39 / 123
─ 38
しおりを挟む冬馬がもし望んでくれるなら、彼と繋がりたい。それが例え、身代わりだとしても。
オレが手を離しても、冬馬の手はゆるゆると胸を彷徨っている。再び小さな頂きに辿りつくと、軽く爪を立てそこを引っ掻く。
「んっ」
オレは小さく声を零した。こんな感じる筈もないところでも、冬馬に触れられれば不思議とぞくぞくしてくる。
オレはもう一度キスをしたくて顔を近づけた。
「冬馬……いいんだよ、秋穂の代わりにしたって」
彼の唇を見つめながらおもむろに言う。
しかし、それを聞いた途端、冬馬の身体は硬く強張った。胸に触れていた手も止まる。
オレは視線を唇から彼の眼へ、パッと移した。
その瞳にはもう熱はない。正気の冬馬 ── いや、それよりももっと冷たい色を湛えている。
「それは、駄目だ」
低く、怒りを含んだ声。
冬馬はTシャツの内から手を引くと、軽くオレを突き飛ばした。スッと立ち上がり身なりを軽く整え何処かへ行ってしまう。
オレはその場にへたり込んだ。
( 地雷、踏んだか…… )
立ち上がれずにいるオレの傍らに足音が近づき間近で止まった。ふんわりと頭の上から何かがかけられた。
洗濯された清潔なバスタオル。
「早くシャワー使え」
どんな顔をしてそう言っているのか、オレは見ることができなかった。バスタオルで顔を隠したままバスルームに飛び込んだ。
冬馬が出ていく音が微かに聞こえてきた。
彼の言った「駄目だ」という言葉。秋穂のことだけではなく、たぶんオレのことも思って言ったのだろう。冬馬らしい考えだ。そうは解っていても、少しもオレの心は軽くならない。
( もう……だめだな。取り返しのつかないことをした )
バスルームの冷たいタイルの上から動くことができない。
( もう、嫌われたなら、それでもいい。ざまーみろ、秋穂より先に冬馬にキスしてやった )
オレの口から乾いた笑い声が、涙と共に零れて落ちた。
翌日。オレはふたりとは別れ、家路に着く。
あの後天音にメールを送った。眠れないまま朝になり、六時くらいに天音から返信が来た。
── 十時頃、そっちに着く ──
そして、オレはその時間まで部屋を出なかった。
突然のことで吃驚している秋穂と、何の表情もない冬馬。
「じゃあ」
暗い声で一言別れを告げる。冬馬は最後まで口を開かなかった。
前のように、なかったことにもしては貰えなかった。
0
あなたにおすすめの小説
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
有能課長のあり得ない秘密
みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。
しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる