Crescendo ──春(ハル)ノクルオト

さくら乃

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「時間があったら、あそこに来いよ」
 と、冬馬は言った。
 しかし、それから雨が続き、到底秘密基地にいるとは思えなかった。
 放課後は連絡を取らない限り何処にいるか分からなかったし、取る気にもなれなかった。昼休みは食堂で見かけもしたが、やっぱり近づくことができない。

 一週間ぶりの晴れ間。
 オレは聖愛の“森”に足を踏み入れ、“秘密基地”へと向かう。坂を登り切る手前、彼らの姿が見えると足を止めた。

 じっとふたりの様子を見つめる。

 連日の雨で土はまだ湿っている。今日はふたりとも木の根元に座っている。
 他に誰がいるわけでもないのに、内緒話でもするように顔を近づけて話をしている。冬馬の癖なのか。オレにもよくあんな風に耳許に口を寄せて、話しかけてきた。

 それなのに、オレの時とは何処か違うような気がして胸がもやっとする。
(はあ、やっぱ、ダメ)
 オレはゆっくり半回転し、今上がって来た坂をとぼとぼと下っていった。

( 何も気がつかないフリをして声をかければいいじゃないか。このコ誰?っていつもの調子で訊けばいい )

 このまま冬馬に会えないのは、辛い。かといってふたりきりで会えば、感情的になってしまいそうだ。
 いつものオレ、いつもの少し嘘の自分が混じった、調子の良いオレ。そんな自分で声をかけるんだ。

( 明日こそ。明日、もし晴れたら…… )


 翌日、快晴。
 夏のような空だ。
 今日、オレは首にカメラを下げている。
 昨日と同じように坂を上って行くと、以前見たのと同じ光景が眼に入った。太い木の幹に凭れかかり、本を読むアイツ。その太股の上に頭を載せ、眼を瞑っている冬馬。

 一枚の完成された絵画のような光景 ── 静かだった。

 一瞬くらっと眩暈のようなものを感じ、また気持ちが揺らぐ。しかし、気を取り直して少し近づき、草の上に腹這いになった。昨日今日の晴れ間で土も草も、もう乾いている。

 カメラを構える。ファインダーは覗かない。
 カシャッ ── いったい何が撮れてるやら。

 シャッターを押す瞬間も肉眼でふたりを見ていた。
 シャッター音がした途端、びくんっとこちらを見た少年と、ガバッと起き上がった冬馬。ふたりの作り上げた世界が崩れ、ほんの少し胸がスッとした。

「いい構図、いただきっ」

 オレは殊更明るい声を出す。悪戯っぽく笑い、ふたりに近づいていく。
「驚かすなよ、詩雨」
 冬馬は彼を自分の背の後ろに隠していた。

(いったい誰から守ろうとしてる? ── オレからだっていうのか?)

 胸に暗い陰を落とす。

「驚いたのはこっちだ。秘密基地ここに、他のヤツ連れ込むなんて。オレのいない間に浮気かぁー?」

 おどけたように言うが、まるっと本音だ。
    
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