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第三章『恋人としたいこと◯か条』
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「温くん」
陸郎が驚いたように僕の名前を呼んだが、気にせず絡めた腕にぶら下がるようにして下から陸郎の顔を覗きこんだ。
「今度は何処がいいかなー」
あざとく微笑んでみせる。
「今度は温くんの行きたいところでいいよ」
最初は驚きを見せたものの特に振り払う素振りもない。
(松村さん、こういうの平気なのかな?)
そう考えていたら不意にとある光景が脳裏に浮かできた。
(そうだー、優雅もたまに腕組んで帰って来てたわー)
だからこそ二人の関係が怪しいと思っていたんだけど。
笑みが消えじっと彼の顔を見つめる。
(まさか、優雅のこと思いだしてるんじゃ……ってか、優雅の代わりにしろって言ったの僕だしっ)
「どうしたの? 温くん」
「いえ、何でも! えっと、じゃあ次行くとこ考えておきますね」
複雑な気持ちを押し隠してわざとらしいくらいに明るく答えた。
自分の中のもやもやが消えずについぎゅっと陸郎の右腕を抱きしめて自分の額を擦りつけると、ふわぁんと陸郎の香りが鼻を擽った。
酒と煙草と彼自身の体臭の混ざり合った、けして不快ではない匂い。
(煙草……そういえば何度か席を立っていたっけ。トイレにしては回数多いと思っていたけど)
居酒屋では向かい合って座っていたし、いろいろな匂いが立ちこめていて気づかなかった。
「松村さん、煙草吸うんですね」
上目遣いに訊ねる。
「あ、ごめん。煙草の臭い苦手だった?」
「苦手……というか、嗅ぎ慣れてないから」
「……ああ、優は吸わないもんな……」
独り言のようにぽつんと零す。
(また優雅かよ)
それは聞かなかったことにする。
「家では誰も吸わないから。あ、でも松村さん学校では全然臭わないですよね」
入学式の日にカフェで話した時もかなり密着していたけど煙草の臭いはしなかったはず。
「自室以外では吸わないから。でも飲んでる時はやっぱり吸いたくなるな」
「ふーん。でも……嫌ではないです」
「そう? なら良かった」
そう、嫌ではない。
陸郎が煙草を吸っているのは意外だったけど、何だかぐっと大人の男性感が増したような気がした。
そう意識して急に心拍数が上がる。
(なんかめちゃめちゃドキドキしてきた)
歩く度に擦れて香ってくる陸郎のの匂いにくらくらするような気がした。
「あ、ここですね」
ゆっくり歩いたけど分かれ道に到着した。僕は名残り惜しげに腕を離した。
「ああ」と陸郎は頷いたがそのまま立ち止まっている。
「……送って行こうか?」
「え」
思わぬ申し出に嬉しさがこみ上げてくる。
でも。陸郎に送られ帰ってくる優雅が思い浮かんできて。
(松村さんのなかでは誰が横を歩いてるんだろう……)
「あ、大丈夫です。僕男なんで全然。走って帰りますから」
早口で行って「じゃ」と手を上げる。
陸郎もあっさりと「そう」と言って背を向けた。
陸郎が驚いたように僕の名前を呼んだが、気にせず絡めた腕にぶら下がるようにして下から陸郎の顔を覗きこんだ。
「今度は何処がいいかなー」
あざとく微笑んでみせる。
「今度は温くんの行きたいところでいいよ」
最初は驚きを見せたものの特に振り払う素振りもない。
(松村さん、こういうの平気なのかな?)
そう考えていたら不意にとある光景が脳裏に浮かできた。
(そうだー、優雅もたまに腕組んで帰って来てたわー)
だからこそ二人の関係が怪しいと思っていたんだけど。
笑みが消えじっと彼の顔を見つめる。
(まさか、優雅のこと思いだしてるんじゃ……ってか、優雅の代わりにしろって言ったの僕だしっ)
「どうしたの? 温くん」
「いえ、何でも! えっと、じゃあ次行くとこ考えておきますね」
複雑な気持ちを押し隠してわざとらしいくらいに明るく答えた。
自分の中のもやもやが消えずについぎゅっと陸郎の右腕を抱きしめて自分の額を擦りつけると、ふわぁんと陸郎の香りが鼻を擽った。
酒と煙草と彼自身の体臭の混ざり合った、けして不快ではない匂い。
(煙草……そういえば何度か席を立っていたっけ。トイレにしては回数多いと思っていたけど)
居酒屋では向かい合って座っていたし、いろいろな匂いが立ちこめていて気づかなかった。
「松村さん、煙草吸うんですね」
上目遣いに訊ねる。
「あ、ごめん。煙草の臭い苦手だった?」
「苦手……というか、嗅ぎ慣れてないから」
「……ああ、優は吸わないもんな……」
独り言のようにぽつんと零す。
(また優雅かよ)
それは聞かなかったことにする。
「家では誰も吸わないから。あ、でも松村さん学校では全然臭わないですよね」
入学式の日にカフェで話した時もかなり密着していたけど煙草の臭いはしなかったはず。
「自室以外では吸わないから。でも飲んでる時はやっぱり吸いたくなるな」
「ふーん。でも……嫌ではないです」
「そう? なら良かった」
そう、嫌ではない。
陸郎が煙草を吸っているのは意外だったけど、何だかぐっと大人の男性感が増したような気がした。
そう意識して急に心拍数が上がる。
(なんかめちゃめちゃドキドキしてきた)
歩く度に擦れて香ってくる陸郎のの匂いにくらくらするような気がした。
「あ、ここですね」
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「……送って行こうか?」
「え」
思わぬ申し出に嬉しさがこみ上げてくる。
でも。陸郎に送られ帰ってくる優雅が思い浮かんできて。
(松村さんのなかでは誰が横を歩いてるんだろう……)
「あ、大丈夫です。僕男なんで全然。走って帰りますから」
早口で行って「じゃ」と手を上げる。
陸郎もあっさりと「そう」と言って背を向けた。
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