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第六章『涙のバースデイ』
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十三時に改札前に待ち合わせ。
二つ先の駅で降りて、ショッピングモールで遊ぶ。
その後一駅戻って歩いて海岸に出る。
十八時から『セレニタ』でディナー。
朝から何度も考えて自然とうきうきしている。
そしてもう一人同じようにうきうきしている人間がいた。
洗面所を使おうとしたら先に使われていた。ドアを開けて壁に寄りかかって見ている。
(いつ終わるんだろう)
「なんだ温、お前も出かけるのか?」
「お兄ちゃんも?」
「ああ、9時くらいに出る。夜はいらないよ」
鏡を見ながら丁寧に髪をセットしている。
「ずいぶん早いね、デート?」
「さぁ、どうかな。お前は?」
ふふっと意味ありげに笑う。
「僕は午後から出かけるから、また後にするよ」
僕はその場から離れた。
この時なんとなく胸の中に靄が広がるような感じがしたんだ。でも『そんなこと』はありえないと、僕は気づかなかったことにした。
* *
優雅が慌ただしく出ていくのを眺めながら、デートでも行くのかなと呑気に考えていた。
僕も朝からそわそわしていて出かけるまでに時間があるのにもう身支度を整えようとしていたけど、バタバタしている優雅を見ていたら逆に気持ちが落ち着いてしまった。
自室でショッピングモールやセレニタのサイトを見たり、セレニタ近辺の画像を見たりしていた。どうやら駅からセレニタまでの道のりは、クリスマスとか関係なく一年中イルミネーションで飾られ密かに恋人たちの散歩道のようになっているらしい。
陸郎と並んで歩く姿を想像しながらにやついていると着信音がした。
本当に嫌な予感ほど当たるものはない。
「え? 電話?」
普段陸郎から電話で連絡がくることはない。ラインもほぼ僕からすることがほとんどで彼はそれに返信をする。彼からくるのはたいてい断りの連絡だ。
電話でくるなんて余程の急用だろうか。
(もしかして……具合でも悪くなったんじゃ……)
そのほうがどんなに良かったか。
「陸郎さん、おはようございます。どうしました?」
内心のどきどきを悟られないように明るい声で言う。
「ごめん、今日ちょっと用事ができてっていうか……陸上部の連中が押しかけてきて、用事あるからって言っても聞かなくて」
そんな申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
(陸上部の……)
確かになんだか傍でがやがやと騒がしい。
浮かんだのは今朝の優雅だ。
たぶん陸郎にとって、一番一生懸命で一番輝かしくて楽しかった時代の仲間だ。僕なんかよりもずっとずっと大事なはず。
優雅は陸郎が断れない状況を作ったんだ。
頭が真っ白になった。
「今日……だめなんですか?」
もう明るい声なんて出せない。経験豊富でどんなことも動揺しない自分は演じられない。
「……いや、夕方までにはなんとか抜けだすから」
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