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第六章『涙のバースデイ』
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しおりを挟む「お前、今日どこ行ってたんだ?」
帰るなり玄関先で問いつめられた。
「どこって、友だちと水族館に行ってたよ」
しらーっとした感じで答える。
「友だちって? 誰?」
「お兄ちゃんの知らないヤツだよ」
何がそんなに気になっているというのか。今まで僕のことはたいして興味も示さず、こんなふうに問いつめられたことはなかった。
(相手が陸郎さんだって疑ってるのか?)
「彼女とかなのか?」
(彼女だって言えば安心するのかな。いっそ相手が陸郎さんだって言ったらとんな顔するんだろう)
そう思って口を開きかけたけど、やっぱり内緒にしておくことにした。余計に邪魔されそうな気がして。
「何? 執拗いんだけど。彼女かどうかなんてお兄ちゃんに関係ないじゃん」
「なまいきっ」
びしっとデコピンされた。
「いてっ」
それ以上は何も言わず優雅の横を通り過ぎて急いでリビングを抜けた。
そんなやりとりがあったことは陸郎には伝えなかった。やっぱり優雅が陸郎にある種の執着があることを知ったら陸郎は喜ぶのだろうか。そんな彼の気持ちを知りたくなかった。
優雅は絶対に陸郎の気持ちに応えることはできない。一番望んでいる結末にはならない。それがわかっているから告白して離れようとしたんだ。
それなのに優雅は他の誰かが以前の自分以上に陸郎の傍にいることが嫌なんだ。自分が一番だと思いたいんだ。
(ずるいな、優雅は)
そして陸郎はそんな優雅に応えてしまうんだ。
* *
本当に彼女に別れたのか、その後も優雅の気まぐれは収まらなかった。陸郎が大学に足を運ぶ三日のうち一回は必ず断りの連絡がやってくる。
「優雅に誘われた?」と問いただしたいがそんなことできるはずもない。
(僕は優雅の代わりだ。本物には敵わない。それに今の僕は本心を隠して軽いノリで『恋人ごっこ』をしているだけ)
陸郎をカフェで待ちながらずずーっとアイスカフェラテをすする。だいぶコーヒーの苦みにも慣れた。といってもまだカフェラテくらいだけど。
(陸郎さん、遅いな……また優雅に誘われたかな)
昨日、火曜も陸郎から断りの連絡を貰った。
(二日続けてか……)
連絡が遅くなる日もあって、連絡が来なくても二十分くらい経つと諦め始める。
「温くん」
声をかけられて顔を上げる。
考えれば全然違う声なのに願望が陸郎の声だと思わせてしまった。
「あれ、三瀬さん」
めいっぱいの笑顔をあからさまに落胆に変える。それが相手にはっきり伝わってしまった。
「酷いなぁ、今、めっちゃがっかりしたでしょ?」
「え、そんなことないですよ~」
軽いノリに軽く答える。
三瀬洸。バイト先の先輩で桜葉大の二年生だ。
僕は三月後半から大学の最寄り駅前のファミレスでアルバイトをしていた。履修の整った今は日曜を含め週三回ほどシフトに入っている。
大学内で彼に会ったのは初めてだった。
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