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聖愛に入学してからひと月程が経った。
オレは相変わらず他人の眼が恐くてクラスに馴染めず、冬馬の方は体格も精神年齢も二つ三つ差がある周りとは合わないようだった。
何処か浮いた存在のふたりは、クラスも違うのに休み時間はよく一緒にいた。クラスも学年もバラバラになる食堂での昼食時も、特に約束もしていないのに互いを見つけて一緒に食べることが多い。
一年生はまだ昼食後の授業はほぼない。オレはその後、大抵はカンナの練習室でピアノを弾いている。
今日もいつものお気に入りの部屋で独りピアノに向かっていた。
防音の為には窓を開けない方が良いのだが、今日のように気持ちのいい陽気の時には、少し開けて風を入れる。
「し~う」
開いた窓からオレの名を呼ぶ声がした。誰の声だかすぐにわかる。
オレは鍵盤を滑らせていた指を止める。“聖愛の森”が見える右側の窓を覗き込む。やっぱり、冬馬だった。彼はオレと目が合うと、おいでおいでをするように、大きく手を動かした。
オレは急いで窓を閉め、部屋を出た。階段を駆け下り、木戸を抜け、冬馬に走り寄った。
「どうしたの?」
少し息を切らしながら言う。そんなオレの背を擦りながら、
「ついて来いよ」
と言うと、背から手を離して、オレの手を軽く握った。
聖愛は多くの花や木々が整然と植えられている。しかし、聖愛の寮の後ろ側、カンナから見ると右側を、どんどんと奥に進んで行くと、木々が密集した森のような場所がある。
オレが勝手に“聖愛の森”と呼んでいるところだ。遠くから見ているだけで、まだ一度も踏み込んだことがない場所。
オレの手を引いて、冬馬は少し薄暗い、道もない木々の中を何の躊躇いもなく進んでいく。オレの方は学園の敷地内だというのに、一人では戻れないような気がしていた。
緩やかな坂の勾配が徐々にきつくなり、登り詰めた先の森の中に、ぽっかりと空間が空いていた。頭上から太陽の光が射し込んでくる。その空間には切り株が幾つかあって、まるで椅子のように見える。
冬馬は切り株のひとつに座り、オレにも座るよう手を引いて促した。それ程大きくない切り株にふたりでくっつくようにして座った。
「ここ、良くないか?何度かここに来たけど、誰にも会ったことがない。建物から遠いし、道らしい道もないし、ここに来るまでけっこう薄暗いし。お上品な聖愛の坊っちゃん嬢ちゃんは、たぶん、誰も来ない」
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