40 / 58
第六章『涙のバースデイ』
4
しおりを挟む
「なんだか揉め始めたからそのまま置いてきた」
「はあ」と大きな溜息を吐く。心底疲れた様子だ。
「お疲れ様です」
僕のことなんて放っておいてもいいのに僕の為に好きな男と言い合いをし、その上好きな男とその彼女が一緒にいるのを見るのはさぞ辛いだろう。僕は彼に同情した。
(でもやっぱり少し嬉しい。だって優雅より僕のほうを選んでくれたんだから。昨日は優雅を選んだけど)
「陸郎さん」
「ん?」
「はいご褒美。あーん」
僕は突如そんなことをしたい気持ちになり、自分の皿から手つかずのサンドウィッチを陸郎の口の前に差しだした。
陸郎が応えるとは思ってなかった。「いらない」と言われるか、いいとこ手で受けとるかのどちらかだろうと。
それなのに。
少し考えているような間のあと彼はパクっとサンドウィッチを食む。途中で噛みちぎって咀嚼する。
冗談のつもりで差しだした僕自身が吃驚して固まってしまった。彼が咀嚼しているのを黙って見つめる。
口の中のものを飲みこんだ彼は再び口を開ける。僕をも食べそうな勢いで残りのサンドウィッチに噛みついた。彼の歯が手を離すタイミングを外した僕の指に少し当たった。
「ぅ……っ」
慌ててサンドウィッチを離すと、それは陸郎の口の中にすべて消えていった。
強く噛みつかれたわけでもないのに歯が触れた指が熱を持っているかのように熱く、心臓は煩く鳴り響いている。
「ごちそうさま」
最後にぺろっと舌を出す陸郎に初めて見るような色気を感じ、思わず視線を逸らしてしまった。
(はぁ……『あーん』の破壊力すごすぎるっ)
どきどきはまだ止まらないけど、僕は何事もなかったように残りのサンドウィッチを食べる。全部食べきったころには少し落ち着いてきた。
「優雅は……矢尾さんとは別れてなかったのかな……」
独り言だった。
「さあ……どうだろう」
陸郎に言うつもりじゃなかったけど、聞こえてしまったみたいで、その声で初めて気づいた。彼の声は平坦でどんな気持ちがこめられているのかわからない。
(……陸郎さんはどう思っているんだろう。やっぱり彼女と別れてたほうか嬉しい?)
さすがにそんなことは訊けなかった。
「あの……陸郎さん。僕が強引にした約束だから、用事ができたら気にせずにそっち優先でもいいです。連絡しなくても来なかったら適当にやってますから……その……兄とでも……」
眉間に皺が寄りそうになるのをぐっと押さえてにこっと笑った。そんなこと何でもないというように。
陸郎は僕の表情を読み取ろうとしてるかのように見つめてきた。それからぼそっと言った。
「……でもやっぱり友だちより恋人優先だろ」
「え?」
(なに今の? えーっと冗談? それとも友だちから『恋人ごっこ』に昇格した?)
「はあ」と大きな溜息を吐く。心底疲れた様子だ。
「お疲れ様です」
僕のことなんて放っておいてもいいのに僕の為に好きな男と言い合いをし、その上好きな男とその彼女が一緒にいるのを見るのはさぞ辛いだろう。僕は彼に同情した。
(でもやっぱり少し嬉しい。だって優雅より僕のほうを選んでくれたんだから。昨日は優雅を選んだけど)
「陸郎さん」
「ん?」
「はいご褒美。あーん」
僕は突如そんなことをしたい気持ちになり、自分の皿から手つかずのサンドウィッチを陸郎の口の前に差しだした。
陸郎が応えるとは思ってなかった。「いらない」と言われるか、いいとこ手で受けとるかのどちらかだろうと。
それなのに。
少し考えているような間のあと彼はパクっとサンドウィッチを食む。途中で噛みちぎって咀嚼する。
冗談のつもりで差しだした僕自身が吃驚して固まってしまった。彼が咀嚼しているのを黙って見つめる。
口の中のものを飲みこんだ彼は再び口を開ける。僕をも食べそうな勢いで残りのサンドウィッチに噛みついた。彼の歯が手を離すタイミングを外した僕の指に少し当たった。
「ぅ……っ」
慌ててサンドウィッチを離すと、それは陸郎の口の中にすべて消えていった。
強く噛みつかれたわけでもないのに歯が触れた指が熱を持っているかのように熱く、心臓は煩く鳴り響いている。
「ごちそうさま」
最後にぺろっと舌を出す陸郎に初めて見るような色気を感じ、思わず視線を逸らしてしまった。
(はぁ……『あーん』の破壊力すごすぎるっ)
どきどきはまだ止まらないけど、僕は何事もなかったように残りのサンドウィッチを食べる。全部食べきったころには少し落ち着いてきた。
「優雅は……矢尾さんとは別れてなかったのかな……」
独り言だった。
「さあ……どうだろう」
陸郎に言うつもりじゃなかったけど、聞こえてしまったみたいで、その声で初めて気づいた。彼の声は平坦でどんな気持ちがこめられているのかわからない。
(……陸郎さんはどう思っているんだろう。やっぱり彼女と別れてたほうか嬉しい?)
さすがにそんなことは訊けなかった。
「あの……陸郎さん。僕が強引にした約束だから、用事ができたら気にせずにそっち優先でもいいです。連絡しなくても来なかったら適当にやってますから……その……兄とでも……」
眉間に皺が寄りそうになるのをぐっと押さえてにこっと笑った。そんなこと何でもないというように。
陸郎は僕の表情を読み取ろうとしてるかのように見つめてきた。それからぼそっと言った。
「……でもやっぱり友だちより恋人優先だろ」
「え?」
(なに今の? えーっと冗談? それとも友だちから『恋人ごっこ』に昇格した?)
12
あなたにおすすめの小説
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
僕は今日、謳う
ゆい
BL
紅葉と海を観に行きたいと、僕は彼に我儘を言った。
彼はこのクリスマスに彼女と結婚する。
彼との最後の思い出が欲しかったから。
彼は少し困り顔をしながらも、付き合ってくれた。
本当にありがとう。親友として、男として、一人の人間として、本当に愛しているよ。
終始セリフばかりです。
話中の曲は、globe 『Wanderin' Destiny』です。
名前が出てこない短編part4です。
誤字脱字がないか確認はしておりますが、ありましたら報告をいただけたら嬉しいです。
途中手直しついでに加筆もするかもです。
感想もお待ちしています。
片付けしていたら、昔懐かしの3.5㌅FDが出てきまして。内容を確認したら、若かりし頃の黒歴史が!
あらすじ自体は悪くはないと思ったので、大幅に修正して投稿しました。
私の黒歴史供養のために、お付き合いくださいませ。
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる