ次のオーダーをした。その時に陸郎はグレープフルーツサワーを頼む。
自分の中の陸郎の記憶は高校生の頃で止まっていたので、アルコールを飲む彼が想像できなかった。
「いや、そんなでもないよ」
「ここ、よく来るんですか? 僕居酒屋は初めて」
きょろきょろと珍しそうに辺りを見渡す。大学生くらいの人も多く大騒ぎしているグループもいる。
「うん、たまに。友だちと」
少し口が重いように感じた。
「お兄ちゃんとも来たことあるんですか?」
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